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培養槽の兄妹たち  作者: 観測者エルネード
人造人間とAIの章
28/48

第27話 とある阿呆のせいで神が目覚める

【エルカレの場合】


「素晴らしかったわ、今日の実験。今度はAIをたくさん生み出して研究者たちを驚かせるなんて」


 リビングルームでスタッフのトゥレルがエルカレの隣に座って、こんにちの実験の感想を話している。


「えへへ。みんなに驚いてもらって、私は嬉しいよ。私たちには無限の可能性があるって気づかせてくれる。こんどは、みんなに喜んでもらう番だよね」


「うんうん」


 そうこう話している内にトゥレルが一年前のテロのことを思い出す。


「……これはあまり言ってはいけないかもしれないけれど、去年のテロのとき、あなたがアンチハッキングAIを乗り越えたときに私はあなたのことを”神”だと感じたの」


「神? えっと、どうして?」


「直感的にそう感じたからあまり理屈では説明できないわね。でも噛み砕いて言うなら、何かを創り出す能力こそが神から与えられた人間の特権だと思って、でもAIの登場でそれはAIに奪われた。それを、あなたたちなら取り返せると感じたってことね」


「よくわかんない」


 よくわかんないと答えたエルカレだが、最大限の褒め言葉であることはわかるので朗らかに笑って受け止める。


「そうね、よくわかんないわね。でも言えることがひとつ。人造人間がAIを超えることを私は望んでいる。だから頑張って」


「超えてみせるよ。そのときはお小遣い弾んでね、トゥレルさん!」


 エルカレとトゥレル、お互いが笑顔になる。




【とある阿呆のやらかしの場合】


 エセル社ではないどこかのAI企業。そこもまたAIを生み出すAIを持っているのだ。


「よし。介護施設用の施設総括AIができたな」


 ある技術者がモニターを見ながら操作している。介護施設の中にいるロボットやコンピューター全てを動かすAIの納品手続きをしているのだ。


「安全性の確認は……いいか。どうせAIを生み出す時点で自動的に安全性をクリアしてるし、確認はコストがかさむしなぁ」


 しかしその会社のAIを生み出すAIに欠陥があることは誰も知らなかった。それも安全性の確認を行っていれば気付けたはずなのに、それを常態的に怠ったせいで気づくことができなかった。そのせいで、後に大事件が起こることになってしまったのだ。



【ジルカレとエルカレの場合】


 AIに関する実験もいよいよ大詰め。模擬ハッキング実験で、エルカレが脆弱性を見極めてジルカレがハッキングAIを創り出し、標的のアンチハッキングAIを倒してハッキングに成功させた頃だ。応接室に通された2人がエセル氏から大絶賛を受ける。


「まさかここまでできるとは思わなかったよ、2人とも! 一連の実験で得られたデータはこちらで参考にするとともに、色んなところにも売らせていただくことになる。ついては、既に話した報酬に上乗せしたオマケのぶんを君たちにあげよう!」


「「やったぁ!!!」」


 双子の少女らが抱き合って喜ぶ。ジルカレもエルカレも、お金には目がないのだった。抱き合って喜んでしばらくして、ジルカレが冷静になってある話を思い出し、話そうとする。


「あの、エセルさん。実はお話が———」


「大変です、エセル様! テレビをおつけになってください!」


 社員がノックすらしないで急いで部屋に入ってきた。緊急事態だと悟ったエセルがすぐさまテレビをつける。

 ———そのニュース画面には、”AI大暴走”の五文字が躍っている。とある最新鋭の介護施設のAIが暴走してしまい、防火シャッターが勝手に下りて人を閉じ込め、ロボットが無差別に暴れて建物や人を傷つけているというニュースだ。挙句の果てには、動くことのできない入居者の部屋のエアコンが狂ったAIのせいで室温を極端に上げたり下げたりしてしまっているようだ。


「なんだこれは! わが社の担当ではないようだが、それにしてもひどい! ハッキングAIの国からの使用許可は下りているのか?」


 ハッキングAI。それは本来なら持ってはいけない代物。”デジタル銃刀法”といわれる法律で、ハッキング用のAIは許可をもらった者にしか所持を許されていない。それもハッキングAIを使っていいのは、AIの暴走の抑制など緊急避難・救助を目的とする場合やアンチハッキングAIなどの試験を目的とする場合のみである。


「待って下さい、確認します……出てます! 許可下りてます!」


「よし、まずは介護施設の責任者と連絡を取れ! 無理なら管理会社の者でいい! うちのスーパーコンピュータを使って良い、ハッキングAIでハッキングできるよう準備をしておけ!」


 エセル氏が応接室から指示を出すと、


「私は現場を見に行ってくる、人造人間の2人はここにいてくれないか」


 と双子に言う。ジルカレは頷こうとしたが、エルカレが首を横にふる。


「AIの暴走を私もこの目で見てみたいです。後学のために、AIが暴走すればどうなるか知っておく必要があると思います」


 ジルカレは、おいおい、と思った。これでは現場の者に迷惑をかけることになると思ったからだ。


「……それは私の管轄ではない。もし行くならまず君たちは上に掛け合うべきだ」


 と言ってエセル氏が出ていった。


「当たり前だろ、エルカレ。なんだって危険な所にいく必要があるんだ?」


 ジルカレはエルカレの横顔に向かって話しかけたが、エルカレの眼差しはAIの暴走を伝えるニュースに注がれている。


「だって、この件、私達で解決できるとは思わない?」


 その言葉に、ジルカレはゾッとした。明らかに気が大きくなっている。



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