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第5話 双子②

「ちょっと!!! アンタまだそんなことやってんの!?」

「げっ! お前は……!」


 トリシアに気がついた店主は、以前のことをまだしっかり覚えていた様子だった。気をつけろよ! とだけ言うと、シッシッ、と犬を追い払うかのように急いで双子を店の前から追いやる素振りをとる。


(強いのが出てくるとあっという間に手のひらクルッとするところもクソ上司と同じでムカつく……!)


 前世の気分の悪くなる記憶を呼び覚ましてしまったせいか、トリシアはどうにも気持ちが荒れてくる。どうにかこの男を少しでもギャフンと言わせてやりたくなってしまった。


「言っとくけどこの子達、Sクラス倒してるからね。アンタ程度瞬殺よ瞬殺!」


 指で首を切るジェスチャーをしながら、精一杯馬鹿にした調子で吐き捨てる。それにしても他人の力を使って強ぶる必要があるのが、ヒーラーの悲しいところである。だががそんなこと今更気にするトリシアではない。


「それ本当のことだぞ」

「新人の姉弟の噂ぐらい聞いただろ」

「あっという間に階級も上がるだろうよ」


 以前からこの店主の卑怯なやり口に腹を立てていた者は多い。そのせいか近くにいた冒険者達も追撃した。


「ヒッ!? まさか例のE級!?」

「なんだ。知ってるんじゃない」

「そそそ、そんなこと本当にあるなんて思わねえよ!」


 小さく悲鳴を上げると化け物を見る目をして双子を見た。元冒険者であれば、Sクラスがどういう存在かは理解している。

 どうやら商人らしく、E級がSクラスの魔物を倒した情報は聞いていたようだが、信じてはいなかったようだ。


「ああああの! し、失礼しました……私の勘違いだったようです!」


 そう言って慌てていくつかの商品を袋に詰め、双子に無理やり持たせた。


「いい加減にしとかないとまた怖ーい人(ルーク)にキツめに怒られるわよ!」


 自分は虎の威を借る狐だとは思いながらも、トリシアは自分に都合よく考えることにしていた。


(立ってる者は親でも使えって言うし。親代わりの領主の息子くらい使っていいでしょ)


 ムカつく店主に捨て台詞を吐きながら双子の手を引く。


「ほら! もう行くよ!」


 双子はトリシアが来てからもずっとオロオロしっぱなしだった。手を引かれている最中もどうしていいかわからない風だ。

 

 中央広場から少しだけ離れた場所まで連れ出して、お節介とは思いながらも少しだけ忠告をする。


「残念だけど、世の中いい人ばっかりじゃないんだから。魔物はいなくても自衛は大事よ!」

「……ありがとう」


 2人はまだ戸惑っていたようだった。なぜ店主はついさっきまで怒っていたのに、急に態度を変えて買ってもない物までくれたのか理解できないのだ。ただ、トリシアが困っていた自分達を助け出してくれたのはわかっていた。


(どうも世間慣れしてなさそうなのよね~元貴族とかそんなのかしら?)


 だが貴族からにじみ出るオーラを感じない。浮世離れしてはいるが、彼らには貴族の人間から感じるゆとりがなかった。


「今までどうやって生きてきたの? あんた達生活感ないわよね~」


 ただの世間話のつもりだった。それから少し注意をする意味も。もう少し世間のよくない面を知ってほしかったのだ。


「あ……その……私達は……戦い方ばかり教わっていて……」

「迷惑を……かけた……」


(え……なんかヘビーな過去持ち!?)


 しまったと思ってももう遅い。そのままずるずると、彼らの生活面をサポートすることになったのだった。


「野営!? あんた達お金はあるでしょ!?」


 あれから結局彼らの生い立ちを聞くことになってしまった。屋台で買った串焼きを頬張りながら思わぬ発言にトリシアはゲホゲホとむせてしまう。


 双子はSクラスの魔物を倒し、その素材を納品している。しばらく大盤振る舞いしても十分に暮らせる額は持っているはずなのだ。いくら宿屋が空いていないとはいえど、ある程度金を積めばどうにかなる。


「いい装備でも揃えたの? 武器とか?」


 双子の武器はそれぞれ魔石が嵌め込まれているのがわかった。それだけで高価なのがわかる。


「……これは父が作ったもので……一般には出回ってないんだ……」


 大事そうにそれぞれの武器に手を触れた双子を見て、トリシアは彼らのことがどんどん放っておけなくなっていることに気が付いた。


(まったく私は……自分の面倒も満足に見れないっていうのに……)


 自分自身の行動に苦笑しながらも、最近安定した稼ぎがあったからか、心に余裕が出てきていたことも気づいていた。 


「へぇ! すごく綺麗な武器じゃない! センスのいい鍛冶屋さんなんだ」


 しげしげとトリシアが2人の武器を見つめると、なぜか人間の方が顔を赤くして照れていた。


「どうしたの?」

「父を……褒めてもらったようで……嬉しくて」

「……形見なんだ」

「そう……」


 それからまたポツリ、ポツリと自分たちのことを話し始めた。


「父は……誰かから逃げていたようで……ずっと魔の森の中で暮らしていたんだ……」

「えっ!? はあ!? よ、よく生きてたわね!?」


 魔の森で暮らすなんて、なんとも信じられない話だった。が、確かめる術はない。なによりこの2人がそんなウソをつく理由もないだろうと思ってトリシアはもう信じるしかなかった。


(それであれだけ強いのかしら?)


「父ともう1人……父の弟子のような人がいて……その人も死んだから魔の森から出ることにしたんだ……」

「あまり……人里で……暮らしてこなかったから……まだ少し……どうしていいか……わからないことが多くて……」 

「あなたが助けてくれて……とても助かった……」

「ありがとう」


 改めてお礼を言われてトリシアは照れた。双子は不特定多数の人と関わることに慣れてはいないが、それが嫌だというわけではないのだ。むしろ今は毎日が刺激的で楽しいらしい。


この街(エディンビア)は……父から……話を聞いたことがあって……」

「……海も見てみたくて……」


 そう言いながら同時に目を伏せた。


「でも……私達に……この街は早かった……みたいだ……」


(ああもう! なんで放っておけないなんて偉そうなこと考えるの私~!)


 それは自分がパーティから追放された時、たくさんの人が自分のためにアレコレ気遣ってくれたことをちゃんとわかっているからだ。


(自分がしてもらったこと……少しは社会に還元すべきよね)


 それにSクラスを倒す実力者達だ。恩を売っていて損はない、そう打算的な理由を無理やりとこじつけた。


「小さな街の方がコミュニケーション能力が高くないと厳しいと思うわ。この街で少し勉強すればいいじゃない」 

「……?」


 双子はトリシアが何を言っているのか、何を言いたいのかわからなかった。


「私でよければ少し手伝うわってことよ」

「……!」


 双子の顔が同時に明るくなる。いつも無表情だったので、そんな顔もできるのかとトリシアは驚いた。


(旅は道連れ世は情けってね)


 そう前世の言葉を思い出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「小さな街の方がコミュニケーション能力が高くないと厳しいと思うわ。 本当そうっスねー… (速攻でBランクから転げ落ちたどこぞのバカップル(特に男の方)を見遣りつつ)
[良い点] ほんわかした雰囲気が好きです
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