第37話 開戦の烽火 見えざる【四男】の心
【四男の場合】
車の群れの中を走るリムジンの中、国公党の議員と【四男】アイコクが並んで座る。【四男】は人形のように眉1つすら動かずに座っている。そんな【四男】を議員が頬をつまんだり膝を捻ったりして反応を見ようとしている。だが、【四男】は本当に眉1つすら動かさない。
「なあ、おい。本当に何も反応しないのな。アイコク」
【四男】は何も返事しない。
「これじゃ人造人間というよりロボットだな。まあいい、お前のおかげで最近になって我が党の支持率が日々上がっている。おいアイコク、流石に返事をしろ」
「はい。支持率が上がるのは喜ばしいことです、国公党こそ我が国の第一党に相応しい政党です」
決まり切ったような定型文句を言う【四男】。議員は少々不満そうにするが、まあいい、と咳払いをする。
「アイコクは我らを裏切ることはない。我らの望み通りに動く我らの忠実なる駒にして、最善の答えを常に導きそのように振舞うコンピューター人間。アイコクの性格に遊びがないのは気になるが、これはこれで我が党に相応しき姿よ」
【四男】は、そんな議員の言葉を無表情のまま聞いていた。
【四女エルカレの場合】
【兄妹たち】は、当面の間は普段通りに動き可能な限りで国公党について情報を集めることにした。スキャンダルでも何でも、奴らの掴まされたくない情報を握れば良いということだ。それと並行して、エルカレはある試みを実行に移そうとしている。
ある日、エルカレがAIについての活動をセンター外でしているときに彼らから接触があった。
「こんにちは、エルカレ様」
エルカレが接触したのは、たくさんある人造人間崇拝派のうちのひとつのグループのリーダー。前髪が長い男だ。
「こんにちは。ここじゃなんだし、場所を移そうか」
エルカレが密かに防諜対策を施してあった密室へと2人だけで移る。国公党の間諜には嘘の情報しか流れないという仕組みになっている。
「しかし素晴らしいです、エルカレ様。この動物のロボットひとつひとつがまるで生きている動物のよう……。やはりあなた方は神の地位を替わるに相応しい」
エルカレに付きまとう動物型ロボット、通称”妖精さん”を前髪の長い男が称賛するがエルカレは流す。
「今はそんなことを話しに来たわけじゃないの。あなた方は私たちのことをそういう風に言ってくれるけど、万能ってわけじゃないわ。今も、ティオルシア国の法律に縛られていて自由がないのよ」
「わかっています、エルカレ様。それでもあなたが介護施設の騒動を鎮めた姿はあまりにも神々しかった。……なればこそ、その神の御業を手助けするのが私たちの務め。あなた方に仕える神官の務めです」
(神官だと? 言ってくれるな、こいつは)
まだ認めてすらいないのに勝手に人造人間達の配下になったつもりでいる崇拝派の考え方が傲慢過ぎてエルカレには滑稽だった。———だが、崇拝派は活動エネルギーだけは凄い。エルカレとしては、そのエネルギーを利用しない手はない。
「ねぇ、あなた方がわたしたちの神官なのだというのならば人造人間のことをもっと宣伝して頂戴。それから、他では絶対に言ってはいけないことだけど」
エルカレが前髪の長い男に耳打ちする。
「国公党は、神を自らの手下に貶めんとする傲慢さをもった屑の集まりだ」
それを聞いた前髪の長い男は、ゆっくり頷いて姿勢を正す。
「そうか……。と言うことは、人造人間09号のアイコク様は訳あって彼らに操られていると……」
察しの良い男はそこまで事情を理解し、ふるふると怒りに燃える。
「かつての与党としての歴史が長い政党だ、一筋縄ではいかぬのでしょうな。しかし、その地位から彼らを引きずり下ろさねばならないことには変わりないのでしょうな」
「ええ。今は野党とはいえ、国公党が主導権を握ってしまうとまずいわ。今の野党第一党の地位から落とさないといけないわ」
「分かりました。ですが、人造人間の人権の獲得に消極的な与党の興国党はどうします? 一緒に下ろしてやったほうがいいのでは?」
「やめて。私たち人造人間を作ってくれたのは彼らだし、世論がもっと人造人間を許容するようになれば自ずと人権を保証してくれるようになるわ。興国党は味方よ」
「分かりました。国公党だけですね。では、人造人間様に無礼を働きし逆賊に神の裁きのあらんことを」
そこで話は終わり、まず前髪の長い男が部屋を出る。エルカレは壁に仕掛けてあった防諜用の細工を妖精さんに取ってもらい、部屋を後にする。
【五女ジルカレの場合】
一方、ジルカレは大統領府の内部の、あらゆる諜報も及ばないセキリュティの部屋で大統領アル・カークマンと話をしている。ジルカレから驚愕の提案を受けたアル・カークマンが冷や汗を流す。
「そっ、その情報を流すつもりか……ジルカレ!!」
対するジルカレは、怒りをたたえた熱い目線でアル・カークマンを見る。
「人造人間を作ったのは興国党、あなた方だ。なればこそ、あなた方も腹をくくらなきゃならない。これは【兄妹たち】の罪であり、人造人間の命を作ったあなた方の罪でもあるのだから」
「くっ……。お前たちの計算ではそれ以外に道が無いと言いたいのか? ジルカレ」
ふるふると震えるアル・カークマン。ジルカレは、興国党の支持が揺らぎかねない衝撃的な提案をしたのだ。その提案はまた、人造人間たちの立ち位置をも危うくするものだった。
「そうです。禍根を断たねば、問題は積み重なります。それが私たちとあなた方の抜けない楔になる前に、大出血をしてでも抜こうという提案なのです。大出血して生き残れるかどうかに賭けるか、楔が抜けなくなって永遠に苦しみしかない世界に突入するか。ふたつにひとつです、大統領」
力強い言葉でジルカレが言い放つ。アル・カークマンはおでこに汗をかき、ハンカチで拭き取る。
「まったく。【長男】ファストに似てきたな、ジルカレ……。我が娘ネガステルは大変な傑物と友達になったのだな」
「はい。ネガステルちゃんと一緒にいる時間はとても楽しいです。では、ご決断を、大統領」
ジルカレが大統領に決断を迫り、大統領が限界まで悩み抜く。




