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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
3章 【エルフの里で見上げた月】

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3章4話:アルウェイル森林地帯への道



 夜も更けってきた頃だが、睡眠の必要がないネオンが見張りと火の番をし、起きていた。

 その分ネオン以外は料理のできるメンバーのため、その三人でローテンションで炊事をすることが決まっている。

 始まった野営生活。いつ野生動物や盗賊に襲われるかわからない。故に、ネオンは警戒を怠らない。

 怠らないが、チラッと隣を確認する。


「何故あなたはまだ起きてるんですか?」


 フミーもアヤートも就寝したというのにリーゼはネオンと共に焚き火を眺めていた。


「野宿とか久しぶりでな、寝方を忘れたってか……上手く寝れねぇ」


 リーゼは野宿が初めてでもない。その頃は自分一人であり警戒しながら眠りにつくことを要求された。

 今、その感覚が呼び覚まされ警戒態勢を作ってしまい、ぐっすり寝ようとしてもできないもどかしさに耐えきれず、割り切って眠くなるまで起きていることにしたのがリーゼだ。


「子守唄でも唄いましょうか」


「永眠しそう」


「ひどいですね」


 寝る必要がない者と寝られない者、淡々と二人は会話を紡ぐ。


 こうしてゆったり会話している内に眠くなるだろうとリーゼは考えていた。むしろ、そうならなければ明日の行動に支障が出てしまう。


「まっ、いざとなったら私が強制的に眠らせてあげますよ」


「こえぇ〜」


 ニッコリと笑みを浮かべるネオンへリーゼは自身の肩を抱き距離を取る。


「そんなに怯えなくても魔法で一瞬ですよ。痛くないです」


「それでもこえーよ」


 ネオンは怯えるリーゼへ少し不服だ。怖がらせようとしたわけではなく純粋な好意で提案していたからだ。

 だが同時に、そんなにも警戒されることにネオンは身に覚えがある。殺しかけ、殺されかけた関係性であったから。


「私はもう、あなたを殺そうとしたりはしませんよ」


「そこは心配してねぇよ。わざわざ言われると不安になるぞ」


 言われなくとも、リーゼはそんなことをわかっている。ネオンへ殺されかけた記憶が色濃いだけだ。リーゼの中にある二つの特別な記憶の内の一つだから。


「……アルウェイル森林地帯のエルフの里に向かっているわけだよな」


「話題が結構急カーブしましたね」


「いや、ふと思い出して」


「今の流れで……?」

 

「……」


 リーゼが黙ると、パチパチと心地よい火の音が鳴り渡る。


「なんですか。今さら怖気付いたんですか。私だけじゃなく森林地帯にもビビってるんですか」


「煽んな! てか、違げぇよ」


 顔を近づけてきたネオンをリーゼは押し除けた。

 本気で怖気付いていたと思っていたネオンは首を傾げている。


「エルフの里ってどんなとこなんだろなと」


「エルフの里は和の雰囲気漂う和やかな場所らしいですが……興味があるとは意外じゃないですか」


「目的地なんだしそりゃあな」


「そうですか……」


 返答へ違和感を感じつつもネオンは納得する。


「……私も話題の急カーブをしていいですか?」


「どーぞー」


「会いたい死んだ人間っていますか?」


「……」


 予測していなかった話題転換にリーゼは肩をすくめて訝しむように目を細める。


「いやー……この前アヤートとそんな話になりましてね。私はネオ・ハクターに会いたいなと思うんだけどもリーゼはそういう人っているのかなと」


「いそうに見えるか?」


「見えませんが、私の知らない範囲の話はわからないですから、確信はないですよ。だから聞いてるんです」


「……」


 答えを停滞させながら、晴れた夜空をリーゼは見上げる。そうすれば、月と星がリーゼの瞳へ写る。

 彼女は星の数ほど死んだ人間を見てきた。例えばそれは森の中だったり、例えばそれはまだ組織の根城であった研究所『テーキット』でだったり。

 だが、死者のことは必要以上に覚えていてもしょうがないためすぐに忘れる。

 心を痛めることなどなく、泣くこともなく。

 見方によればそれは、大切な存在がいなかっただけとも言えるのかもしれない。

 

