アチコ
とある私の休日。
ふと、アチコのことを思い出した。
そういえばアチコって魚卵食べられないんだっけ、なんてどうでもいいことが掃除機をかけている最中に頭に浮かんだ。
掃除機を置いて、貴重品を入れてある棚をあさる。
通帳、パスポート、マンションの契約書の下から手帳が出てきた。
ぶどう柄の紫色の手帳。
「里香が絶対買わないだろうデザインと色で選んだ」
そんな風にアチコからプレゼントされた手帳ーーーだったと思う。
手帳には写真が4枚挟まっていた。
教室、学校の帰り道、私の部屋、病院、どれもこれも見覚えのある場所。写真は全てツーショットで、私と一緒に写っている女の子がーーーアチコだ。
そうだそうだこの顔だ、思い出した。
神様がプロモーション用に作った顔、なんて男子に言われてたっけ。モテてたなーこいつ、ノーメイクでこの華はずるいわ。これで高校生なんだから、確かに横の私と比べると作り方が全然違う。
写真と手帳を持ってソファーに腰を下ろす。
「数学は地球外生命体」「チョコミントは事象の地平面」
意味のわからないアチコの言葉が次から次へと頭のなかで再生される。
掃除はもう終わり、昼はカップラーメンだな。
今、アチコは戦っている。
思い出したということは、そういうことだ。
手帳をめくる。
アチコのことを忘れるまで、アチコのことを想うだけ。
私にできることはそれくらい。
大丈夫、アチコならきっと魔女に勝つ。