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召喚され少女と密室二人きり、俺が死ぬまでの七日間。そこから始まるアタシの物語  作者: うさぎさう
2章 【再会までのエンドロール】

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2章18話:子と親

 手が、温かい。

 フミーの手は大きくて安心感を与える手に包まれているのだ。

 その感覚が、温もりが、ひたすらに懐かしかった。

 だからその手を握り返した。そこにいるのだと実感するために。


「——! フミー? 目が覚めたのかい?」


 薄ら開けた目で、父様が顔を覗き込んでいるのを確認した。

 記憶の中と変わらない優しい顔だ。


「とおさま」


 ずっと求めていた瞬間だった。あの部屋で気が遠くなるほど待ち望んで夢に描いた再会。

 近くでその顔を見ようと体をゆっくり起こす。団子にしていた髪はいつのまにか解けていてそれが肩にかかった。


「父様」


 呼びながらフミーは抱きついた。その勢いで髪がふんわり浮くのを感じる。


「フミー」


「うん。フミーだよ」


 父様は抱きしめ返しながら、名前を呼んだ。その声が、ずっと聞きたかった。

 嬉しくて嬉しくて、涙が頬を伝って抱き合っている父様へ落ちてしまう。

 父様も泣いているようで、鼻を啜る音がした。


 数分、そうやって互いの温かさを感じてからようやく離れる。


「まだ寝ていてもいいんだよ」


「大丈夫…………父様こそ、包帯、巻いてる」


 気を失う前、最後に見た光景は崩れていく建物だが、その割にフミーは大きな怪我はない。さらに、窓を見れば夜になっていてたくさん寝ていたようであり、とにかく体を起こすことなどなんてことないのだ。

 ただ、父様の方はフミーが気を失う前にはなかった包帯を頭と腕、それから襟元から見える胴に巻いているのが気になる。

 心配するフミーを大丈夫と言いたげに頭を撫でる父様。


「父様、アタシ……」


「うん。これまでの状況は聞いたよ。……ごめん。ずっとフミーを僕は苦しめてしまった」


「それは……! だって危険から、組織から守るためだったんでしょ!」


「それでも、ずっとひとりにしてしまった。フミーは寂しがり屋なのに」


「むっ……。まぁ、そうだけど!」


 寂しがり屋というのはフミー自身も認めるところであるが、わざわざ口にされ頬を膨らませる。


「だが、それを救ってくれた人がいるんだろう?」


「……うん」


 事情をすでに父様は把握しているようで確認するようにフミーへ問いかけた。それに頷く。

 カザミショーヤ、そして彼を召喚したネオン、その協力者のリク。

 フミーがとても感謝しなくてはいけない人たちだ。

 その中でもカザミショーヤのことは——。


「あのね、父様に聞いて欲しいの」


「なんでも聞くよ」


 微笑んで父様は応じる。フミーも頬を緩ませて口を開いた。


「あのね、アタシとカザミショーヤの七日間の話なんだけど——」


 カザミショーヤが召喚され、死ぬまでの七日間だ。

 それを父様にも共有していく。フミーが好きになった人を父様にも知って欲しいから。

 声のトーンを下げて話していたわけではやいが、雪が降り積もるように落ち着いた時間だったと思う。


 ——そうして5日目の途中まで語ったところで、フミーは気づく。


「あ、シャシン!」


「シャシン……?」


 腰に付けた茶色いポーチからシャシンを取り出す。

 黒髪短髪の少年、カザミショーヤが写ったものだ。無傷で一安心。


「この人がカザミショーヤだよ」


「へぇ……彼が……」


 フミーが見せたそのシャシンをじっと父様は眺めた。


「会ってみたかったよ」


 一度何かを考えるように目を伏せてから、名残惜しそうにそう呟いた。

 その言葉を嬉しく思う。


『フミーは長生きだろう。その長い間で蘇生の手段見つけて、俺が蘇る。寿命差もいい感じに縮まってたり。そして、フミーの父親もいる。俺はその人に挨拶をする。……最高じゃん?』