「いないな」


 だから、リーゼはそう答えた。

 

「そう」


 聞いた割にネオンは淡白に返事をする。


 本当のところ、リーゼにも忘れられない死はあった。死んでもう関わることのないはずなのに思い出してしまう死者が一人いた。

 だが、ネオンへ嘘を吐いたわけではない。会いたいとは思わないからだ。


「会ったところで……」


 自分にしか聞こえない声量でリーゼは呟いた。



———



「ん〜〜!」


 フミーは朝日を浴びながら伸びをする。気持ちが良い朝だ。


「父様おはよう!」


「おはようフミー。寝癖がついているよ」


 父様に言われ、持ってきていた鏡で髪を確認する。大胆に重力へ逆らう髪が確認できた。

 それを水で濡らして整える。

 それから、夜通し見張りをしていたネオンへ挨拶するべく口を大きく開いた。


「ネオンおはよう!! そしてお疲れ様!!」


「おはようございます。元気で何より」


「リーゼはまだ寝てる?」


 父様の姿もネオンの姿もあるが、リーゼの姿は見えなかった。


「いつまで経っても寝る様子がなかったので強制的に寝かせましたけど、まだ夢の中じゃないですかね。テントの中覗いてみたらどうです?」


 ネオンへ言われ、リーゼの寝床である黒色のテントをひっそりと覗く。

 そうすれば、いつもは結っている黒い髪をほどき、すやすやと寝息を立て、無防備な寝顔を晒しているリーゼの姿があった。


「今日の出発は遅めにしよっか」


 フミーはそう呼びかけるのだった。


 そんな調子でアルウェイル森林地帯を目指していく。



———



 船を降り陸地を歩き始めてから3日が経った頃、いよいよアルウェイル森林地帯を目前にしていた。


「……」


 フミーは思わずゴクリと喉を鳴らす。

 目の前にあるのは暗闇が広がる洞窟であるが、アルウェイル森林地帯に行くにはここを通る必要がある。


 まず、アルウェイル森林地帯は超巨大な湖の中心に存在していて、その湖には凶暴な怪魚であるレモラが生息しているため、船で渡るのは困難。

 唯一繋がる道は目の前の真っ暗な洞窟であった。

 アルウェイル森林地帯が禁足地じゃなくなってからは安全な橋の建設を始めているが、完成まで10年はかかるようであり、利用はできない。


 なので、持ってきていたランタンに火を灯して照らしながら、この先を進むことになる。


「火、僕が持つよ」


「いえ、私とアヤートはいざという時のために身軽でいた方がいいでしょう。フミーかリーゼが持っていてください」


 ネオンの意見により、ランタンを持ってみたかったフミーが持つこととなった。

 ちなみにフォーメーションは、前にネオンと父様、後ろにリーゼという真ん中にフミーを挟む形だ。

 その状態でフミーたちは洞窟の中を突き進んでいく。


 洞窟は一本道という情報を得ている。だから迷うことはない。

 ただ真っ直ぐ歩くだけでいい。だからこそ小さなランタンの灯火一つで事足りるのだが、警戒すべきことはある。


 ——魔物だ。


 そこらの野生生物とは比べ物にならない危険度を持つ禍々しい生き物。

 

 アルウェイル森林地帯にはその魔物が巣食っているそうだが、アルウェイル森林地帯に繋がるこの洞窟でも魔物を見たという話がある。

 アルウェイル森林地帯の魔物が洞窟へ流れたのだろう。フミーたちが入ってきた洞窟の入り口には魔除けの付与魔法が施されていて洞窟から先へは出れないようになっているが、洞窟はすでに危険区域なのだった。


「……!」


 前にいるネオンと父様が突然立ち止まってぶつかりそうになる。


「止まって。何かいる」


 父様はゆっくり振り返りながらそう口にした。その発言に緊張が走り、頬が強張る。


 少なくともランタンに照らされる距離には何もいないし、フミーには何も感じ取れないが、父様が言う以上はいるという確信が持てる。


「この嫌な雰囲気は魔物だろうね……」


 暗闇の先を目を細めて見つめながら、父様は呟く。

 ランタンを持つフミーの手は少し震えていた。

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