後日談:エンドロールのその後
「いらっしゃいませー」
カラン、とドアベルが鳴ればお客様が入ってくる。
お客様のオーダーを聞き、テキパキと仕事をこなすのがフミーだ。
そう、フミーは働いていた。リーゼの喫茶店で。
ログライフたちの襲撃があったあの日以降の話だが、まずリーゼは大怪我のためそのまま研究所『テーキット』に滞在。回復魔法を使える医者に診てもらったがそれでも療養は必要だった。しばらくして、喫茶店の店主に復帰できるようになるまで回復し、その頃には警備隊の人たちも森を去っていたので喫茶店を再開。
だが、怪我の後遺症はまだ残っているため辛そうだ。そこで名乗りを挙げるのがフミーであり、リーゼが完全復活するまでのお手伝いをすることになった。
元々カジノに行った際にリーゼへ借りがあったので丁度良かったのである。
「今のが最後の客だろうな。フミー、閉店のプレートかけてこーい」
「あいあいさーっ!」
午後4時。本日の営業は終了だ。
本来はもっと長い営業時間だったが、フミーが手伝っているとはいえ怪我の影響で短くなっている。
やって来るお客様の中には残念がる人もいて、森に聳え立っている割に意外にも人気なのがこの喫茶店であった。
「じゃあ、お疲れー!」
「おう」
そうやってリーゼへ挨拶し喫茶店を出れば、すぐそこに父様がいた。フミーを迎えに来たのだ。
「お疲れ様」
「うん!」
そのまま二人は王都へ向かう。仕事の後にもやることがあるから。
———
——これはリーゼの喫茶店でお手伝いを始めるより前の話だ。
父様と二人でフミーは館へやってきていた。フミーが幽閉されていた一室がある館だ。
「ここに父様の母様……祖母様が昔住んでたって言ってたよね」
「ああ、もう大分昔になってしまうけど」
草木が生え放題の庭とお化け屋敷みたいな惨状の館だが、手入れしたら人またが住めるようになるだろうか。
元々父様と二人で住んでいた家は遠いし無事な惨状とは思えないので、ここを新たに二人の家にするのも悪くない。
その元々の家も、近くに母様のお墓があるため墓参りをするためにもそこに一度そこへ戻らなければならないところではあるが。
「そういえば、アタシお祖母様に会ったことないや。何してる人なの?」
「さあね、新婚旅行の時に偶然会ったのが最後だから僕もわからないんだ。ひょっとしたら死者蘇生について何か知ってる人かもしれないけど、旅をしてるのかどこかに定住してるのかも定かではないし……」
「自由な人なんだね」
そんな雑談をしながら館の中へ足を踏み入れる。
ここに来た目的はフミーが幽閉されていた部屋にあった。その中にある物を持ち運ぶためだ。全部とは言わないが使い慣れた枕と布団だけは回収したかった。
「ここだね」
奥へ進み、扉が半開きになったその部屋へ父様と共に辿り着く。常に明るいその部屋からは明かりが漏れていた。
「扉への付与魔法を解いておくよ」
そう言って扉へ掌をつける父様の表情はどこか切なげだ。
フミーも少し複雑な感情がある。言うならば、この扉はカザミショーヤの死因だから。
「ハッ——」
父様が力を込めれば、ガラスが割れてその破片がぐしゃぐしゃになったかのような音がした。
扉へかけられた付与魔法は施した本人により壊されたのだった。
「これでもう誰でも開けられるはずだ」
そう言われてフミーがドアノブを握り腕を引けば軽々と動いた。部屋の中から何をしようと開かなかった扉が今やただの扉になったのだ。
父様が早く生き返って迎えに来てくれていれば——とは思わず想像してしまう。そうすれば、カザミショーヤと共に外に出られたのではと。だがしかし、それはない話だ。
「知ってる? 父様が生き返るのにフミーの血が使われたんだよ」
「えっ、そうなのかい? でも今どうしてそれを……」
「アタシが外に出てなきゃ父様は生き返れなかったって話」
「……」
「ごめん、なんでもないや」
父様からすれば脈略のない話だった。反省。
思ったことを口にしすぎるのもよくない。
「ところで明かりがついたまんまなのは、『部屋』への付与魔法は解いてないから?」
「ああ、明かりはあった方が便利だろう」
明かりをなくしえしまえばこの薄暗い館の部屋、どこに何があるかもわかりづらいはずなのでありがたい。
「じゃあさっそく、運び出そっと」
いずれこの館も綺麗にして住みたいと薄ら思うフミーとしては、大量の本や物はこのまま置いたままにしておきたい。布団と枕、それからめぼしい物をいくつかで十分だ。
ひとまず布団と枕をと思いベットへ近づく。
フミーのベットの隣にはカザミショーヤのベットがあるが、彼の枕と布団も持っていってしまおうか。特に深い意味はないけれど。
そうやって彼の枕に手をかけた時だ。
「……あ」
枕元にそれは置いてあった。
「シャシン……」
フミーを写した一枚のシャシンである。
可愛いポーズと言われて咄嗟に手をハートの形にした姿だ。
「う……うぅ……」
「フミー?」
呻きながらしゃがみ込めば、心配して父様が近づいて背中をさすってくれる。
——どんな気持ちで枕元にこれを置いていたんだろう。
