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番外編&後日談2 王都の学生(おまけ)

 エディンビアに残ったパース、プレジオ、フューリーは、同じくエディンビアを拠点としている龍の巣の冒険者や二号棟の冒険者達にこれでもかと甘やかされていた。

 具体的には、暇さえあれば誰かしらケルベロスをダンジョンへと連れ出したのだ。


 例えば……、

 双子は朝の()()()、自分達が討伐した魔物の肉もケルベロスに与え、

 ダンは彼らの好物の魔物が出没しやすい隠れエリアを見つけ出し、

 エリザベスとリーベルトからは超巨大な魔物の共闘討伐に駆り出され、

 ルークはハービーがあまり行かなかった奥の階層まで連れ出し、珍しい魔物を狩らせた。

 もちろん、狩った魔物はもれなくケルベロスの腹の中へ。


 はじめはケルベロスにとっても、他の冒険者達にとっても狩りの時間はハービーがいない寂しさを紛らわす意味が大きかったが、次第に冒険者達はケルベロスとのダンジョン巡りの楽しさに気づき、誰もが彼らと()()へ行きたがった。

 ケルベロスの方はダンジョンへ行くこと自体に不服はなかった。だがしかし、これまでにない頻度で連れ出され、その度に魔物を食べれば、流石のパースもプレジオもフューリーもお腹いっぱいだ、という顔つきになっていく。日に一度のダンジョンでの食事が、日に三度となれば仕方がないことだろう。


「ムシャムシャ美味しそうに魔物を食べるのを見るの、見てて気持ちがいいんだよな」


 と、感想を述べる冒険者に同意する者も多く、それだけ誰も彼もケルベロスに食べ物を与えたがった。


 そうしてケルベロスは食べに食べ続けたせいか、気が付くと縦にも横にも大きくなっていた。言葉を発せられない彼らを見て、ストップをかけたのはトリシアとアッシュだ。


「テイマーごっこはほどほどに!」


 心当たりのある冒険者達はドキリ! と気まずそうな顔をしたあと反省した。はじめこそハービーがいない寂しさを紛らわすためだったが、いつのまにかこれまでに経験のないケルベロスとの()()という非日常は、腕の立つ冒険者達をも虜にしたのだ。


「ケルベロスとダンジョンなんて、なかなか経験できることじゃねぇからなぁ」


 と、アッシュはゴロリと転がったプレジオたちの大きく膨らんだお腹をワシャワシャと力強く撫でながら笑っていた。


 そうしてようやく、ケルベロスの平穏が返って来た。彼らは龍の巣の庭でノンビリ昼寝をするのも大好きなのだ。そこで同じく大好きなハービーのことを思い浮かべながらウトウトと目を瞑った。


 パース、プレジオ、フィーリーはとある魔の森で生まれたてのところを、飛竜(ワイバーン)に餌として連れ去られたが、途中で()の取り合いとなったワイバーンの抗争に巻き込まれた末、上空から落っことされてしまう。そしてそんな彼らをたまたま拾ったのがハービーだった。


「そ、そらからかわいいこいぬがふってきた! いっぴき……? ちがう? さ、さんびき?」


 まだ目も開いてないケルベロスの赤ん坊を、ハービーはこっそり、だが懸命に育てた。


 ずっとハービーと一緒にいたせいか、本来獰猛な魔物とされるケルベロスは人間を餌とは認識してはいなかった。もちろん共に生きている家族に害が及ぶとなれば話は別だったが。幼い頃、ハービーが小さな体で必死に自分達を守ってくれていたことをしっかりと覚えている。


「お前の相棒は……ケルベロスの中ではまだきっと若い方なんだな」


 魔物学者の伯父の元で暮らしているジャスティンは、ハービーの家族兼相棒についても興味津々だ。


「た、たぶん……たしか、確認されている個体には三百年以上生きているモノもいるって……」

「ああ。魔物の中でもケルベロスは長命だとされている」

「ジャスティン坊ちゃんは本物を見たことがあるんで?」

「あるわけないだろ! それから坊ちゃん呼びはいい加減やめろ!」


 ビアールドとジャスティンがいつものように食堂でじゃれている。その横でハービーはこっそり遠く離れたエディンビアにいる相棒のことを考えていた。

 自分と一緒にいる時間よりずっとずっと長い時間を()()は生きていく。ケルベロスの人生の中で自分といる時間はほんの一瞬の出来事なのだ。そう考えるとどうしようもなくハービーはプレジオ達に会いにエディンビアへ帰りたくなる。


「会いたいなぁ」


 そう漏れ出た心をジャスティンはすぐに拾い上げた。


「よし。夏季休暇に行くぞ。オレも連れていけ」

「え!? でも夏季休暇は基本研究課題に潰れるって……」


 師範学校の唯一長い休みが夏季休暇だが、在学中の生徒は各自研究論文を提出しなければならない。もちろん出来が悪ければ卒業から遠のくので全員必死になると聞いて、ハービーはエディンビアへの里帰りを諦めていたのだ。


「魔物学の実地調査だ。なんなら教師陣も誘おう。伯父も行きたがっていたからそれなりの人数が見込めるぞ。道中の護衛を全員で雇えば多少は安く済む」

「えぇいいなぁ! 自分も混ぜてくれ!」


 楽しそうに計画をたてる二人と満面の笑みになっているハービーを見て、周囲の学生もなんだなんだと集まってきていた。


「ぼ、僕案内しますね!」 


 のちに師範学校では、夏季休暇に有志を募ってエディンビアや他の地域へ学業に関わる旅を団体で行うようになった。


「修学旅行じゃん!」


 エディンビアの街に大人数で帰って来た経緯を聞いたトリシアは思わずそう叫んだのだった。

次回更新は7/1(月)の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] そのままご飯のおいしさとか物価の(王都と比べると)安さとか医療水準の高さとか魔物アクセスの良さに気づいて居着く師範学校卒業者が増えて風が吹けば桶屋が式に教育水準まで上がりそうですね…。
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