後日談:エンドカード〈ネオン〉
「——ていうことで、アルウェイル森林地帯のエルフの里に行こうと思うの」
「それ、アヤートは反対したんじゃないんです?」
フミーはネオンの肩を小気味良く叩きながら会話する。
銀黒の魔女により一部崩壊した研究所を修理すべく、お金を稼ぐためせっせと働いてきたネオンへ肩たたきをしているのだ。
「したよ。アルウェイル森林地帯で何が起こるかわからないし、フミーはとりあえず留守番してた方がーって」
「でも、フミーは行く気なんでしょう?」
「うん! 父様に行ってやったよ。カザミショーヤを生き返らせることはアタシが主導なんだからアタシが行かなきゃ意味がないって」
「私もアヤートと同じ意見ですよ。アルウェイル森林地帯に行った人はそれぞれ違った体験をすると聞きます。未知な部分が多いです。いきなりあなたが行くのは危険かと」
父様と同じ意見なネオンへ、フミーは不服でムッと頬を膨らませた。
そんなフミーへネオンは言葉を続ける。
「だから、下検分は私がします。大丈夫そうなら入ればいい」
「ネオンが?」
「私だってあなたの協力者でしょう? 肉体的に死ににくい私が行くのが合理的です」
「……」
ネオンは振り返って後ろに立つフミーを見る。その勇壮な顔つきは頼もしい。
フミーは、カザミショーヤを生き返らせることにネオンの協力を仰った時のことを思い出した。
———
——ログライフ一派が撤退し、数日経った時のことだ。リーゼの喫茶店を手伝うより前で、図書館へ通うようになるよりも前である。
研究所の2階へ繋がる階段、そこにネオンとフミーは腰掛けていた。
フミーが話があると呼び出したのだ。
「ネオン、アタシね、カザミショーヤを生き返らせたいの」
「知ってる。前にも聞きましたよ」
「うん、それでね」
ネオンならきっと、了承してくれるだろう。それでも少し緊張して鼓動は高鳴る。
「ネオンにも協力して欲しいの」
「———」
ネオンの紺色の瞳を見つめ、肩を掴んだ。
ネオンは、目を見開いて固まっている。そんな反応をされると、ひょっとしたらダメなのかと不安になってしまうではないか。
「フミー」
フミーが置いた手をネオンは優しく握る。その手は陽だまりのように温かかった。
「わざわざ言わなくても、私は協力する気でしたよ」
首を傾げて金髪を揺らし、ネオンは淡々と答えた。
「…………そっかー」
その返答にフミーは力んでいた顔の力を抜いた。
だが、ネオンはこう言葉を続ける。
「でも……こうしてわざわざ聞いてくれたのですから、せっかくなので私もお願いをしたいですね。交換条件ということで」
フミーへ協力する代わりの対価、それをネオンは求めようとしていた。
「何?」
再び緊張し、背筋を伸ばして聞く体制へ入る。
「フミー、一つだけ誓ってください。ログライフは外道な手段を使って挙げ句の果てに凍結されたりしましたが、あなたはそうならないと」
フミーの手を握っていたネオンの手に強い力が入る。
組織『テーキット』の最終的な目標は死者蘇生だったとドットルーパは言っていた。ボスに、ログライフに生き返らせたい相手がいるのだと。
そしてログライフは、愛する人ともう一度会いたいだけの女だと自分を称した。
ならば。やりたいことはフミーと同じなのだ。
その彼女と同じようになるなとネオンは言っている。
「……非道な手段は取るなってこと?」
「違いますね」
フミーは組織の迷惑を散々被った。そのような周りを傷つけるような手段は問わず健全にやれということかと思ったが否定される。
「最後までやり遂げて欲しいんです。酷い方法を取ろうが、誰に恨まれようが、誰に狙われようが、死にかけようが、それまでかけたものを無駄にしないでやり遂げて。道半ばで終わったりしないで」
フミーの幽閉解除を成し遂げた彼女のその言葉は、勇壮な眼差しは、重かった。
怯みそうになるが、それをフミーは受け止める。
「わかった。最後までやるよ」
ネオンへ軽々と笑って見せれば、ネオンも笑みを返してくれる。
「あなたの幽閉だけじゃなく、凍結まで解くのはごめんですからね。……そもそも吸血鬼じゃないなら封印じゃなく処刑されるか」
処刑されるわけにはいかないし、ログライフのようなことはまずフミーはしないからそこは安心して欲しいところだ。
———
——という会話をしネオンの協力も得た。ちなみに、その後リクにも申し入れたがあっさり了承し彼も協力してくれることになっている。
