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2章8話:フミーとリーゼとネオンとリク

 とりあえず休憩室へ移動した。


「さて、リーゼ。あなたはどうしたのですか」


「久しぶりだねリーゼ。元気かい?」


「雨すげーから泊めてって欲しいだけだ。あと今は元気だが一旦ずぶ濡れになったし風邪引くかも」


 ネオンとリクがそれぞれリーゼに対し呼びかける。

 リーゼは気だるげにそれに返事をした。


「風邪は大変だ……! 暖かい部屋に案内するよ!」


「間に受けないでリク」


「そーそー、冗談冗談。風邪なんてほぼかかったことねぇよ」


「泊めて欲しいのも冗談ですか」


「そっちは本当だ」


 小気味いい会話にくすくす笑いフミーは口を挟むのを忘れてしまう。

 ネオンはそんなフミーの方を向いた。


「部屋余り放題ですし、泊まるのはいいんですけれど、……フミー」


「ん?」


「危険なことはありませんでしたか。リーゼに何かされませんでしたか」


「ウチを名指しすんじゃねぇ」


「危険なこと……」


 銀と黒の男の姿が頭に浮かぶ。

 実害があったわけではないが、アレは危険と言っていいだろうか。

 名前は知らない。名前を教えてもらう約束はしたが、本当に果たされる時が来るのかすらも不明瞭だ。 

 組織の元同僚であるリーゼすらも彼の名前は知らないようで、こう呼んでいた。


「銀黒の魔女……」


「——っ」


 呟くフミーの声を聞き取り、ネオンの顔色が一瞬にして変わる。


「使い魔の小鬼使ってちょっかいかけてきやがったんだよ。追い払うのめんどかったぜ」


「ドットルーパに続き、組織の残党じゃないですか……。中でも謎が多い人物でしすし、あなた何か知りません?」


「数回しか顔合わせたことねぇし何も知らんわ」


「ちょっとしたことでもいいんですよ」


「十何年経ってるんだぞ。ちょっとしたことは覚えてられねぇよ」


 ネオンがリーゼの記憶に期待するも、何の情報も得られず。

 そんな中「ちょっといいかな」と、リクが片手を上げる。


「その銀黒の魔女って長い銀髪で帽子を被った黒い格好の人かな?」


「リク、何か心当たりがあるの?」


 呼びかけるリクにフミーは反応する。

 フミーが会った彼は帽子を被ってなかったが、長い銀髪で黒い格好だったのは違いない。


「ドットルーパたちに監禁された時に会ったんだ」


 彼はその時のことを語りだした。


 ドットルーパに襲われ、根城に連れてこられた初日。ある時目隠しを外され、その時視界に映ったのが銀髪の人物だ。女性的だが、恐らく男性。

 帽子を脱げば頭の上に青い小鬼が乗っていて、そこからその小鬼はリクの頭に飛び乗り、また銀髪の男へと戻る。

 気安い調子で労いの言葉をかけてからその銀髪の男は去っていった。

 ——とのことだ。


「赤い小鬼じゃなくて、青い小鬼……。ねぇ、意識が飛ばされたりしなたかった?」


「いいや、何ともなかったよ」


 その話を聞いて気になったのが小鬼が青いということ。

 フミーが見たのは赤い小鬼だったが、リクの見間違いじゃなければ色違いの小鬼がいるのだ。

 フミーは赤い小鬼を拾い上げた瞬間、別世界に意識が飛ばされた。

 なら、その青い小鬼がただいたずらに頭に乗っただけとは考えづらい。


「ぜってぇ何かされてるぞそれ」


 リーゼに同意見でフミーは頷く。

 ネオン何かを思い浮かべるように目を数秒閉じてから口を開いた。


「組織『テーキット』は私と当時の警備隊と有志何十人か募って、全力で根絶やしにかかったんですから、その中を生き残ってピンピンしてるだけで厄介極まりない存在です。銀黒の魔女の警戒は怠らない方がいいですね。リクのことは私が気にするからいいとして、——フミーのこと頼みましたよ。リーゼ」


