第8話 テロリスト【##】⬛⬛のテロ
【テロの実行犯ロテの場合】
血と爆煙の中で、【長男】ファストとミルバル博士がテロリストになった【三男】ロテと裏切りのスタッフと相対する。
「よく隠れたな、お兄ちゃん。弟はうれしいよ、僕の計算通りに生き延びてくれて!」
あまりの豹変ぶりにミルバル博士が恐れをなしてがくがく震え始める一方で、ファストは努めて平静にロテと接しようとしている。ロテが恭しくお辞儀する。
「こんばんは、俺は反人造人間過激派テロ”自然の道”所属のロテでぇす」
「……そうか。僕たちを裏切ったんだな、ロテ、目的はなんだ?」
「まず大勢の人を殺したことを責めないのかお兄ちゃん!」
「お前がわかりきっている答えを出すつもりはない」
「はぁー……。お兄ちゃんはいつも昔からすべてを見通していそうで、そんな兄ちゃんが俺は嫌いだよ」
「もうお前は僕たちと兄妹だったころには戻れない、ロテ! 教えろ、僕たちと兄妹だったことを捨ててまで何がしたいんだ!」
【長男】、いや、テロリストにとってはもう赤の他人になってしまった【人造人間01号】ファストの言葉を聞いて、ロテは深ーーーーーーーーーーいため息をつく。
「俺は、造られ落ちた時からずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと退屈だった。いつもセンターの外を眺めていた。ずっと出たいと叫んでいた。でもお前とニンゲンたちは”まだだ、まだ”という。」
ロテの目つきが鋭くなり、血管が浮かび上がる。
「俺はニンゲンより優れたAI搭載の人造人間。可能性の塊。今のニンゲンを超えた新人類なんだぜ! それをこんな鳥かごに閉じ込めやがって、俺は怒っているんだぜ!」
ロテの言葉に怯まず、ファストが反論する。
「それがこの結果か? 人造人間に反対する組織に所属して他の可能性を潰すことがお前の望みだったのか? お前にはもう可能性溢れる未来なんて来ない」
ハッ、とロテがファストの言葉を一笑に付す。
「どんづまりの世界には、どんづまりの未来しか訪れない」
ファストの耳元でロテがささやいた。さすがのファストも、背筋に寒気がはしる。
「こんなどんづまりの世界で可能性の未来とはよく言ったもんだな、お兄ちゃん!」
そういうとロテと裏切りのスタッフが踵を返し、外で待機しているテロリストのトラックへと向かおうとする。
「お前の望みはただただ破壊することだったのか、ここを!」
その背後からファストが叫ぶ。振り返らずに、ロテが答える。
「ああ。そして、それは2番目に作られた【失敗作】の人造人間の写真を公開することで完成される」
青ざめるファスト。それは、このセンターの中でも禁忌の行為。———事故で異形になり果てた【長女】のことを公開するつもりだ。
「まてっ、ロテ……おい、待て!」
ファストの制止もむなしく、ロテは歩き去る。
【五女ジルカレの場合】
警報が鳴りやまない。赤い回転灯がけたたましい程に回っている。2m間隔でスプリンクラーが作動して、廊下を通り過ぎるたびに濡れる。———そして、そこかしこに銃弾を受けた跡のあるスタッフの死体が横たわっている。
「うっ、ぷ……」
吐きそうになるのをこらえてジルカレは走る。自分が助けられる人を探すために。すると、遠くで銃声が聞こえる。
「あそこ、だ」
銃声が聞こえるということは、そこに生きてる人がいる。間に合え。間に合わせろ。そう念じながら、AIが導き出す最短経路を突っ切る。———そこは運搬物点検室で、たくさんの死体が横たわるなかでひとりのテロリストが倒れているトゥレルに銃を突き出している。
「やめてーーーーーーーーーーーーっ!」
ジルカレが叫んでテロリストの気をそらす。声のした方へテロリストが目を向けるが、そこにジルカレはいない。既にテロリストの懐に潜っているからである。
「お前なんか……転んじゃえ!!!」
的確に膝を狙った蹴りでテロリストが転倒する。倒れた衝撃で手からこぼれた銃がトゥレルの手元へ滑り込む。
「お前の膝なんかこうだ!!!」
続いてジルカレがテロリストの膝の皿を踏みつけて割り、二度と歩けないようにする。膝を割られたテロリストは激痛のあまり、もはや転げまわることしかできない。
「ジルカレ……なんで助けに? 嫌いな私たちのことなんかほっとけばよかったのに」
その声を発したのはトゥレル、ジルカレにいたずらされて怪我したことのある女性のマッチョスタッフだ。
「違う。わたちはもう理解したんだ。わたちたちの生活は、見知らない人間たちの働きによって支えられているって気づいたの。このセンターの中でも外でも、議員さんがあちこち駆け回っていろんな人を説得してくれたり、あなたたちだって運搬物の点検とかでわたちたちの安全を守ってくれてる!」
ジルカレがトゥレルのもとに歩み寄り、手を差し伸べる。
「昨日、お兄と一緒にいろんなとこを歩いて気づいたの。だから、もうわたちは傷つけたくない。そのためにも、この惨劇を今は終わらせなくちゃ」
ジルカレの言葉に心を動かされた彼女は、ゆっくりと何かを決意するように深呼吸する。
「そうだな。……行くしかないか」
トゥレルが脚に力を入れて、ひょこひょこ歩きになってしまった脚でなるべく走れるようにする。手元には、テロリストが手から零した銃を手にしている。
ジルカレとトゥレル、人造人間とただの人間が手を取り合って歩いていく。