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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
3章 【エルフの里で見上げた月】

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3章19話:エルフの里の遺跡



 無詠唱無呪文の召喚術。それは、『自分の所有物』に限り行うことができる。

 メリットは慣れれば瞬時に自分の手へ取り寄せることができること。集中力を必要とせず、呼吸をするかのように。利便性が高い。

 デメリットは前述した通り自分の所有物に限ること


 ちなみに、フミーの日記帳についている持ち主追跡機能が似たような仕組みになっている。



———



「無詠唱無呪文の召喚術だけじゃなく他にも色々教えてやるよ」


 フミーを瞳に映しなら、お祖母様は一歩前に出る。息がかかりそうなほど近い。


「せっかく渡した槍が盗まれた落とした壊されたじゃ、あたいは悲しいのさ。だから、槍を守れるだけお前を強くする。お祖母様が直々に叩き込んでやる」


「わかった。よろしくお願いします」


 頷いて、黄橙の瞳に吸い込まれるように返事をした。


 こうしてフミーの修行は始まる。


 修行と聞いてフミーが想像したのは滝に打たれることだったが、実際は地味なもので、「まずは体力作りなのだよ」とお使いと称してエルフの里を走らされ、息を切らしながらも里の住人と仲良くなり、腕立て伏せの限界に挑戦させられ筋肉の悲鳴を上げさせられたりした。


「よし、休憩だ! 旅館でひとっ風呂浴びてこようぜ!」


 賛成だ。汗だくで気持ち悪いし。

 

 そうして、お祖母様と共に旅館へ。

 旅館の玄関を潜ると、聞き慣れた声があった。


「あ、フミー」


 いつもは結っている髪をほどき、湿気った髪を流していた。紫の浴衣をはだけさせながら着ていて晒が見える。


「リーゼ!」


 フミーは、リーゼの胸へ飛び込む。リーゼはバランスを崩してフミー諸共倒れ込んだ。


「あぶねぇな……ってか、お前なんか雰囲気変わってね?」


「髪切ったからかな。それとも和装だからかも」


「あー、確かに短くなってんな」


「似合う?」


「わからん。てかどけろ」


 言われて、リーゼの上から退ける。

 立ち上がったリーゼは、尻を打ったようで「いってぇ〜」と、さすっている。

 顔を見れた嬉しさのあまり飛びついたのだが、申し訳ない。


「リーゼもいつも雰囲気違うね」


「そうか? まぁ、お前と一緒で髪型も服装もいつもと違うからか」


 腕を組みながらリーゼは首を傾げた。


「ところでネオとアヤートさんは?」


「え、ここにいないの?」


「ゴホン」


 リーゼとフミーの会話に咳払いでお祖母様は入ってくる。


「ずっといたが、どちらさんの子だ? エルフじゃなさそうだが」


「アタシのお祖母様だよ!」


「え、フミーよりちっこいぞ——いたぁッ」


 リーゼの問いにフミーが答えれば、リーゼは驚くようにお祖母様を見下ろし、チョップされた。


「お前がリーゼちゃんか、年上に対する敬意はないのか?」


「サーセン」

 

 眉を吊り上げるお祖母様へリーゼは雑に謝った。その態度に物申したそうであるが、「まぁいい」と大人の威厳を見せるためかお祖母様は引いた。そして、改めてリーゼを見つめる。