「……え」


「泊まっていくんでしょう」


「ん〜〜、そうだけども!! ガキのおもり延長かよ!!」


「私とリクはやることあるので。まぁ、この建物には魔法耐性も物理耐性もかけられてあるので滅多なことはないでしょうけど」


 そんな具合に、フミーのことはリーゼが引き続き面倒を見る方針になった。

 誰かといる方が精神的に楽な体質となっているので願ってもないことである。



———



 4人で夜ご飯を食べ、ネオンとリクは父様を生き返らせるべく作業へ戻っていった。

 残ったリーゼとフミーは、リーゼの案内の元、研究所内を探検中だ。


「父親を生き返らせる、ねぇ……」


 ネオンとリクが何故忙しいのかも食事中にしっかりリーゼにも話したが、大したリアクションはしなかった。

 しかし今、リーゼは意味深に呟く。


「リーゼの家族は?」


「ウチは天涯孤独。今まで家族とかいたことねぇや。前に占い師に見てもらったことがあるけど、見事に血縁者全員死んでるらしいし」


 こういうことをなんでもないことのようにさらっと言うのが、リーゼだ。

 家族を喪失する感覚は、母親で経験しているフミーだけど、最初からいなかった場合はわからない。

 その感覚をフミーは手に入れようがない。 

 だけど、リーゼが家族がいる感覚を手に入れることは可能だ。


「リーゼ、アタシを家族だと思って」

 

「は、……はぁ〜!?」


「あ、違う。アタシがリーゼを家族みたいに思うから、受け入れて欲しい」


「はぁ〜〜!?」


 家族がいなかった人間に突然家族のように思えと言うのは無茶なので訂正。

 まずは、家族とはどんなものか知ってもらうのだ。

 多少強引であれど、リーゼ相手にはグイグイいくとフミーは決めてある。


「いい?」


「そもそも家族がどんなもんとか知らねぇし、んなこと言われてもなぁ……!!」


「今とあんまり変わらないよ。気持ちの問題」


「おお、そうか。なら……別にいいか」

 

 受け入れてくれた。


「てか、これまで家族みたいな距離感だったのかお前」


「こうやって、たくさんお話してくれるだけでアタシには特別なことだから、それぐらいの距離感になるかな」


「チョロいな〜」


「チョロくないよ、心に決めた人は一人だよ!」


 カザミショーヤを生き返らせるのに引き続き、どんどんリーゼに要求をしてしまっているフミー。

 にしても、リーゼは断らない。流れやすいタチなのか。


「もしかして、リーゼもチョロくない?」


「失礼なやつだなぁ!」


「じゃあなんでアタシに甘いの?」


「甘くねぇだろ」


「そうかな。リーゼは優しいけど、協力してって言ったら誰にでも協力する? 家族みたいに思われるのも誰とでも平気?」


「……」


 不意を突かれたように、リーゼは目を見開いて言葉を詰まらせた。

 言われて、何かに気づいたのかもしれない。そんな戸惑が、彼女の中に浮かんでいる。

 そして、顎に指を添えて何かを考え始めた。それから十数秒、


「…………あぁ!」


 リーゼは未知のものを発見したかのように声を上げた。


「無意識のうちに反省を生かしていたのかもしれない」


「……どういうこと?」


「お前といれば、人生楽しめて、報われる気がした」


「報われて……ないの?」


「だって、幸せになったことねぇもん。金がたくさんあればなれるかと思ったけどよ、違ったし」


 内容に反して軽薄な表情で、ただ事実を羅列するように、リーゼ自身の内なる部分を語った。

 そんな風に幸せになったことがないと堂々と言う姿は、フミーの奥深くへ焼き付くほど衝撃だ。

 彼女が壮絶な経験を得ていることはこれまでの会話からわかっていたことだけれど、それほどまでに、足りない人生だとは思いもよらなかった。

 そう、足りない。

 幸せは、誰もが持っていていいものだ。当然の感情だ。

 それが、得られていない。


「リーゼ、アタシもね、幽閉されてからの154年は幸せじゃなかった。けどね、さいごの七日間……いや7日目は抜かして六日間かな。その六日は、カザミショーヤがアタシを幸せにしてくれたの」


「ウチは154年も待てねぇな。物理的に」


「リーゼのことはアタシと、あとネオンとリクにも協力してもらって頑張って幸せにするよ。3人も協力すればすぐなれるはず!」


「色々ツッコミたいとこ満載なのは置いておくとして、ウチは誰かを幸せにしなくていいのか? 不公平じゃね」


「幸せを知ってからお返しすればいいよ」


「ふーん、じゃあほどほどに期待しとくわ」


 目つきの悪い瞳を細め、リーゼは頬を緩ませたのだった。



———


 

 就寝前、フミーは日記へ書き記す。

 王都でのこと。

 今日出会った名前を知らない二人のこと。

 1人目は銀黒の魔女と称される男。

 2人目は警備隊の隊長さん。


 リーゼとのことも書き記す。


 1ページでは到底足りなかった。

 

 

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