第25話 AI巡る”人造人間”の立場 あなたたちは神か悪魔か
【エルカレとジルカレの場合】
一週間後、国からの特別承認を得てエルカレとジルカレがエセル社の研究施設に行っている。スタッフのトゥレルも一緒だ。
「……こちらが自動運転AIが我々の求める基準を満たしているか検証する機器になります。そしてこちらでは介護用や家庭用のロボットに積むAIを試験しています」
エセル社の技術者が双子を案内する。と、エルカレが質問する。
「はいはーい。AIは誰が作ってるのー?」
「それはこれから案内するところです。AIを作っているのは、地下にある機器です」
エレベーターに乗って地下2Fに行く。
「地下にあるのは警備上の問題で、外部に攻撃を受けにくい所をと考えられて設置されました。こちらが、AIを造るAIとなります」
大量のスーパーコンピューターが並ぶ前で技術者がそう言った。このスーパーコンピュータ群全てに同一のAIが搭載され、注文すれば注文した通りのAIが出来上がる。
「へぇ~……。でも一昔前みたいに人間がAIを作ったり調整したりとかはしないのね?」
ジルカレの問いに技術者が苦笑する。
「そりゃ、原始的なタイプのAIなら研修とかで作らされてますので、基礎知識はあるつもりです。でも今のAIは理解できませんよ、これっぽっちもね」
「それじゃ、エセル社はAIが生み落としてくれたAIを良く知らないまま世に出しているということか」
ジルカレの辛辣な指摘に技術者が苦笑する。
「そういうことになってしまいますね。でも、何故かそういうことが認められる世の中です。沢山の同業者も、そうしてますよ」
一通り案内を終えられた双子は食堂に連れてこられ、エセル・ディデルニア氏と面会する。
「好きなものを注文してくれていいよ。料理AIが上手いこと調理してくれるから、いつも味が一級品なのさ」
言葉に甘えて双子がそれぞれの好きなものを頼む。そしてエセル氏との会話に入る。
「エセルさんはどうして我々とAIの実験をしたいんですか?」
とはエルカレ。
「そりゃあ、平たく言うとまだだれも手を出していない分野、いわばブルーオーシャンだからな。それにそちらのトゥレルさんから事前に話は聞いていたが、エルカレさん、どうやらあなた方人造人間はAIを読み解いて調整を入れることさえ可能らしいな。人造人間がAIと関われば、そこにまだ誰も見出していない新たな世界が現れるんじゃないかって私は思ってるよ」
一年前にエルカレがやったことは極秘事項になっているので、代わりに似たような事柄の作り話でトゥレルは人造人間の魅力を伝えていたのだった。
「ありがとうございます。そこまで可能性を感じていただけて、私は嬉しいです。私としても、人造人間としての力を存分に発揮して世界に『私たちはみんなの役に立てる存在なんです!』ってアピールしたいです!」
エルカレの弁が立つ一方で、ジルカレはメロンソーダを啜っている。内心では、気が大きくなっているエルカレを心配しているのだった。
【ジルカレの場合】
その日はAI研究施設の案内と今後の予定に関する打ち合わせだけだった。センターに戻ったジルカレは、その夜にスマホで【親友】ネガステル・カークマンと通話している。
『ウェブサイトのプレリリース見たよ! ジルカレちゃん、エセル社とAI関連をやるのね!?』
「うん。私たち、能力を買われているんだ。それで主に私とエルカレが実験に参加するの」
『へー、エルカレちゃんも参加するんだ! 凄いなー。ところで実験って具体的に何やるの?』
「うーん。”AIを使う”とか”AIを読み解く”とかそういったプログラムが組み込まれてるね。人造人間とAIの相乗効果を狙ってるみたい」
『そうなんだぁ。お小遣い貰えるの? 貰ったら最新のVRゲーム買お! ね!』
心の弾むネガステルとは対照的に、心の盛り上がらないジルカレであった。彼女には常に思う所があったのだ。今回、ジルカレはそれをネガステルにぶつけてみた。
「ねぇ、ネガステルちゃんは”人造人間”に望むとしたら何を望むの?」
突飛な疑問にネガステルの言葉が詰まる。
『え、えっと……うんん? それはジルカレちゃんの友として……ではないよね?』
「ではなくて。えっと、いま私は悩んでるんだ。人間よりも遥かに能力が高い人造人間に人間は何を望んで何を望んでいないのか、について考えてるんだ。ちょっと……今回のAIでの実験でもしかしたら”人造人間として”トラブルが起こるかもしれないし」
『……ジルカレちゃん”も”考えることが多くて大変だね』
しばらくスマホが無言になる。ネガステルが考え込んでいるようだ。やがて、ひとつの答えが出た。
『人造人間みんなに、とは無理は言わないんだけど人間に寄り添ってほしいなーと思ってるよ。これは人造人間だけじゃなくて、外国人とかロボットとか思想の違う人に対しても想ってることではあるんだけどね』
「やっぱりそうなるね……。わかった、私は寄り添う役目を果たしてみる」
『頑張ってね、ジルカレちゃん』
親友からの励ましの言葉で気持ちがやや上向くジルカレであった。それからもとりとめのない会話が続き、通話を切るとジルカレはファストとミルバル博士のところへ何かを相談しに行った。




