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培養槽の兄妹たち  作者: 観測者エルネード
人造人間とAIの章
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第35話 孤立無援の【長男】 マリオネットの【四男】

【長男と四女の場合】


「……もう1回言え……。何を言ったんだ、エルカレ……」


 こめかみに血管が浮きながら【長男】ファストが問う。


「だから、ミルバル博士は悪くないって」


 おでこの傷跡に浮いた汗を拭きながら、エルカレが答える。


「……ふー、ふー……。……【四男】が性格のコードを書き換えられて洗脳されることのどこが悪くないのだ? エルカレ、頭を洗って出直してこい」


 【長男】のドスが効いた言葉に負けずにエルカレが応える。


「冷静に考えて。ミルバル博士が逆らって四男の性格を愛国的志向に書き換えなかったら私たち兄妹はどうなったと思う?」


「……」


 ファストにとって、答えは分かり切っている。分かり切っているが、それを言ったらおしまいなのだ。


「……ロテ兄のことをバラされて、大統領アル・カークマン擁する導民党が支持率を失って国公党が与党になるわけ。そうなると国公党はもっと私たちを締め付けるようになる」


 エルカレが一息をついて、天井を見上げる。


「……最悪、みんな処分という形で殺されるかもね。だからミルバル博士のやったことは最善だったの」


 ファストの手から力が抜け、首根っこを掴まれていたミルバル博士がずり落ちる。ずり落ちたミルバル博士は立ち直り、逃げることなくファストの前に立つ。


「エルカレの言う通りだ。それに、もし国公党に逆らっても従っても、どのみち【四男】に未来はなかった。だったら、私は【四男】以外の君たちの未来を選ぶ」


 静寂。




「もう仕事に戻っていいかな、ファスト。すまなかったな」


 ミルバル博士がファストの横を通り、その部屋を出る。ファストとエルカレだけが残る。


「エルカレ、他には誰がこのことを知ってるんだ?」


「みんな。……最初から【四男】はおかしかったから」


「……。結局、僕だけが蚊帳の外だったってわけか」


 誰も教えてくれなかった。誰も頼ってくれなかった。その事実に、【長男】ファストは身体中から力が抜けていく思いがした。


「ははは、ははは。何が【長男】だ。何が【最初の人造人間】だ。一番気付くのが遅れて、誰も助けられやしない。ロテだって救えなかった。【四男】も。こんな【長男】、もういなくていいんだろうなぁ」


 ファストは、それまでずっと張り詰めていた人造人間である【兄妹たち】を守ろうとしていた意識がぷっつりと切れてしまったのだ。ロテの時は誰もAIの欠陥を見抜けなかったからだと無理矢理納得して乗り越えていたが、今回に至ってはあまりにも無力過ぎたのだ。


「……もういい。僕は部屋に戻る。後は君たちで勝手にやってくれ」


 とぼとぼとした足取りで、ファストが自室に戻る。それから、しばらくは彼は自室から出てこなくなるのだった。





【四男の場合】


 【四男】アイコクがベッドの上に横たわり、背中から首を伝って後頭部まで差し込まれている生体機械の背中側とパソコンがケーブルで繋がっている。当のアイコクは瞼を閉じている。


「これがアイコクの性格を司るコードか。ふぅむ、うちのAIがこれは間違い無いと言ってるし、君は裏切らなかったようだね……ミルバル博士」


「はっ……皆様のお力になれたようで何より」


 眠っているアイコクの上で話しているのは、国公党の議員とミルバル博士である。


「アイコクにはこのまま国公党の思想を広げる広告塔になってもらう。私たち政治家よりも人造人間の方がインパクトが高く効果が高いのが分かってきたからな……」


 ほくそ笑む議員。僅かに震えるミルバル博士。


「たぶんアイコクのAIが良いのだろうな。その場その場で最適な行動を取りながら、的確に相手の心を掴む。今までに、彼と会話して国公党の思想に嵌らなかったものは居ない。彼は政治家が欲しいスキルを一番持っているよ」


「そうですか。お役に立てたようで何よりです」


 深々と頭を下げるミルバル博士。議員が手をヒラヒラと振りながら部屋を退出する。


「はあ……。因果なもんだな、博士というのは」


 眠る【四男】を尻目に、ミルバル博士がおでこに手をついて思い悩む。




【次女と次男と四女の場合】


「ねえエルカレ、ファスト兄さんはどう?」


「だめですね、あれから部屋にこもりきりで出てきませんし。……これで良かったのかな、ドゥーレ姉」


「うーん……お兄ちゃんは責任感強いから仕方ないんだけどな……」


 エルカレとドゥーレが2人で会話している。そこはエルカレの自室で、エルカレ自作の動物型ロボットたち、通称【妖精さん】で溢れている。


「それより……エルカレ。本当にこの部屋で何喋っても大丈夫なんだろうな?」


 とドゥーレが監視カメラを見ながら耳打ちする。


「大丈夫だよ。【妖精さん】達に頑張ってもらったからね。……国公党に隅々まで監視されてるなんて、気に食わないからね」


 そこに【次男】ファングが入ってくる。


「うげ、動物型ロボットか……。未だに悪夢に出るぜ、こいつらは……」


「何が、うげ、よ! ……まあいい、ファング兄も来てくれてよかったよ」


「それでエルカレ。こそこそ暗号を作って俺を呼び出したんだ。何かするつもりだな?」


「うん。【四男】を国公党から取り返すんだ」


 エルカレが高らかに宣言する。

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