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第8話「魔法の理を裏切る子供たち」

 朝から騒がしくも物騒なデュエルに横入りしたが、アネトは動じていなかった。

 毎朝リーゼロッテと一緒なのである。

 必定、紅蓮の魔女が目当ての男子生徒に囲まれたことがあるし、群がる下級生の女子たちに突き飛ばされたこともある。そういう過去を想えば、むしろ今日は平穏な方だった。

 ただ、皇女シャルフリーデの行いは目に余る。

 それでも、皇帝陛下の娘という立場が生徒会にすら何も言わせずにいるのだった。


「で? やっぱり皇女様ってあれなのかしら? 趣味の悪い女、よ、ねっ!」


 午前中の授業、秘密学級の特務科は武術の実戦練習だった。

 練習相手のギレッタが、両手に木の槍を鋭く構える。練習用の木槍なのに、その切っ先は白刃の殺気を感じさせた。

 だから、アネトも身構え慎重にその切っ先を避ける。

 鋭い刺突の連続攻撃は、アネトに距離を詰める隙を全く与えてくれなかった。


「だいたいなによ、皇女様だからって好き放題! 魔女の方がまだギリギリまともわだわ!」

「うーん、そういうこと義姉さんは聞くと怒るよ?」

「怒ってくれれば、もっと真剣に暴走皇女を叩いてくれるんじゃない?」

「どうかなー、リゼねえはああ見えて気を遣う人だし、って、そこだね」


 不意に、風を切り裂く連撃の中へとアネトは踏み込んでゆく、槍衾の中に風が見えた。確かに、微かな隙間の連続が見えたのだった。

 木製とはいえ、刃を象る穂先がアネトの頬を抉る。

 吹き出す鮮血の飛沫が宙を舞い、そして落ちるその前に。

 圧倒的な突破力と瞬発力で、アネトはギレッタの懐に入った。


「くっ、距離を殺してきた! だからってアンタねえ! このアタシがっ!」

「チェックメイト……この勝負、もらったよ」


 相手は女の子だから、少し力を抜いた。

 あくまで最善手の防御を選ぶギレッタの、その槍を持つ手に手を添えて捩じる。人間の身体というものは不思議なもので、重心をコントロールしてやれば自由自在に躍らせることができた。関節を極めることなど、その初歩の初歩である。

 そのままアネトはギレッタをブン投げ、脳裏のメイド長の声を意識的に無視する。

 辛うじて受け身を取ったギレッタに向けた拳は、彼女の鼻先で止まった。


「僕の勝ち、でいいよね?」

「……アタシの負け以外のなにものでもないじゃない。フンッ!」

「でも、ギレッタの槍は凄いよ。これで相手の魔法を立ってるだけで封じちゃんだから」

「だーかーらー、そういう体質だからここにいるんでしょ! それに、魔法を封じてもフィジカルで負けちゃ意味がないの! もぉ、バカッ!」


 そう、ギレッタもまたアネトと同じ特殊な体質、ゆえに秘密学級で学んでいるのだ。彼女の体質は、一定の範囲内の魔法を全て発動不可能にする力。ギレッタと相対する者は皆、魔法を封じられるため必然的に肉弾戦を余儀なくされるのだった。

 もちろん、ギレッタの力は攻撃魔法はもちろん、治癒や補助の力、神代魔法さえ封じる。

 だからこそ彼女は、自慢の槍術に磨きをかける日々だった。

 そして、修練場の隅でアネトたちとは別の悲鳴があがる。


「わーっと、たんま! ちょいたんま! 負け、負けたよ、負けました!」

「……タスク完了。アゼルの絶命判定を確認」

「これさ、あのさあサーティン! 不公平でしょうって! おかしいぜ!」

「真剣勝負はエノア先生の指示。なにもおかしくはない」


 少し離れた修練場の端では、二刀流のナイフに首を挟まれてアゼルが両手をあげていた。彼が先程までもっていた巨大な戦斧はその背後に落ちて地に突き立っている。

 正直、今のサーティンには鬼気迫る本物の殺意が凝縮されていた。

 そんな彼女は、この特務科でもさらに特殊、その体質は基本的にアネトたちと真逆である。


「だいたいおかしいだろ! なあ、エノア先生よお! なんで『魔法でしか殺せない人間』と俺が戦わなきゃいけないんだ。こちとら、魔法を使えない秘密学級の生徒なんだぜ?」

「馬鹿者、その言い訳を戦場で相手に叫ぶ意味があるのか?」

「いや、それにしたってよ」

「とにかくお前たちはフィジカルを鍛えて、肉弾戦での戦闘力をあげるしかない。難儀な生まれを呪うんだな。まあ、アゼル。お前が上層部には一番評価されているんだが」


 一人優雅にお茶を飲みながら、エノアは離れた場所でのんびり模擬戦を見物している。担任教師が指導もせずにいい身分だと思ったが、実際には特務科の四人でそろって戦っても彼女には勝てない。十歳前後の童女に見える教師の強さは、この科に来た全員が最初に思い知る絶対的な実力差なのだった。

 そのエノアが、ティーカップを片手に椅子から立ち上がる。


「アネト、自分へ向けられた魔法の完全無効化。ギレッタ、一定範囲の術者の魔法を無力化。そして、アゼル……お前は受けた魔法を増幅して反射する。ったく、妙に生まれてくれたものだな。ええ?」

