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第5話 小遣い稼ぎ②

 ギルドの入口のすぐそばにある治療室はこざっぱりとしていた。ヒーラー用の机に椅子、それから患者用のベッドが3台ある。別室にさらに20台ほどあるが、その内半分がすでに埋まっていた。小さく呻いている声も聞こえてくる。


「あの人達の治療はどうなってるんですか?」


 治療室担当のギルド職員に尋ねると、少々困った顔をして教えてくれた。


「前任の方が解毒魔法がお得意ではなくて……」


 つまり完璧に治っていないということだった。


「あらま……じゃあその場合の支払いは?」

「我々の方で査定させてもらいます。完全回復には程遠いので今回は少額払いです。それで機嫌を損ねられてそのままお辞めに……」


 急遽ヒーラーを探していたのはこれが理由だったのだ。冒険者ギルドの常駐として、一定レベル以上のヒーラーがいるという信用でお金をもらっているからには求めるレベルも上がる。

 C級であればそれなりに場数をこなした者である、というのがこの世界での常識だ。前任者もC級のヒーラーだったが、どうやらそれほどヒーラーとしてのレベルは高くないようだった。パーティランクに引っ張られ実力以上の評価が付く冒険者も稀にいる。


(早く言ってくれれば良いのに)


 命に関わる毒ではないらしいが、それでも長時間苦しむなんて気の毒である。


「じゃあ治療しますね」


 瞬く間にその10人は回復した。ギルドの職員はその手際の良さに驚き、いい人が来てくれたと大喜びだ。


「こんなに手早くこの人数を治療される方を見たことがありませんよ!」

「いやいやそんな~」

「数日かけて2、3人ずつと思っていてので……まさかすぐさま治療されるとは……」

「いやいやそんな~!」


 トリシアはあからさまに照れていた。久しぶりに褒められてどう反応していいかわからない。元パーティの2人からは当たり前のことだと感謝もされなくなっていた。


「いえ! 私はここを担当して長いんです! A級のヒーラーでもここまでありませんよ!」

「A級のヒーラーがいるんですか!?」


 トリシアはビックリしていた。ヒーラーは良くてB級止まりだと思っていたのだ。それ以上は戦闘に参加する上で確実に足手纏いになるというのが常識だった。


「ええ。ご本人が防御魔法をかなり訓練されてましてね。自分の身は自分で守ってらっしゃいました。もう引退されましたが」

「へぇ~」


 突然、別のギルド職員が走ってやってきた。


「すみません! 6人来ます! 大丈夫ですか!?」

「ええ!? たった今10人治療されたばかりなんだ……」


 職員はトリシアの魔力量を心配したらしかったが、彼女には関係ない。


「大丈夫です! 早くこちらに」


 患者を連れてきたギルド職員の厳しい表情で重症度が高いことはわかった。

 もちろんトリシアはなんの問題もなくその6人の治療も終わらせた。傷跡一つ残さなかったので、特に女性の冒険者からは喜ばれた。


「いやあ本当に凄い! まるで怪我などしなかったようです! しかもまだ余裕があるように見えますが?」

「いやぁ~どうやら魔力量だけはあるようなんですよね~……他の魔法はサッパリなんですけど」


 これはトリシアとルークで共有している彼女の《()()》だった。


 彼女の魔力量は並みレベルだ。回復魔法自体はスキルを隠すために訓練し、実際それなりに使えるが、ここまでの効果は発揮しない。魔力を消費すると疲れるので、そもそもトリシアはあまり魔法を使うのが好きではなかった。


◇◇◇


「ルーク! やっぱり今日は私が奢るわ!」


 初日からいい収入になった。小遣い稼ぎどころではない。本業にしても問題ないくらいだ。


「なんだ。上機嫌だな」

「私この街気に入った! 初日から大儲け~!」


 小躍りしたくなるような気持ちはいつぶりだろうか。ルークもトリシアの表情を見てホッとした顔つきになっていた。


 いい仕事をした後のご飯は美味しいものだ。ルークおすすめの食堂も最高だった。こうしてトリシアはエディンビアでの初日をとても幸先良くスタートさせることができたのだ。

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