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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
3章 【エルフの里で見上げた月】

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3章14話:穢れし槍




「ん、ん〜」


 目を擦りながら、フミーは体を起こす。


「目、覚めましたか」


「あっ、ネオン。おはよう!」


 読んでいた本から視線を上げたネオンへ朝の挨拶をした。


「おはようと言う時間ではないですけどね。おはようございます」


 ネオンの言った通りそんな時間ではなく、時計の針が11時を回っている。もうすぐ正午だ。明け方に寝たのだら、それも当然か。


「父様は?」


 父様が寝ていたベットがもぬけの殻であることに気づいたフミーはネオンへ尋ねる。


「ルルーミャさんに呼び出されてどこに行きました」


「お祖母様とか」


 それならば、仕方ない。

 久しぶりに再会した親子なのだし積もる話もあるだろう。フミーもそうであった。


「じゃ、リーゼは?」


「まだです」


「そっかー」


「森林は広大ですからね。慌てず気長に待ちましょう」


「……」


 そこで、ネオンが読んでいた本が逆さまでたることに気づくも、ツッコむのは野暮な気がした。



———



「で、どうだ。ぐっすり休めたか?」


「ええ。おかげさまで」


 苔の生えた岩にどっしりと足を広げて座るルルーミャと相対するのは、黒に近い灰色の和装を着たアヤートである。

 場所は、旅館の庭。その場にはその親子しかいない。


「フミーから色々聞いたよ。いい娘を持ったな」


「本当にそれはそうですよ。あんないい子、他にいません」


 如何なる理由があったとしても自分を長い間、幽閉して放置していた親など憎しみを持ってもおかしくない。それを幽閉される前と変わらず慕ってれるのがフミーだ。

 アヤートだって、現在目の前にいる親に同じことをされたらきっと恨んでしまう。


「しばらく会えなくて悪かったな。あたいがこんなとこに閉じ込められてなきゃ、フミーだってどうにかできたかもしれないのに情けないぜ……」


「え」


 サラッと知らない情報をぶつけられ、アヤートは固まり、唖然とする。


「ん? あー……言ってなかったな。あたい、この森林地帯から出られないのだよ」


 伸びをしながらなんてことないかのようにルルーミャは告げた。その神経の太さはアヤートが見習いたいところだが重要なのはそこではない。


「……いつからですか」


「最初からだから——そうだな、200年……いやそこまでではないのか?」


「……」


 表情を大きく変えることはしなかったが、アヤートは内心、困惑で満たされていた。自分の母親がそんな状態だったと想像する方が難しい話である。自由奔放な母は何にも縛られず自由に生きているとばかりアヤートは思っていた。


「具体的にどういうことなんですか?」


「あー、まずお前らが出られないなんてことはないと思うからそこは安心していいぞ。——あたいが……ただ、気に入られちまったんだけだからな。森林に」


 苦い物を食べたかのように口を曲げるルルーミャ。


「気に入られた……? それは、あなたほどの力があっても出られないほどのことなんです?」


「ただ森林を散歩する分には問題ないんだけど、出ようとするとあの手この手で阻止される。例えば、氷の階段作って上空から抜け出そうとしても、怪鳥を呼び寄せたり木の枝を伸ばして絡みついてきたりだな」


 決してルルーミャは深刻そうには話さないが、アヤートは重く受け止めていた。

 母親がそんな状態であった知って、彼はなんとかしたいと思わずにはいられない。自分が助力すればなんとかなるのではという願望もあった。

 そんなことを考えていたアヤートを見透かしたようにルルーミャは首を横に振る。


「別に今の生活には満足してるしそれはいいんだ。どうしても出たかったら森林を刈り尽くして丸裸にするなりやりようはあるし」


 寵愛してくる森林を『殺して』しまえばルルーミャは解放されることだろう。それは、ルルーミャならば長い年月をかけて成せることだ。

 なら、彼女は何故それをしないのか。

 その理由の一つ目は、森林を愛するものがいることだ。ルルーミャはエルフの里のものたちに世話になっている。その中には森林を尊ぶ者も少なくない。

 二つ目は、住処を失うことだ。

 エルフは貴重な種族のため、見せ物や奴隷にしようとする輩がいることは想像に難くない。森林はそんな奴らから隠れるための盾にもなる。故にそれを失っては代わりになる別の場所を探さなくてはいけない。また、エルフだけでなく森林を住処とする野生生物や妖精は居場所を失ってしまう。

