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培養槽の兄妹たち  作者: 観測者エルネード
人造人間とAIの章
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第44話 制限世界ティオルシア国

【兄妹たちの場合】


 ”発展の会”所属のディーガッシャ・キオストルが大統領になり、エルカレやジルカレが行っていたAI講座などの人造人間たちの活動は制限された。元々外出のできない人造人間たちは、これで完全に外に出る機会を喪失した。


 ジルカレが1Fの窓に腰掛けてつまらなそうな瞳で草原の庭の草が風でなびくさまを眺めている。


「はぁ……」


 時折葉が舞ってきては、それをつかまえて日光に透かしてみる。葉脈が浮かび上がって美しくも少々グロテスクな正体を表す。それをジルカレは脚をぶらぶらさせながら眺め、手を離して風に舞わせる。


「……ひとつひとつ違うなぁ……」


「どうしたの、ジルカレ?」


 スタッフのトゥレルが廊下の側から声をかけてくる。


「プロテインの飲みカスついてるよ」


「あっ! ……で、どうしたの?」


「なんも。 やることがなくて暇なだけ」


 採血もテストも、最近になって間隔が広くなったのだ。同じようなデータばかりで、頻繁な観察の必要性が薄れてコスト削減のために間隔を開けたのだ。


「そっかぁ。……じゃあ、センター長のミルバルさんと話してみる。なにかやりたいことあったら教えてね」


 スタッフのトゥレルの影が遠ざかっていく。ジルカレは廊下におりる日光と影に目を向け、しばらくそのままでいた。




「最近大人しいね、ジルカレちゃん」


 食堂でジルカレの隣にドゥーレが夕食のトレーを置く。ドゥーレのトマトスープからは湯気が出ているが、ジルカレのコンソメスープには湯気がない。


「最近、本当に色々あったよね」


 ドゥーレが目を瞑ってから、言う。瞼の裏に蘇る記憶をなぞりながら、ジルカレに語りかける。


「思えば、ロテ君の暴走からAI事件、国公党のことまで沢山あったね」


 こくり、とジルカレが頷く。


「状況は厳しいけどさ。一息付いた今はなにも考えなくて良いんじゃない?」


「……けどさ。今の私はからっぽで、何をしたいかもよくわからない。この掌で未来の何を掴めば良いのかわからない」


「いんじゃない、分からなくて」


 ドゥーレがハンバーグをナイフで切り分け、断面から温かい香りが立ち上る。


「いまはゆっくりでいいさ。ゆくゆく見つければ良い」


「そういうものかな……」


 ジルカレの視線が宙を泳ぐ。冷めたスープに口をつける。



 半年後、ジルカレにひとつの大きな出来事が起こる。


「私に面会者……ですか?」


「そうだ。望むなら1週間後に会わせる。エルカレは了承済みだが、どうする?」


 ファストがジルカレの面前に立ち、予定を告げて意思を確認する。当のジルカレは、胸に手を当てて逸る鼓動を抑えようとしている。


「……緊張するのも無理はないか。ジルカレとエルカレの細胞の元となった細胞提供者、つまり実質の親と会うことになるんだからな」


「そりゃそうでしょ。むしろ、なんで今まで会わなかったのか。いや、会わせてくれなかったのか不思議だよ」


「そこは政治が色々とな。……で、会うのか、会わないのかどっちを選ぶんだ?」


 ジルカレが上を仰ぎ、頭を手で覆う。しばらくそうしたあとで、ジルカレがファストに視線を戻す。


「会うよ、私。色々と話したいことがあるんだ」

これからはこの小説は不定期連載としたいと思います。


他に何を書くのか、この物語をどうしめくくるのか、それはまだ考え中です。ですが、筆を止めることだけはありませんのでご安心ください。

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