「で、でも、先生……サーティンはそんな俺らには反則じゃないですかねえ」

「サーティンは魔法意外の攻撃を全て無効化する。まあ、お前とは相性が最悪だな」


 そう、秘密学級の四人は皆が皆、特別な体質のもとに生まれていた。

 アネトには魔法が効かないし、ギレッタはさらには周囲の魔法を励起不能にする。アゼルにいたっては、自分に向けられた魔法を倍加して弾き返す力を持って生まれた。

 そして、サーティンは真逆に、魔法以外のダメージを全く受けない。

 アゼルの奮闘の証は確かにサーティンの肩口を切り裂いていたが、流血はなかった。


「エノア先生、状況終了。次の指示を請います」

「わかったわかった、たった四人の学級では模擬戦の組み合わせも限られてしまう。なだば、だ……考えろ。お前たちは皆、この魔法文明社会の異端児だ。まともじゃない」


 エノアはそう言って、一度手にしたお茶で唇を濡らす。

 そして、ふうと溜め息を一つ零してから子ッと場を続けた。


「互いの相性を考え、連携して戦う術を見付けろ。例えば、そうだな……サーティン」

「はい」

「お前には魔法以外のダメージが通らん。自分でもわかろう? 痛みはあっても、血もでなければ体力の消耗もない」

「その通りです」

「その魔法を一定範囲内で封じて無効化する、使用不可能にするのがギレッタだ」

「……連携によっての相乗効果に期待が持てそうですね」

「そういうことだ。それはこの場の全員に言える! 頭に叩き込んでおけ!」


 アネトにもそれはわかっている。

 例えば、アゼルの『あらゆる魔法を倍加して反射する体質』は、アネトとは相性がいい。相手が強力な魔法を行使した時、アゼルはその威力を増幅して跳ね返す。

 そんな相手にアネトは、全く無関係に攻めていけるのだ。

 アゼルが跳ね返した魔法は、アネトの身体には全く傷一つつけない。

 こういう特異な人間が、どこの国にも数人はいるらしかった。

 そして、冒険者派遣を主産業とするオーレリア帝国では、特別に珍重されている。


「さて、模擬戦はそろそろいいだろうが……全員、集合!」


 エノアの言葉に誰もが集まる。

 こうして四人ならぶと、体質もだが得意武器も様々だ。アゼルは両手持ちの長柄の斧を好むし、ギレッタは槍を使って時には両手に二刀流ならぬ二槍流を見せる。そんな二人とは真逆に、サーティンはいつも両手に逆手にナイフを握っていた。

 そして当然、アネトは両手両足が武器、そして最大の防具である。

 相手が魔法を放った瞬間、それを無効化してカウンターで零距離の一撃必殺。

 これがいうなれっば、アネトの必勝パターンだった。


「お前たちにそろそろ言っておく。このオーレリア帝国は古来より、一騎当千の冒険者を派遣することで外貨を稼いできた。農業や蓄膿も盛んだが、メインの収入はこれだ」


 そう、人材派遣がオーレリア帝国の主産業。

 冒険者として各地のダンジョン調査や秘境探索を行い、必要とあらば傭兵として雇われ戦争に赴く。そんな中で、このアトラクシア学術院の卒業生というのは、最も信頼できる人材として各国で重宝されていた。

 だが、アネトたち特殊な人間はいささか扱いがことなる。


「僕たちはその体質ゆえに、要人の警護、というか身代わり、その他特別な任務に派遣されるんですよね? エノア先生」

「そうだ、アネト。貴様ら全員がそうだ。」


 不意にエノアは、苦悶に唇を噛んで、思いだしたようにいつもの無表情に戻った。


「栄誉だなどと思うな、選ばれた人間だと己惚れることも許さん。私が求めることは一つ! ……生き抜け。誰がどう貴様らを使おうとも、生きて帰ってみせろ。午前は以上だ」


 それだけ言うと、エノアは去っていった。

 その両手が、ギチギチと握られている。まるで、爪が食い込む痛みが聴こえてきそうなほどに震えていた。

 それはそれとして、アネトは時折エノアが見せる感傷的な態度が嫌いじゃない。

 そして、ずっと思っている。

 言われなくても生きてやる、生き延びて生き残ってやる、と。

 そうでなければ、義姉のリーゼロッテの力にはなれないからだ。


「はいはい、解散、解散! 御飯いく? ちょっと早いけど、アゼル、アネト、あとサーティンも」

「……ギレッタは本日、自前の弁当を所持していないと確認」

「あーそうよ、そうなのよ! 寝坊して弁当どころじゃなかったんだから。……遅刻はヤだし」

「サーティンからこれをギレッタに譲渡。学食の割引券。これを使用すれば、ギレッタでもお腹いっぱいになる」

「……ごくっ! って、はぁ? ちょっと、アンタねえサーティン! アタシのことを何だと思っているの!」

「よく食べる北方の戦士。よく食べる人。よく食べる女の子」

「失礼しちゃうわね、ほんとにもう! ……よこしなさいよ、割引券! ほらっ、行くわよみんな!」


 プンスコとギレッタが歩き出し、その態度に大きく首を傾げながらサーティンが続く。いつもどおりアネトは、アゼルと苦笑を交わしながらそのあとを追うのだった。

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