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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
3章 【エルフの里で見上げた月】

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3章15話:天使の囁き


「父様!」


「フミー!」


 お祖母様と話を終えたようで旅館へ戻ってきた父様と、再会するなりフミーは抱きつく。

 

「怪我はなかったかい? あとその髪は……」


「怪我はなかったよ! 髪は邪魔だったから自分で切ったの!」


 フミーの頭を撫でながら問いかける父様へ元気よく答える。

 怪我は完全回復させてもらい、ボロボロの服からミニ丈浴衣に着替えている今のフミーからは、怪我をしていた痕跡などない。だから、そう答えた。

 フミーの隣にいるネオンは怪我をしたフミーなど見てないので何も言わない。父様の後ろにいるお祖母様は、しっかりフミーが怪我をしていたことを知っているので、少し賭けのようなものだった。


「……」


 お祖母様は何も言わない。何食わぬ顔で口をつぐんでいる。

 直感的に、その結果は予測できていたことであるが、一安心だ。短時間だが一緒に過ごした祖母様を信じられてよかった。


「そうか……。魔物に襲われたりもなかったのかい?」


「心配すぎだよぉ! 途中までクロシェットって言うエルフの女の人に出会って案内してもらったし、その後はお祖母様に案内してもらったから平和だったよ」


 父様の問いかけに、明るくフミーらしく答える。

 父様に心配をかけたくないなんて殊勝な気持ちからではない。ただ、言いたくない。それだけである。


「ああそうだ、お前らにも槍見せてやるぜ」


「槍……!? それって……!!」


 フミーとネオンと肩を組み体重をかけながら発したお祖母様の言葉に驚きの声を出す。

 思い当たるは一つしかない。

 何故、エルフの里へ来たのか。その本来の目的は決して忘れやしないのだから。


「アヤートと交代だ。フミー、ネオンちゃん、ついてくるのだよ」



———



 フミーとネオンが連れられて来た場所は、地下だ。


「ドットルーパのアジトに潜入した時を思い出すね」


「ありましたね、そんなこと」


 あれはランタンによって道が照らされていたが、今回はお祖母様の魔法による光で照らされた道だった。


「てかアヤート。お前なんでまたついてきてるんだ? もう見ただろ」


「やることないんですよ。いいでしょう」


 お祖母様と父様が気安い調子で言葉をかわす。

 お祖母様に対する時の父様は敬語でありながらどこかぶっきらぼうだ。それが新鮮でおもしろいとフミーは思う。


「ついたのだよ」


 湿気った空気が漂う石垣の廊下を歩けば、木箱が置いてある場所に辿り着いた。


「……!」


 地面に寝そべるその木箱は不思議な引力があり、目を離せない。


「これが、チョジュラスの槍だ」


 お祖母様が木箱の蓋を開ければ、その姿は現れる。

 闇色に染まり、邪気を放つそれからは目を逸らしたくなるが、それでも逸らせない。


「これが……チョジュラスの槍ですか……」


「触ってみてもいいよ。おすすめはしないが」


「なら遠慮します」


 触ってみていいと言いつつおすすめはしないお祖母様にネオンは苦笑いで断る。


「……」


「フミー?」


 ずっと言葉を失うフミーを父様は気にかけるが、それに答える余裕はない。


 ドクン、ドクンと何かを告げるようにフミーの鼓動は高鳴っているのだ。


「……っ」


 落胆、空虚、驚き、ときめき、幸福、悲しみ、失意、憎悪——フミーの中で渦巻くそれは、フミーのものではない。風に煽られるように当てられたものだ。しかし、それが重くのしかかり、汗が頬を伝う。


