第34話 真実を知り、絶望する【長男】
【長男の場合】
最近、おかしい。どうも【四男】が政治家のパーティーやら会食やらに行く予定が多過ぎる。生まれたばかりの人造人間なのに、その予定の多さは【長男】である僕と一緒くらいにある。更に解せないのは、その政治家というのが、最大野党の保守的政党「国公党」の政治家がほとんどだ。……【四男】と「国公党」が繋がりを持っているのは明らかだ。だがなぜ?
それを明らかにするために、【四男】を小会議室に呼び出して2人きりになる。
「単刀直入に問う。なぜ国公党の行事に行くことが多いのか?」
その問いに、【四男】は鉄仮面のまま答えない。
「秘密、ということか。まったく、隠し事が多いな、君は。名前すらも聞かせてくれない」
【四男】については隠し事が多い。隠しているのは【四男】だけではなく、どうやらミルバル博士も一緒になっているらしい。生まれた直後に【四男】がミルバル博士を呼んだのも、隠し事に関係があるかもしれない。
「分かった。もう行っていい」
実は、もう分かっている。彼がどんな存在なのか。
「お前、名前は”アイコク”にしたんだってな」
小会議室を出ようとする【四男】の背中に呼びかける。知らないはずの名を。僕は違和感を抱いた頃から情報収集をしていたのだ。
「”国を愛する”からとって”アイコク”だもんなあ……。幼さに見合わない態度の良さからして、既にミルバル博士から頭を弄ばされてしまっているんだろ!?」
つい声を荒げる。眼の前にいる【兄妹】が性格を操作されたことに憤っているのだ。
「……お兄さんはミルバル博士に感謝すべきです」
「なに?」
「僕が造られなければ、人造人間は終わっていた」
「……え?」
一瞬、なんのことだかわからなくなる。何が何と繋がっているのか、分らない。
「”愛国者”を造らなければ人造人間ロテの真実を世間に公開する、と博士は国公党に迫られていたのですよ」
鉄仮面のまま、つらつらと言葉が出る【四男】アイコク。その口から出た事実を聞いて、僕の拳が震え出す。
「そっ、それは……ロテ……国公党が脅したとでもいうのか!!」
「脅し? 温情に決まっているではないですか」
「温情? なぜそう思う!!」
「だって、【国に逆らい刃向かおうとした逆賊】ロテの事実を交換条件の為にあえて黙ってくれてるんですよ。あなたも国公党に感謝しなさい。懐深き国公党に感謝し、従うのです」
鉄仮面の弟が国公党を布教する。その言葉を聞く度、苦しさと怒りとが混ざって脈打つ。ああ、可哀想な【四男】。頭を弄ばされた【四男】。真に問い詰めるべきは眼の前の弟じゃない。
気がつけば、僕は廊下に出て走り出していた。ミルバル博士のいるところへ。ミルバル博士自身が誓ったはずだ。人造人間の性格は弄らないって。心だけは素のままで生まれるべきだって。それを破ったミルバルの野郎が、僕は憎くて、憎くて、憎くてたまらない!!
「ミルバルうううううぅぅぅぅぅ!」
【”今”になったいつかの未来の場合】
「ミルバルーーーーーっ!見損なったぞ、それでも人造人間の生みの親か、貴様は!?!?」
【長男】ファストがミルバル博士の首根っこを掴んで壁に叩き付け、鬼をも超える怒りの形相を表している。
「す、す、すまない……だが、こうするしかなかったんだ……【人造人間09号】のことについてはすまなかった……」
ミルバル博士が泣きながら謝罪の言葉を口にする。だがファストの心には塵ほども響いていない。
「……クソっ! 【人造人間09】……っ! 僕は世界を恨むべきか……!」
洗脳された【四男】。彼が本当はどんな性格だったのか、もう知りようもない。その事実が、ファストにはたまらなく苦しいのだ。
ファストが手を離す。げほげほ、とミルバル博士が咳き込む。
「僕が最初に生まれて、【長女】が生まれるときに僕は訊いた。”洗脳はしないのか”って。あなたがどう答えたと思いますか」
ファストの怒りが、燃え続ける。
「……覚えてる。洗脳はしないと私は言った。……でも、約束を破らなければ私は皆を守れなかったんだ!!」
「言い逃れするなぁ!」
暴力に訴えない主義のはずのファストが、ミルバル博士に蹴りを入れた。ミルバル博士が床をのたうち回る。
「もともと、ミルバル、お前が人造人間理論を提唱してお前が始めたことだ。はじめからおわりまで責任を負えよ。誓ったなら破るな。破るくらいなら誓うな。その努力もしないでただ床を転げ回る大人に造られたことが僕は恥ずかしい!!!」
「お兄、ストップ」
暴走する兄を止めたのは、【四女】エルカレであった。そしてエルカレは衝撃的な言葉を口にする。
「ミルバル博士のやったことは正しいよ、お兄」