 三つ目は——


「アヤート、ついてこい」


 座っていた岩から降り、ルルーミャは旅館の庭を出て行こうとする。その後ろを無言でアヤートはついて行く。


 ルルーミャがアヤートを連れてきたのはエルフの里の端っこである。その地面には地下へと続く扉がひっそりとあった。

 その扉は、ルルーミャにしか開けられない付与魔法をかけてある。


「まっ、あんたが幽閉部屋にかけたのと同じ仕組みだと思うのだよ」


「……」


 流石親子ということか。大事なものの隠し方が一緒であった。

 

「よいしょ」


 ルルーミャがその扉を開ければ地下へと続く階段がある。灯りはなく、先の見えない真っ暗闇だ。

 しかし、パチンとルルーミャが指を鳴らせば、そこは一瞬で明るくなった。


「扉閉めてこいよー」


 ルルーミャは慣れた様子で二段飛ばしで階段を降りていく。タン、タンと乾いた音を響かせた。

 アヤートは言われた通り扉を閉める。開けることばルルーミャしかできなくとも、閉じることはアヤートにも可能だった。

 そうして、アヤートは一段一段踏み締めて下る。

 当然二人の差は開き、アヤートが階段を下り終わる頃にはルルーミャの姿は見えなくなっていた。一本道なので迷う心配はなかったが。


 石垣で作られた廊下を特段焦ることなくアヤートは突き進んだ。


「遅い」


 ゆっくり歩いてきたアヤートを退屈そうにしゃがんで待っていたルルーミャ。

 そんな彼女は気にせず、アヤートは目の前にある縦長い木箱に注目した。


「これって……」


 磁石のように、強く引き寄せられる感覚がアヤートの中に湧き出る。

 木箱の中に一体何があるというのだ。


「フミーからこれが目的って聞いてるぞ」


 ルルーミャはその木箱の蓋を軽々と持ち上げて、横に置く。

 その中をアヤートは覗き込んだ。


「——チョジュラスの槍。あたいが吸血鬼の国から取ってきたもんだ」


「———」


 その槍は、禍々しい邪悪なオーラを纏っていた。

 悪意に苦しめられた人々の悲鳴が聞こえてきそうなほどに忌々しく、どす黒い歪な存在に喰われた物体。

 元の存在を冒涜し、覆って、苦しめ、闇を漂わせる物へと変質している。


「酷いな……」


 あまりの惨状にアヤートは顔を顰めて、苦々しく呟いた。


「これでも大分マシになったんだぞ。森林のエネルギー使って浄化してたからな」


 ルルーミャが吸血鬼の国から手に入れた時、今とは比べ物にならないほどに穢れていたのだ。それをどうにかするために、ルルーミャはアルウェイル森林地帯のエルフの里へやって来た。

 ——そう、これが森林を生かさなければならない三つ目の理由である。


「森林が意思を持つってのはそれほど神聖な場所の証。森林の熟女好きには困ったものだけれど、こうやって手も借りてるわけだし仕方ないのだよ。アヤートが気にすることでもない」


 寵愛か、力を借りた代償か。それは定かではないが、ルルーミャは森林地帯から出られないことをとっくに受け入れていた。


「……わかったよ母さん」


 そこまで言われ、アヤートは森林からルルーミャを解放させたい気持ちを抑えることにした。


「それで、いつ完全に浄化できるんですか?」


「うーん200年くらいかな? 今折り返し地点だと思うのだよ」


「……そう」


 200年後、長寿なチョジュラス家の血的にはアヤートもフミーも生きられることだろう。

 ただ——


「本当に、人を生き返らせることができるんですか?」


 禍々しい槍を見つめながら、アヤートは問いかける。


「使ったことないしそれは知らん」


 同じく禍々しい槍を見つめながらルルーミャは答える。

 闇を漂わせしその槍は死者蘇生ができるようなものには到底思えない。


「あと、母さんは一体誰を生き返らせる気だったんですか?」


「———」


 その質問にルルーミャが答えるまで、少し間が生まれる。


「……さあな。てか、さっきから質問多すぎ。ちょっとは自分で考えるのだよ」


 返答を濁しながら、袖に隠れた左手の親指で左手の薬指をルルーミャはひっそり撫でる。


「でも、もし、一人しか生き返らせられなかったとしても、あたいはフミーに槍を譲るよ。孫は可愛がるもんだからね」


 何のために鎖国国家の吸血鬼の国へ突撃してまで槍を取ってきたのか。

 当然、ルルーミャにも生き返らせたい人がいたからに他ならない。だがそれでも、孫が報われるのならそれでいいとルルーミャは思うのだ。

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