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培養槽の兄妹たち  作者: 観測者エルネード
人造人間とAIの章
43/48

第40話 泥舟

【兄妹たちの場合】


 人造人間01号こと【長男】ファストはロテのテロについて全てを洗いざらい話した。テロの真相を人質に【四男】について国公党から脅かされていたことと、人造人間の現在のAIは全て不具合を直してあることも含めて。次に、ファストは【長女】のことも話した。これはまだセンターの一部の者と兄妹たちしか知らない情報だということも含めた。


「……今は【次女】ドゥーレが【長女】を人の形に治すべく頑張っています。重要な情報を今まで隠して申し訳ありませんでした」


 ファストとエルカレが頭を下げる。記者会見に来た一部の者からは怒号が飛んできている。

 国公党の本部で、国公党の議員は面食らった。まさか秘密を自ら漏らすとは考えていなかったからだ。一方で、テレビ越しにファストの告白を聞いていた【兄妹たち】は何やら緊張の張り詰めた厳しい表情になっている。


「覚悟はしてたけど、ついに言っちゃったなぁ……」


 ジルカレが応接室のソファに深く腰掛け直す。


「これから法が変わるだろう。民衆の我々を見る目も変わるだろう。この一年間で秘密が漏れても人造人間が受け入れられるように頑張って世論を変えてきたが、この先からはいつ沈むとも分らない泥舟の上に生きるのと同じになるだろう」


 【次男】ファングがそのようなことを言った。

 記者会見場の方で、大統領アル・カークマンが予定にない言葉を喋り始める。


「私たちティオルシア国政府は十数年前、人造人間を製造する法を作った。そして今までに9人ものの人造人間を作ってきた。彼ら人造人間たちは我々に造られた存在なのだ。我々の都合で、我々の勝手な望みで、我々に造られた存在なのだ! 人造人間02号やロテのことは、まさに人造人間を作った我々の罪から生れ出づるものであり、けして人造人間自身の罪ではない! だから、私の属する興国党の皆に、異なる政党である国公党や発展の会など、それからこの国に生きるすべての国民にお願いがある」


 そこでアル・カークマンは一呼吸置いて深く息を吸い、言い放つ。


「たとえ政権が変わるとしても、どうか彼ら人造人間のことは大切にしてくれないか。願わくば、人造人間の兄妹たちをティオルシア国の一員として認めてはくれまいか」


 深々と頭を下げるアル・カークマン。与党である興国党が人造人間の重要情報を隠していた事実は導民党の支持率を大きく下げることになる。それでも、アル・カークマンはたとえ興国党が力を失っても人造人間が生きられる社会を望んで、ティオルシア国の生ける人々に謝罪と懇願をしたのだ。


【世界情勢】


 ロテのテロや人造人間02号の製造失敗を隠していたことが露わになり、ティオルシア国は世界の各国から非難を受けることになる。その過程で優遇措置の解消や風評被害による経済的損失などが出た。ティオルシア国の興国党と国公党は共に支持率を大きく下げ、かつての支持率で言えば三番目の政党、発展の会が政権を握ることになる。

 またティオルシア国内でも、ロテのテロの真実により人造人間の安全性を疑問視する人が増えた。幸いにして人造人間たちがこの一年間で世論にいい影響を与えたためか、人造人間に反対する者は人口の30%に届くか届かないかの人数になっており人口の過半数を超えなかった。それでも人造人間たちを取り巻く社会情勢が厳しくなったのは言うまでもないことであり、人造人間たちはこれからいつ沈むともわからない泥舟のような日々を生きることを強いられる。世界が明確に人造人間を反対する日が来ないように彼らは頑張り続けるしかない。

 後に大統領アル・カークマンがその座を責任を取って引き、新たに政党”発展の会”の総裁が大統領の座につくことになった。その名をデイーガッシャ・キオストルという。デイーガッシャはアル・カークマンの発言を引き継いで人造人間の地位を保障するよう努めると発言した。発展の会自体は人造人間容認派であり、それが人造人間たちの安心材料になっている。



 そして、人造人間たちの秘密の告白は彼らの身近なところにも影響を及ぼしていた。



【ネガステル・カークマンの場合】


 今日は友達の家に遊びに行く予定だったが父さんに止められた。

「今日はテレビの前にいなさい」と父さんに言われた。その表情が険しくて、ああ何かあるのだろうなと覚悟していた。

 でも、でもまさか。人造人間たちが、ジルカレちゃんたちが、父さんと一緒になってテロの真実を隠していたなんて。

 あの記者会見がテレビに生で流れて、ロテのテロの真実を聞いたとき、まず胸の中で悲しみが広がった。どうして本当のことを言ってくれなかったんだ。私は今まで騙されていたのか。その事実がどうしようもなく悲しくて堪らなかった。

 その日はテレビの前で一日中、泣き続けた。

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