 ——その思念が何のものなのか。そんな謎かけ、簡単だ。


 膝をつき、木の箱を覗き込んで、フミーはそれへ手を伸ばした。




 ———。




 眩い光が溢れ出し、視界は白く覆われる。世界が粉々になるかのような衝撃と、世界を抱擁するかのような慈愛の温かさに体は痺れ、動くことはできない。

 否、本当は自由に動けているのではないのか。自分の肉体すら白く溶け込み認識できないだけなのではないか。現に、視界は白一色だ。

 何も見えない、何も感じない、何も聞こえない、何も匂わない。

 何も——


「フミー」


 何もなかった空間に、声が響いた。

 優しく、甘く、慈愛に満ちた女性の声が名前を呼んだ。その声が世界を震わせた次の瞬間——


「初めまして、かな。一応」


 白い空間へ降り立つ存在がいた。

 本当に同じ世界を生きる者なのかと疑いたくなるような別次元の輝きを白い世界へもたらすは、大きな白い翼を広げる美しい女の人だ。

 いや、人と呼ぶのは間違いか。


「——天使」


 気づけば口を動かして、言葉を発することができていた。紡いだ単語は、その姿の存在を表すのに丁度いいものだった。


「そう、私は、愛する人を失い、槍になった天使です」


 フミーの呟きを肯定し、自虐的に微笑む天使。


「そしてあなたは、『私』である槍へ触れてここに導かれた少女」


 夫を失った悲しみで灰になった天使。その天使の灰で作られたチョジュラスの槍。チョジュラスの槍を知るきっかけとなった本『命の槍』に書かれていたことだ。

 彼女がその天使であると言うのか。


「あなたは——」


「『メヴィ・ソラシア』という呪文を覚えているでしょう」


 質問しようとしたフミーの言葉はかき消される。


「それを使ってください。そうすれば、槍は完全に浄化され、あなたの愛する人を生き返らせることができるでしょう」


「……!! 本当!?」


 喰らいつくように大きな声を出した。

 求めていたものがいよいよ手に入ると思えば、昂る気持ちは抑えられない。


「ええ。7スコア集める必要がありますけど」


「……? スコア?」


「詳しく説明してる暇はないので鑑定能力持ってる誰かにでも槍を見せてくださいな」


「鑑定能力……」


 思い当たる人物は一人しかいない。リクだ。

 後で彼に見せれば良いのか。反動のある能力をまた使わせることになるのは心苦しさがあるが、仕方ない。


「……ただ一言で言うなら、長寿や強い再生能力を持つ者の犠牲で成り立つ力です。何のデメリットもなしに生き返らせるとかできないですよ。それは覚えていてください」


「……」


 フミーを濁りなき眼で見つめながら、釘を刺すように宣言した。

 ——犠牲。その言葉はフミーへ重くのしかかる。だが、それで揺らがぬように耐えるように唇を噛むフミーへ天使は近づいた。


「会えてよかった、フミー。よければ、私を浄化しようとしてくれたルルーミャにもお礼を伝えてくださいな」


「私も、会えてよかったと思う。でも、なんだか初めて会った気がしないや」


「ふふっ」


 ——笑って、天使はアタシを抱きしめた。温かい。


「では、『メヴィ・ソラシア』を使ってくだい」


 天使を抱き返しながら、言われた通り唱える。


「メヴィ・ソラシア」



  ———。



 白一色の世界は切り刻まれるように崩壊し、元いた世界へ回帰する。


 触れている白い槍、槍の熱い温度、「フミー」と名前を呼ぶ声、湿気った空気の匂い——。


「槍が……浄化された!?」


 驚くお祖母様の声が、フミーの鼓膜を震わせる。


「フミー、何をしたのです?」 


「えっと……なんか引き寄せられて触れただけ……」


 問いかけるネオンに何と答えるべきか悩んだが、混乱させるだけだと判断し天使のことは伏せた。ついでに『メヴィ・ソラシア』のことも。


「槍のことはともかく、フミー、ボーッとしていたけど大丈夫かい?」


「うん」


 父様に心配されてしまったが、どうやら天使との会話の感覚の割に時間はあまり進んでいないようで、数秒ボーッとしていたという認識のようだ。


「何はともあれ、やったなフミー!!」


「わっ」


「これで生き返らせられるぞ!」


「……! うん」


 お祖母様は槍を指差しながらもう片方の手でフミーの肩を嬉しそうに叩く。

 お祖母様だけではない。父様もネオンも笑みを浮かべて喜んでいた。それに合わせてフミーも口角を上げる。

 フミーだって当然、喜ばしい。

 しかし、忘れてはいけない。


 ——犠牲で成り立つ力。何のデメリットもなしに生き返らせるとかできない。


 そう言っていた天使のことを。


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