フミーもカザミショーヤのシャシンを枕元へ置いていたが、それはなくさないようにだ。物がたくさんある部屋だからそれに埋もれてしまわないように、尚且つ寝る前と起きた時に見れるようにだ。
カザミショーヤはどうだったんだろうか。
「……父様、大丈夫だよ」
「本当に?」
不安な顔で顔を覗き込む父様へ笑ってみせる。瞳を潤ませ、自分のシャシンを抱きながら。
「嬉しかった、だけだから」
「そうか……」
深く聞かずに父様は頭を撫でる。父様にそうやって子供扱いされるのは好きだ。
フミーはいつまでも父様の子供なのだから、そうやって甘やかしてもらいたい。
だがフミーはそれに甘えたい気持ちはありつつ甘えたくないというジレンマがある。難解な子供心だ。
「そうだ……父様がこれ持ってて。フミーのシャシン」
「いいのかい?」
「うん。それでね、カザミショーヤに会った時渡して」
父様とカザミショーヤが話すきっかけ作りにはなるだろうという魂胆だ。フミーが好きな者同士フミーのことで盛り上がって欲しいところ。
「いい表情だね」
父様はシャシンを見て微笑んでから、懐に仕舞った。
そんなやり取りを経て、目は擦りながらフミーは立ち上がる。
「父様はフミーの枕と布団持って」
そして、フミーの布団と枕は父様が持ち、カザミショーヤの布団と枕はフミーが持つ形で研究所へと運び込んでいく。
「あのね、カザミショーヤの生き返る方法を探すのにちょっと思い当たるとこがあるかも」
「えっ、そうなのかい?」
運んでいく最中、フミーは切り出してみた。
「王都にいーっぱい本がある図書館があってさ、リーゼと行ったんだけどそこなら手がかりがあるかも」
「ああ! 本がありすぎて逆に使いづらいで有名なミスティーユ・エンド・トルドーニャ大図書館か!」
「え! 知ってるの?」
「僕が生まれる前からあるみただよ」
「へー!!」
ちなみに具体的な年齢は知らないがら父様はフミーが産まれた時点で100歳越えであり現在200歳超えは確実である。
そんな父様よりも年上なのがその大図書館ということか。
あとサラッと言ってたが、本がありすぎて使いにくいで有名だったのか。
「たしかにあそこなら、死者蘇生の本ありそうだね」
「やっぱり!?」
足がかりが、ようやく見つかりそうだった。
そうして急いで布団と枕を研究所に運んだあと、その大図書館へ二人で向かった。
「相変わらず本がいっぱいだ……」
図書館へ入るなり父様は小さく呟く。だが、そんな軽々言えるほどの量ではない。
「——っ」
前に一度来ていたのに、フミーは再びその物量へ圧倒される。本だけで王国ができてしまいそうなほどのそれに、慣れることはできなかった。
「すみません、探している本があるのですが……」
入り口のカウンターで椅子に座って本を読んでいた司書さんへ父様は話しかけた。
そうすれば、司書さんは本から視線を上げた。
「はい。どのような本ですか」
司書さんはフミーよりも一回り小さい少女だ。
ブルーベリー色の髪は眉にすらかからないほど短く、代わりに襟足を伸ばしていて緑のリボンでまとめられている。
「死者蘇生について書かれた本です。少しでもそれに関する記述のある本があれば教えてください」
「それなら、10万冊以上ありますよ」
今なんと言った。
司書さんのハスキーボイスがとんでもない数字を口にしていた気がするが、聞き間違いだろうか。
「それなら詳細に書かれている物に限ったらどれくらいですか」
「およそ3万2000冊になります」
それでも聞き間違いを疑いたくなる数字だ。死者蘇生に関する本がそんなにあるというのか。
「本の場所を書き記しましましょうか?」
「お願いします」
父様が了承するとカウンターの下から巻物のような長い紙を取り出し、羽ペンを走らせた。竜巻が起きるのではと思うほど素早いペン捌きだ。
「終わりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
体感として数十分経っただろうか。その時間で書き記していた分厚い巻物を父様へ渡した。
受け取った父様は後ろで数歩下がって見ていたフミーへ向かってくる。
「それは何?」
「本の場所を書き記した物だよ。流石に何列目かじゃなくてここから何メートル進んで行けばいいかで表してるみたいだ。あとタイトルも書かれてるね」
どうして父様は平然としているのだろうか。
フミーは見ていたが、あの少女は何も見ずに空で書いていた。それ以前に死者蘇生について書かれた冊数を記憶していた。
まるでこの大図書館の本の全てを暗記し、場所を把握しているかのようだ。
繰り返すが、この場所にある本の数は膨大だ。この世の全ての本が集まってると言われてもフミーは信じることだろう。
だから、眩暈がしそうなほど異様なことだった。
深く考えるほどに脳が理解を拒みそうなため、司書さんのことは一旦忘れよう。
「……えーと、……じゃあこの巻物に書かれている本をしらみ潰しに読んでいけばいいんだね!」
「うん。そうすれば何か得るものはある気がするね」
こうして、カザミショーヤを生き返らせる手掛かりを求めてフミーたちはおよそ3万2000冊を読むことになったのだ。