 そんなことを言っていたわけだし、カザミショーヤも聞いたら喜ぶのではなかろうか。


「……あのね、父様」


 黄橙を宿した父様の瞳と母様譲りなフミーの紅色の瞳の視線が混じる。


「アタシ、生き返らせたいんだ。カザミショーヤのこと」


 フミーの目標、それを告げた。

 父様には申し訳ないが、まだフミーは現状に満足できない。一番やり遂げたいことを成せていないから。


「だから、父様も協力して。……あとでネオンとリクも誘うんだけど、……あっ、リーゼはもうオーケーもらってて、父様にも協力してもらえたら百人力だなって」


 手段に心当たりがあるわけでもない。まだ曖昧で足掛かりもない状態だけど、いくら時間をかけてでも叶える。その時間を父様にも付き合って欲しいのだ。


「……フミー」


「うん」


「わかった。協力するよ」


「ホント!?」


「でも、忘れないで欲しい」


 父様の低い声に背筋が伸びる。


「世界には、色んなものが溢れている。素晴らしいもの、尊いものがたくさんあってフミーが大切にしたいと思えるものもその中にきっとある」


 父様は真剣な表情でフミーを見ていた。


「それを、切り捨てちゃいけない。一つの目標以外に何も目を向けなくなるのは危ういことだ。——その生き返らせる目標以外に大事なものをあげてごらん。他にやりたいことでもいいよ」


「大事……父様とリーゼとネオンとリク、あとカザミショーヤのシャシンと灰、それから日記帳、とかかな。他のやりたいことならリーゼを幸せにすることと、警備隊の隊長さんに名前を答えてもらうことと、ネオンと恋バナもしてみたいな。リクと前にした時楽しかったし」


 他にもたくさん思いついてきて、全部あげれば夜が明けてしまうほどだ。


「そうか。なら、それを忘れちゃいけない。どれだけカザミショーヤ君を生き返らせたくても、会いたくなっても、その気持ちを無視してしまえばフミーは独りになってしまうから」


「独りに……それは、嫌だ……」


 どういう理屈なのかは、今のフミーにはわかりきれない。けれど、父様が言うなら確かなことのはず。


「わかった。忘れないよ」


 膝で拳を作りながら、フミーは力強く決意する。それを慈しむように父様は頷いた。


「フミー、元々利発な子だと思ってたが、さらに成長したね。語彙力も増したし、背も僕の脚よりも小さかったのにこんなに伸びて……」


「えへへ〜」


 褒められては顔がだらしなく緩んでしまう。


 そうして父様との会話もひと段落したのだが、ネオンたちはどこだろうか。まさか、瓦礫の下に未だ埋まっているなんてことはないはずと不安になりながら辺りを見渡す。

 気配を消すようにリーゼとリクがこの部屋の隅にいた。気を使わせてしまったようだ。

 だが、一人見当たらない。


「ねぇ、ネオンはー?」


「医者呼びに町まで行ってるよ。僕らで治療するのも限界があるから」


 フミーの問いかけにリクが答える。


 町にネオンが行っている夜、デジャヴだ。


 そうして全員揃っていないのは惜しいところだけれど、全員無事ではあり一件落着のようではある。

 

「みんな寝れないの? アタシは起きたばっかで寝れないんだけど……」


「ウチは体の痛みで寝れねぇ」


「僕はここ最近不規則な生活してたせいか眠くないんだ」


 フミーの問いかけに父様以上に包帯ぐるぐる巻きなリーゼは眉を顰め、フミーのためにここ連日頑張っていたリクは頬をかいた。


「父様は?」


「僕も眠くないかな。つい数時間前に目覚めたばかりのようなものだし」


「そっかー。うん。ならいい提案があるよ!」


 そんなわけで、フミー提案の元、四人で トランプで遊び始めた。

 これまでほとんどリーゼと一対一で遊んできたので四人では新鮮である。たまにリーゼと遊んでいるところへネオンとリクが混ざることもあったが、忙しさの関係上稀だった。


 大富豪やらババ抜きやらをして、とにかく楽しい夜が始まる。

 途中で医者を連れて戻ってきたネオンも乱入し5人で朝まで遊び尽くしたのだった。

 







 父様と再会までのアタシの物語はこうして幕を閉じる。

 だけど、カザミショーヤを生き返らせるその日までアタシの物語は続く。

 

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