第21話 龍の爪痕の四本線の髪飾り 永遠なるデザイン
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【ジルカレとドゥーレの場合】
ホテルに来てから一週間が経った。大統領のほかにはオルミア議員や、センターの清掃整理に関わっているミルバル博士が挨拶や現状報告に来た。来客はそれだけで、他には誰も来ていないのだった。
【五女】ジルカレが貸切状態の大浴場で朝風呂の大浴槽に浸かっていると、【三女】ティエルが入ってくる。
「ジルカレ、ちょっと横いいかな」
うん、とジルカレが頷く。姉妹が隣り合わせになる。湯気に包まれる中で、ほうっと気持ちよく入浴している2人である。
ふいに、ティエルの方から話が切り出される。
「ドゥーレ姉ちゃんさ、最近少しずつだけど良くなってきてるんだ。まだまだ弱ってるところはあるけど、確実に気分は上向いているよ」
あの日豹変したドゥーレ。ジルカレにとっては恐怖の記憶として脳内に刻み込まれている。だが、ジルカレはまた前に進み始めているドゥーレのことを嬉しく思うのだった。
「あのドゥーレ姉は怖かったけど、ちゃんとコミュニケーション取りたい。お姉がああなったのには、私にも原因あるんじゃないかなって思うから」と、ジルカレの言葉。
いたずらっ子だったジルカレは、自分のせいで周囲に、特にスタッフのトゥレルや【次女】ドゥーレに迷惑をかけていたという自覚がある。
「わたち、改めて考えてみたら謝るべき相手がいっぱいいるのよね……。だから、【兄妹】も含めてみんなに謝りたい」
「そっか。ジルカレ、それは良いことだ。でもドゥーレ姉ちゃんはまだ心の整理がついてないから……だから、お姉ちゃんの分は後回しにしてくれないかな」
「分かった。わたち、今日からみんなに謝りに行くよ」
そういうとジルカレは産まれた姿のまま立って真顔でティエルに向き合う。
「ティエル姉ちゃん、今までごめんなさい」
今までジルカレがいたずらをするたび、ジルカレを捕まえるのはティエルら【兄妹たち】の役目だった。それ故に、ジルカレは【兄妹たち】に手間をかけ、迷惑をかけたという自覚がある。
「いいよいいよ、私はむしろ逃げるジルカレちゃんを捕まえるのが楽しかったなー」
「じゃあ、今度はいたずらで逃げるんじゃなくちゃんと追いかけっこしよ、ティエル姉ちゃん」
「おうよ」
お互いに朗らかな表情になる。2人の拳を突き合わせる。
【五女ジルカレと次女ドゥーレの場合】
次の日、ティエルが廊下でジルカレを呼び止めた。
「ジルカレ、ちょっといいかな?」
手でちょいちょいと招くティエル。
「どうしたの、ティエル姉……え?」
ティエルの後ろに、ぼさぼさの金髪で死んだ碧眼の女性が立っている。虚ろな目でジルカレを見ている。
「ド、ドゥーレ姉? どうしたの?」
ジルカレが、突然の姉の出現にびっくりしていると、ティエルがドゥーレの肩に手をかける。
「ほらほら、お姉ちゃん。ジルカレにあれを渡すんでしょ。ちゃんと勇気出して」
ティエルがそう言うと、【次女】ドゥーレが震える足で一歩一歩、遠慮がちにジルカレにゆっくり近づく。その歩みを、ジルカレは床に足を根差して待つ。
「ね、じ、ジルカレ……」
もう一歩でジルカレとぶつかりそうな距離まで来たドゥーレが、震える声を絞り出して話し出しながら、握りしめた拳をジルカレの目の前に差し出して、ゆっくりひらく。
「こ、これをジルカレに……あなたにあげる」
【次女】ドゥーレの掌の上で輝いているのは、龍の爪痕のような四本線の形状をしたジルコニアの髪飾り。四本線の線は一番上の線からそれぞれ白、青、赤、黄色のカラーリングになっている。それを見たジルカレは瞳を大きく広げて輝かせる。
「ほ、ほんとは宝石が良かったんだけど、高すぎるから……ごめんね、ジルカレちゃん」
胸がとても躍ったジルカレが、姉の掌に自身の掌を重ね合わせる。
「ううん。ほんとうに嬉しい! ありがとう、ドゥーレ姉!」
満面の笑顔になるジルカレ。ドゥーレは一瞬笑顔になり、それから悲し気な表情に戻る。ジルカレが髪飾りを手に取ると、ドゥーレが口を開いた、
「わたしっ、あんなことをしてしまって……ごめんなさい!!!!」
頭を下げるドゥーレ。今の今まで、ずっと彼女の心に残り続けたしこり。それを今、吐き出したのだ。
「姉らしいことなんもしてやれなくって、ファスト兄さんのことしか目になくて、わたしっ、本当に兄妹のことが見えてなかった! ごめんなさい!」
「わたちのほうこそ、ごめん」とジルカレ。
ジルカレもドゥーレに謝らなければいけないと思っているのだった。
「わたちはずっと自分のことしか考えていなかった。自分の傲慢さだけでいつも暴れていた。ドゥーレ姉はすごいよ、いつもお兄のことをちゃんと見ていたもん。それに比べて、わたちは……最低だった。お姉が怒るのも仕方なかった」
お互いに頭を下げた2人が目を見合わせる。
「でも、これからのわたちは違う。みんなとちゃんとコミュニケーションを取って仲良くするんだ。だから、ドゥーレ姉も抱え込まないで兄妹をもっと頼ってよ」
ニヒヒ、と笑ってジルカレが髪飾りを髪に飾る。顔にかかっていた右側の前髪を纏めて、ドラゴンクロウが輝く。
「……ありがとう、ジルカレ。わたし、も、いい加減前に進まなきゃね」
ドゥーレが再び笑顔になる。心が弾んだのか、髪飾りの作成秘話を披露するようになる。
「実はさ、ジルカレがかっこいいもの好きだからそのデザインにしたんだ」
「わぁ! やっぱりわたちたちのことを見てるじゃんお姉!」
「ふへへ、でもこれはティエルに聞いたんだ。ねぇ、ティエル」
「んもー、そこは黙ってても良かったのに。ていうか、私はかっこいいものが好きって言っただけで四本線のデザインはぜーんぶドゥーレ姉が考えて造ったんだよね」
「やっぱりすごいじゃん、ドゥーレ姉!」
「へへ、そういわれると嬉しい……うっ、うぅ……」
【泣き虫】ドゥーレが泣く。初めて誰かの役に立てたという実感を持てたのだ。それがどうしようもなくたまらなく嬉しくて、泣いたのだ。そんな姉を、2人の妹が抱きしめる。
それから【ジルカレ】は、姉の考えた龍の爪痕の四本線のデザインをずっと、”永遠に”髪飾りと言う形で大事にすることになるのだった。




