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イチャつくのに邪魔だからと冒険者パーティ追放されました!~それなら不労所得目指して賃貸経営いたします~  作者: 桃月 とと
冒険者の街

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第10話 裏路地

「冒険者向けの集合住宅ですか~いいですね!」


 トリシアとスピンは大盛り上がりだった。


「確かにこの街にならあってもいいなぁ。拠点にしてる冒険者多いですもんね」

「そうなんです! それにC級以上もたくさんいますし、そこまで懐がスカスカって人もいないんじゃないかと……家賃は1ヶ月ごとの前払いにしておけば取りっぱぐれもないですし」

「そうですね。それはその方がいいでしょう」


 うんうん、とスピンは頷いた。


「トリシアさんもそこに住まわれるんですか?」

「はい! 1番いい部屋を使うつもりです」


 それは前々から決めていた。なんてったって自分の城だ。自分のための家を作り上げるのだ。


 スピンはとても嬉しそうな顔をしていた。


「トリシアさんが作られる家はきっと素敵なものになりますね」


 この夢をこれほど語ったのは初めてだった。恥ずかしかったわけではないが、誰にもケチをつけられたくなかった。それくらい大切だったのだ。


「いやしかし、C級でこれほど予算を貯められるとは……感服です」

「いや~あはは……」


 この件(パーティ預金)に関しては積極的に語ることができないトリシアだった。


◇◇◇


 大広場を抜け、商業ギルドの横を通り過ぎる。


「もう少し歩きます」


 少し前から細めの道を右へ曲がり左へ曲がり……少し坂を登って分かれ道は左へ……どんどん奥まった場所へと入っていく。


(ヨーロッパの路地裏みたい)


 彼女はどんどんワクワクしてきた。どの道もとても綺麗に掃除されており、家々のドアはシンプルな美しい装飾で飾られ、至る所に花があり、お年寄りがニコニコと会話を楽しんでいた。この辺りの住民向けの小さなパン屋と小さな商店も。


「別の道には小さな飲み屋と小さなカフェもありますよ」


 トリシアの表情に気がついたスピンがさらにトキメク情報を追加した。


(はぁ……なんて素敵な……ウットリしちゃうわ)


 だがしかし、問題もあった。


「道覚えてる……?」

「まあな」


 トリシアはこっそりルークに確認したが、彼は得意気に答えた。


「ハハ! 帰りに冒険者ギルドへ行くルートを通りましょう! そちらの道はここまでないですよ」


 どうやらこの辺りは地元の人達が多く住んでいるエリアのようだった。通りすがりの人にスピンが声を掛けられることが増えたころ、ついに目的地に到着した。


「……わあ……」

「これは……なかなかだな」


 案内してくれたスピンに正直な感想を言えずにいた。彼とはとても話が合う、どうにかこれからも仲良くしたい相手なのだ。下手なこと言って彼に嫌われたくない。


「アハハ! 言ってもらって大丈夫ですよ! ボロボロですよね!」


 スピンは気を使われたことがわかったようだ。


「床……抜けちゃってますねぇ~」

「窓も……ガラスがないな」


 大きな廃墟だった。《()》は立派だったのがわかる出立ちだ。一階部分は何かの店舗だったのか、広めのスペースになっている。横から裏庭へ入る入り口が見えた。


「だけど躯体はわりとしっかりしてるし、売主は安く提供してくれるんで改修費にお金回せますよ!」

「そうなんですか?」

「これ、持ち主僕なんで!」

「ええ!?」


 まさか直接売主から営業をかけられるとは。ここで若干トリシアは身構える。


「曽祖父の代まで宿屋をやってましてね。どうにも皆手放せずここまできたんですが、建物を所有しているだけで税は取られますし……」

「……思い出の建物なんですね」


 懐かしむように話すスピンを見てトリシアは少し警戒を解いた。

 わざわざ税を払い続けてまでこの建物を所有し続けているということは、何か大切な理由があってのことだと思ったからだ。


 スピンは優しい表情でニコリと笑った。


「やっぱりここまで古くて内装が壊れていると修復するにしても費用がかかりますし、場所もね……商人ギルドからはそこそこかかったでしょう? 今更ここを宿屋にって人もいなくって」


 建物を見ながら話を続ける。


「だけど変な人には売りたくないし……トリシアさんの話を聞いて、ああついにこの場所が生まれ変わる時が来たなって」


 そして急に我に返ったかのようにハッとした。


「あぁすみません! それより中を見てください! あ! 足元に気をつけて!」


 大きな扉を開け中に入ると、床がミシミシと音を立てる。


「うわっ!」


 床に穴が空き、トリシアの足が床の下に落ち込む前にルークが支えた。


「ありがと……」

「C級ねぇ~」

「ぐっ! C級ヒーラーです~!」


 そのままルークはトリシアの腕を離さなかった。

 2階に上がった時、スピンがニヤリと笑った。


「ふっふっふ! 実はとってもいいものが見えるんですよ~」

「うわ! 海じゃねーか!」

「上の階はさらによく見えます」


 スピンは得意気に言う。


 高台のような見晴らしだった。家々の屋根のさらに奥、左端に少しだけ海が見える。それに海以外の見晴らしもいい。


「庭も結構広いのね」

「そうですね。昔は馬小屋もあったんですよ。もう崩れちゃってますけど」


 外には何か建っていた痕跡が何箇所かある。スピン曰くトイレと馬小屋だったものとの話だった。


「そんなに坂道じゃなかったわよね?」

「ここが高いというか、ここより向こう側の土地が低いんですよ」


 ちょうど気持ちのいい風がトリシア達の肌を撫でる。


(うわぁどうしよう! すごくいい……!)


 どんどん気持ちが昂ってくるのがわかった。


(庭なんて考えてなかったわ! どうしよう!?)


 スピンはトリシアの表情をみて安心していた。自分の予想通り、彼女はこの建物を気に入ってくれたと。

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