「……クロシェットと一緒なはずではないのか? あいつはどこだ、労ってやらねばならん」


「それなら少し前に出て行っ——」


 リーゼが言いかけたところで、騒がしい足音がこちらに近づいてきた。

 そんな音と共に鈴の音のような声が聞こえてくる。


「リーゼちゃーん、ネオンちゃんとアヤートくんはどうやら里の住人に頼まれて遺跡に向かったみたいだよ」


 現れたのは黒髪でマントを身に纏うエルフの女性、クロシェットだ。


「あ、フミーちゃん!」


 クロシェットはフミーに気づき、瞳を輝かせて駆け寄ってくる。


「クロシェット! リーゼ見つけてくれたんだね、ありがとう!」


「いいのよ〜」


 お礼を言われ、はんなり微笑えむクロシェットは可憐だ。


「クロシェット、よくやったな。あたいの頭を撫でてもいいぞ」


 お祖母様はクロシェットの肩を叩いて誇らしげに目を細めた。


「いいんですか!? それではさっそく」


 お祖母様が許可した通り、幸せそうに頭を撫で始めるクロシェット。

 撫でられたまま、お祖母様は口を開く。


「ネオンちゃんとアヤートが遺跡に向かったってさっき言ったよな」


 確認するようなお祖母様にクロシェットは頷いた。


「ええ。遺跡に住み着いた魔物を退治して魔物避けの付与魔法を施すように里の人たちが頼んだようです」



———



 静寂な空間の石の床へ靴音を響かせながら、二人は通路を進んでいく。薄暗く、空気は湿気っている。

 エルフの里の隅にひっそりとそれは存在している遺跡。魔物が住み着くようになったというそこへ、ネオンとアヤートは足を運んでいた。


「……」


 そっとネオンが指先で触れた石壁は冷たい。そこには殴り書きのような文字が書かれている。

 丸みを帯びていたり角ばっていたり、統一感のない文字だ。


「なんて書いてあるんだい?」


「さぁ、わかりません」


 好奇心を宿した瞳のアヤートに尋ねられるも、ネオンはその文字を知らないため答えられない。

 多数の言語を取得しているネオンだが、見覚えすらない文字だった。

 世界がひっくり返るようなとんでもない真実か、エルフの里の歴史か、ただの落書きか、それすらもわからない。


 そんな文字から遺跡の奥へと視線を移し、二人は足を早める。

 ここまで魔物と遭遇していない。となれば、この奥にいる。

 どれくらいの数なのか強さはどれくらいなのか見当もつかないが、負ける見当もつかない。ネオンとアヤートが揃っていて負ける存在など、全くいないとまでは言えないが、ごく一部の存在に限る。


「……フミーは大丈夫だろうか?」


 娘のことを思い描くアヤートの瞳は憂慮を孕んでいる。


「ルルーミャさん、かなり強いですよね。彼女と一緒いるなら大丈夫じゃないですか?」


「母さんと一緒だからだよ。僕に修行をつけてきた時なんて酷かったからね。体力作りと称して100キロ近い丸太を背負って走らされたり。……流石にフミーに同じことさせてないと信じたいけど」


 苦笑いをするアヤートはどこか遠くを見ていた。


「あぁ、そういうことですか。フミーはガッツがあるので大丈夫でしょう。」


 それは、気休めの言葉などではなく、確かな信頼だ。フミーをこれまで見てきたネオンが実感していることだった。

 それでもアヤートは何か言いたげな顔だったが、異音が聞こえてきた途端にその顔つきは変わる。


「ノノノ、ノノノ、ノノ、ノ——」


 しゃがれた低い鳴き声が空気を震わせる。ネオンとアヤートはその場にピタリと立ち止まり、臨戦体制を作る。


 引きずるような何かが地を這う音と共に鳴き声は近づいてきた。

 何かが二人へ迫っている。

 そして、その足音は一つではない。



「ノノノッ!!」「ノノ」「ノノ、ノノノ」「ノノノノノノノ」「ノノノ……っ!」「ノ、ノ、ノ」

「ノノノ」「ノノ!!!」「ノー!」「ノノノ、ノッ!」「ノノー、ノノー」「ノ!ノ!」「ノッ、ノノノッ」



 ———。


 不気味に重なり合う鳴き声の合唱。


 その集団は、軽く数えて30匹はいることが確信できる。


「……」


「……」


 ネオンとアヤートは言葉を発することなく視線を交わせ、頷く。

 この戦いは少し疲れそうだ。そんな意識が共有されたのだ。

 

 そして、石垣の影からいよいよ、それは姿を現した。


 大きさは大小バラバラで、大きいもので3メートルを超える一方、小さいものだと30センチ程度。

 胴の太い蛇のような外見で、鱗が鈍く光る。


「ツチノコ……」


 その魔物の名をアヤートは声に警戒を滲ませて小さく呟いた。


 ツチノコ——それは、姿を見た者に幸運を運ぶという言い伝えがある一方、猛毒を持っているため決して触れてはいけない魔物である。

 

 事前に蛇のような魔物がいるとエルフの里の住人から聞いてはいたが、それがツチノコでこんなにも大量にいるとは思いもよらなかった。

 これだけの数に、一斉に飛びかかられることを想像すれば強者であれ恐ろしい。

 ネオンは毒が効かない体質であるが、アヤートはそうではない。そして、後ろの道にツチノコはいない。ネオンは、いざとなればアヤートに自分を置いて逃げることを提案することだろう。魔物を殲滅させた代償に毒を喰らうなど笑い話にもならない。



「ノノノノノっ」



 突然、何もいなかったはずの背後から鳴き声が聞こえ始め、ネオンとアヤートは背筋を伸ばす。振り返らなくても、背後にそれは現れたのだと悟る。

 ツチノコに前後で挟まれた。後ろの逃げ道の消失を表していて、二人に緊張が走る。

 どうやらツチノコは知能がそれなりにあるらしい。

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