第38話 転換点 もう一度、あの場所で真実を
【次男の場合】
あれから一年後。【兄妹たち】は国公党の監視を逃れながら水面下で事態を進めていった。主に国公党の盗聴や監視を逃れるためにダミーデータを使って偽の情報を流して活動していないように見せかけたりしていた。国公党の中でも薄々感づく者はいたが決定的な証拠は握らせず、互いに攻防を繰り返していた。
そして、国公党との決戦の日が近づく。【次男】ファングはセンターの固定電話に手をかけ、電話番号を入力して話しかける。
「もしもし、人造人間04号のファングです。国公党の方と話したいことがあります」
『少々お待ちください、議員に変わります。…………。私だ。人造人間が何の用だ?』
「近くに会話の場を設けたい。あなた方と一緒に我々、人造人間の未来を考えたいのです」
『フム。興国党の奴らとはいいのか?』
「というよりは、これを機に色々な党と話してみようと思いまして」
『わかった。スケジュールは調整してやる、待ってろ』
そこで電話は切れる。電話を置くファング。
「……賭け、か。だが、この一年間、特にジルカレとエルカレはよくやってくれた。ティエルもよく頑張ってくれた。今は我々の頑張りに賭けるしかない。ジルカレ、これでいいのだな……!?」
その場にいないジルカレに確かめるように、ファングが独り言ちる。
【国内情勢の場合】
この一年間、【兄妹たち】が主に頑張ってきたのは、表向きには人造人間が受け入れられる世論づくり。エルカレが介護施設のAIの暴走事件を解決したこともあって人造人間の人気はいまだかつてない程上がっていた。裏向きには、じわじわと国公党の支持率を下げる活動。人造人間たちが様々な人と会って交渉して国公党の信用を下げていったのだ。
そして、国公党では不思議なことが起きていた。
「え? 若手どもが最近あのアイコクと触れ合ってることが多いと?」
「そうなんだよ」
ある中年の国公党議員ふたりが会話している。
「だが、特に気にすることでもあるまい。あいつはどうせ人形じゃからな」
「だが、気になるとは思わんか? 若手が何か動いておると考えられなくもないんだし」
「……そうじゃな。警戒をしておくに越したことはないか」
そして、決戦の時は近づく。
【次男と三女と五女の場合】
「ファストお兄とエルカレは行っちゃったし、ドゥーレ姉は留守番だね」
「ええ。ジルカレ、頑張ってくるのよ」
【次女】ドゥーレに見送られて、ジルカレはファングとティエルの待つ車に乗り込む。
「この車、エルカレの知識が生かされているな」
車のAIのデータを見ながら、【次男】ファングが独り言ちる。それに【三女】ティエルが反応する。
「ええ。今やエルカレのAI知識はこのティオルシア国に浸透しているものね。どこに行ってもにもエルカレの面影がちらつく位には当たり前のものになっている」
その会話に【五女】ジルカレも参加する。
「これから私たちがやることでも、私たちが世界に対してやってきたことが力になる。私たちの一年間の長い頑張りがやっと報われる」
兄妹三人が一緒に前を向き、同じ言葉を言う。
「「「人造人間が自由になれる未来を目指す」」」
同時刻、国公党では騒ぎが起きていた。
「人造人間09号、アイコクはどこにいった!」
「だめです、見当たりません! 急に消えてしまって、これでは……」
アイコクが消えたのだ。この日本来予定していた行事にアイコクは出ず、誰もアイコクのいる位置を知らないのだ。
「GPSは発信機が外されて部屋に置かれていたし、本当にどこに行ったんだ……!」
その時、国公党の人間は奇妙な情報を耳に入れることになる。
「お騒ぎのところ申し訳ありませんが、人造人間01号と07号が本日、予定にないはずの行動を開始しています! 大統領府に向かっています!」
【長男】ファストと【四女】エルカレのことである。
「そういえば今日は一部の若手議員もいないな!?」
立て続けに起こる異変に国公党の者たちは慌てふためくしかなかった。一方、どこか知らない部屋の中で【四男】と国公党若手議員が座している。
「あーあ、俺たちは離反者扱いかな……」
「仕方ないだろ。自分の意志でここに来たんだろお前」
「国公党から除名されたら行先ってお前ら決まってる?」
若手議員たちがそれぞれ会話している中、【四男】だけが時計を見つめて無言を貫いている。
「———時間だ」
【四男】がそう言い、立ち上がる。若手議員たちは【四男】の後に続き、ぞろぞろと部屋を出る。彼らの行先は無数のカメラ視線が集まるところ―――つまり、記者会見である。
「待ってたよ、【四男】」
【長男】が【四男】に握手の手を差し伸べる。大統領府の記者会見場。そこでは【長男】ファストと【四女】エルカレ、大統領アル・カークマンが待っていたのだ。




