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培養槽の兄妹たち  作者: 観測者エルネード
人造人間とAIの章
33/48

閑話 アイス食った犯人

「ちょっと! アイス食ったの誰よ!」


 エルカレが怒り心頭で兄妹たちを集め、たまたま遊びに来ている大統領の娘ネガステルをも巻き込んで問い詰めている。エルカレのアイスが盗み食いされたというのだ−−−。


「ま、ネガステルちゃんはまずあり得ないわね。お客さんだもの。ということで助手やってくれる?」


「えっ、えぇ?」


 戸惑っているネガステルを強引に助手にしてメモさせ、エルカレが尋問を始める−。


 まずは【長男】ファストが対象に……ならなかった。


「お兄は盗み食いしないもん。だから違うわね」

「ちょっと待て。それは公平ではないぞ、エルカレ。まず聞くべきことを聞いたらどうだ」


 ファストに説得されて、エルカレがしぶしぶ質問する。

「アイスが食われたと思われるのは、14:40〜15:00。その間、あなたは何をしていましたか」


「ロビーで政治家の対応を」


「はいお兄は違う」


 ファスト、無罪放免。次に【次女】ドゥーレが質問される。その場を無駄に8の字に歩き回るエルカレである。


「あなたは……私知ってるわ。封印区画でしょ! あそこ予約しないと入れないから、みんな誰が入ったかわかるものね!」


「はいはい、ありがとうね……」


 ホッと胸をなでおろすドゥーレ。続いて、【次男】ファング。


「ちょっと、ネガステルちゃん! ちゃんとメモってよね!」


「ひぃ、は、はいぃ」


 筆があまり動いてなかったネガステルが視線で一番親友のジルカレに助けを求める。ーーーが、当のジルカレはネガステルに見向きもしていない。


「では、ファング兄はその時間何をしていましたか」


「ジムで筋トレだな。プロテインアイスは食ったけどお前のアイスは食ってないからな」


「え……プロテイン……アイス?? ま、まぁ後でジムの利用者帳を見れば分かることですわ!」


 お次は【三女】ティエル。


「ファング兄さんと一緒に筋トレしてたよー。筋トレで競ってたもん。な、ファング兄さん!」


「ああ」


 【次男】ファングが首を縦にふる。


「……犯人が分かりました」


 とエルカレが宣言する。指先を高く掲げ、ゆっくりと下ろす。その下ろされた指先の先にいるのは……【五女】ジルカレ!


「あんたしか考えられないのよジルカレエエェ!」


「……フッ」


 ジルカレが鼻で笑う。


「私を犯人扱いするか。14:40〜15:00は私はずっと自室にいたよ。私のアリバイを証明してくれる人がそこにいる……。ネガステルちゃん(はぁと)」


 名前を呼ばれたネガステルがビクンっと背中を跳ねさせる。


「その時間帯、私はずっと部屋を出ていなかった。でも、ネガステルちゃん、遊びに来てた君は一度だけトイレを理由に私の部屋を出てったよね……?(はぁと)」


 ネガステルの顔面が、ダラダラと滝のような大汗をかく。


(((((まっ、まさか……!? 大統領の娘ともあろう者が……!?)))))


 ジルカレ以外の【兄妹たち】は皆一斉にそう思った。だがーーー。


「それじゃ、リビングルームの防犯カメラを見てみよっ」


 ジルカレが提案し、みんなでそれを見る。最初からこうすればよかったネ。


ーーー14:46。誰も居ないリビングルームにネガステルが現れる。


『お腹へったなぁ〜。どこかに食べて良いものないかな……』


 と、ネガステルが辺りをキョロキョロ見回す。すると、何かをひらめいたように手をポンと叩いた。


『そうだ! ジルカレちゃんのお菓子食べちゃおっと。後で許してくれるでしょ……』


 冷蔵庫をパカっと開けるネガステル。


『ジルカレちゃんいつもこのアイス食べてるもんね。このアイスで間違いないや。あ〜〜〜んっ』


 しかしジルカレの分は既に食べ切って無くなっていて、ネガステルが口に運んだアイスはエルカレの分なのであった!

 防犯カメラを見て口をあんぐり開ける【兄妹たち】(ジルカレ除く)。仮にも大統領の娘ともあろう者が、ろくに確認もせずに盗み食いをしたーーー。その事実が、ネガステルをよく知っているジルカレ以外のみんなには衝撃的だった。

 自らの罪を告白せずしれっとエルカレの助手を務めたという事実(ネガステルを勝手に助手にしたのはエルカレだが)にエルカレが怒りのあまり頭が沸騰する。そのエネルギーが口をついて出る。


「こぉんの、大統領のバカ娘がああああああーーーーーーーーー! よくも大事なアイスをアイスをうおおおおおおおおおーーーーーー!」


 どなるエルカレ。それを【長男】ファストが穏やかな笑顔で制する。ーーその表情を見た【兄妹たち】が一斉に恐怖して震え始める。


「この件は僕に任せてもらっていいかな、エルカレ」


 恐怖のあまり首を何回も縦にふるエルカレ。するとファストがスマホを取り出してネガステルの父親を呼び出す。


「もしもし、大統領ですか。今はあなたを大統領としてではなくネガステル・カークマンの父親としてお話したい」


 穏やかな表情で父親に電話された。その事実だけで【長男】ファストの怖さをネガステルは思い知った。途端に震え始めるネガステル。だがもう遅い。


 その後、娘の失態を知った父親はその日の公務をキャンセルして人造人間製造センターまで車で来、応接室で震えて泣く娘を隣に立たせながら【長男】ファストと【四女】エルカレに対して娘の失態を恥じて詫び、土下座した。この日、ネガステル・カークマンは2つのことを学んだ。人のものを勝手に取ったり食べたりしてはいけないことと、【長男】ファストに逆らってはいけないことだ。




「ヒャーッハッハッハッ、それで夏休みの1週間をセンター住み込みでトイレ掃除になっちゃったのぉ、ネガステルちゃんっっ」


 トイレ掃除姿になってるネガステルを笑うジルカレ。今度は恥ずかしさのあまり震えるネガステル。


「で、センターで寝るところって案内された?」


「それが、ファストさんからは自分でどうにかしろって……」


「うわ、きっつい……。しょうがないなぁ、私の部屋においでよ」


「え、いいの!? わーいありがとう、ジルカレちゃん!」


 この時、ジルカレは心の中でガッツポーズした。ーーーネガステルちゃんと一緒に寝れるのがとても嬉しいのだ。


 それから1週間の間、夜はジルカレとネガステルが一緒に仲良く時々喧嘩しながら寝るのだった。

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