「協力……でもネオンに危ないことさせたい気はないんだけどな……。合理的かもしれないけど一人でやらせるのは……」
「じゃあ、あなたの父親を借りますか。彼の実力は相当なものですし、二人で行けば安全面はアップです」
「それはなんか嫌。アタシも混ぜて三人で行けばいいよ、その方がもっと安全だよ」
「……」
無表情で黙ってネオンに見つめられ、フミーはなんだか駄々を捏ねている気分になる。
中心である自分がリスクを背負うのがそんなにおかしいことだろうか。危ないならみんなで行こうがそんなにダメなのか。
「なら、リーゼも誘いましょうか。四人ならもっと安全でしょう」
意外な答えが返ってきた。リーゼもフミーに協力を承諾した以上無下にはできないと思うが、
「でもリーゼは後遺症が……」
「歩ける程度には治ってるでしょう。なんなら完治してから出発してもいいし」
「……」
フミーは考える。
人数が多い方が楽しいし、安全だしいいことだらけである。
賛成だ。
「だけどリクは?」
「リクは……魔法だろうと召喚術だろうと使えませんし、戦闘能力ゼロですからね。おまけにすぐフラフラしてどこかに行くし抜けてるとこもあるし、連れて行くには流石にちょっと不安ですよ」
「なるほど……」
結構散々な言いようである。リクが誘拐された時の慌てようも中々のものだったし、好きな相手故に心配性になってしまうのだろう。
———
ネオンとの話し合いの結果を父様へすれば、やはりフミーが着いていくということに渋い顔をしたが承諾は取れた。
そして喫茶店の仕事の手伝い終わり、リーゼにも打ち明けてみる。
「——ということで、リーゼの怪我が完治したらアルウェイル森林地帯のエルフの里に行きたいんだど、どうかな?」
「……エルフの里、か……」
アルウェイル森林地帯自体ではなくエルフの里の方にリーゼは反応した。
何かを思い出すように目を伏せてから、彼女は承諾する。
「ああ。行ってもいいぞ。森歩くの嫌いじゃねぇし」
「やった! リーゼの怪我、完治までどれくらいかかるんだっけ?」
「全治三ヶ月だから……あと二ヶ月かぁ?」
——ということで、ニヶ月後に出発が決まり、フミーたちはそれまでアルウェイル森林地帯とそのエルフの里についてもっと詳細に調べることとなる。
———
「私たちが森林地帯に行ってる間、研究所には警備を雇ってリクは実家に帰るそうです」
「へぇ、リクの実家どこなの?」
「王都の外れですよ。凄腕の使用人が何人もいる豪邸なんで安全でしょうね」
アルウェイル森林地帯への出発を控え、荷造りする最中、ネオンとフミーは会話していた。
非常食にタオル、応急処置セット、雨具などをリュックに詰めていく。
いざとなれば召喚術で呼び寄せることもできるが、必ず成功できるわけではないし不安定な要素があるため準備は必要だ。
「ところで、リーゼの怪我は大丈夫なんですか?」
「また痛みはあるけど走ったり動き回っても問題ないって」
「ならよかった」
自分ではなく直接リーゼに聞けばいいのにとフミーは思うが、言わなかった。
リーゼはネオンに対してあまり良い顔はしないから。
露骨に当たりが強いわけでもないし、普通に会話もするが苦手意識があるようだ。そこには過去に殺されかけたことが関係しているのだろう。
だが、カザミショーヤを生き返らせる以外のやりたいこととして、リーゼを幸せにするということがある。
そのためにはネオンの力も借りたい。
どうにかならないだろうか。
「フミー」
「なーに?」
柔らかい声で、フミーの名前を呼ぶネオン。丁度荷造りが終わり、立ち上がって背後に立つネオンの方を見る。
「誓い、覚えてますよね」
「もちろん。最後までやりとげる、でしょ?」
「ええ」
フミーが答えれば、ネオンは頷きサラサラとした彼女の金髪が揺れる。
何があっても道半ばで終わらない。それがネオンが協力するための条件だ。
「なので、あなたが成し遂げるためなら私はなんでもしますよ。命だってかけます。それを忘れないくださいね」
ネオンは、楽しそうにそうに言ったのだった。
2章終了です!
『エピローグ:8日目』がとても長くなってしまったのを反省してこの後日談は三分割にしました。
物語は3章へ続きます!
ですがここで一旦更新はストップします。3章のストックがもう少し溜まってからまた毎日投稿していきますのでそれまで忘れないでいただけると幸いです。(一週間後には再開したいなぁ…)
例によって活動報告でイラストを掲載しているのでそちらも見ていただけると嬉しいです!




