第20話 優しい時間
【ネガステルとジルカレの場合】
「……で、【三女】はね、ティエルっていうんだよ」
「なるほど、メモメモ……っと」
ジルカレとネガステルがすっかり仲良くなり、【兄妹たち】の名前を教えている。そこへ頭に包帯ぐるぐる巻きの大統領カークマンが入ってくる。【長男】ファストも一緒だ。
「おい馬鹿娘よ、反省は済んだか? ……うん?」
「ジルカレ、ちゃんとやってるだろうな……ん?」
2人して、少女たちが仲良しなことに気づく。
「パパ、この度は勝手に潜入して申し訳ございませんでした」
ネガステルが父に向って深々と謝罪する。彼女なりに反省するところがあるのだった。
「お兄、大丈夫。仲良くなったんだから!」
ジルカレが笑顔で答える。ファストは、そうか、と笑顔になるのだった。
ホテルの出入り口で、【兄妹たち】が大統領たちをお見送りする。
「娘よ、私はこれからまた移動する。お前は手配した車で帰るのだ」
大統領が娘と一緒に深々と【兄妹たち】にお辞儀するのだった。それからリムジンに大統領だけが乗り込む。
「ねえパパ、お願いがあるの」
リムジンの外からネガステルが話す。なんだ、と大統領が窓ガラスを開ける。
「私、人造人間たちと……ううん、ジルカレちゃんともっと仲良くなりたいの! だからこれからもっとたくさん会いに行っていいよね?」
大統領が神妙な顔で考え込み、返事する。
「テロに人造人間が関わっていたことは聞いておるだろ?」
「大丈夫、ジルカレちゃんはそんな人間じゃない」
太陽のような笑顔で、ネガステルが言い切る。
「そうか。己の目で見極めたか、いいことだ。わかった、話はつけておこう」
大統領が柔和な笑顔になる。娘の成長と友情の芽生えを受けて優しい気持ちになっているのだ。
リムジンが走り去り、別の車がやってくる。それにネガステルが乗ろうとしたとき、ジルカレがやってくるのだった。
「ネガステルちゃん、またね!」
「うん、またねジルカレちゃん!」
車が動き出し、ネガステルの姿が遠くなっていく。彼女の姿が認められなくなったところでジルカレが振る手を下す。そこへ【長男】ファストが来る。
「外の人と友達になったのは君が初めてだよ、ジルカレ」
「ふふん。末っ子なのに先駆けちゃったね」
「そうだな。……仲良くなるのは、いいことだったろ」
「そうね。コミュニケーションは素晴らしいよね、お兄」
「ああ。そうだな」
その日感じた、陽だまりのように穏やかで優しい余韻をジルカレは心の中で噛みしめながら、その日の夜を眠った。
【次女と三女の場合】
「私が悪い……。私が悪い。私が悪い」
部屋の隅っこで【次女】ドゥーレが咽び泣き、自身を責める。ロテに唆され、みんなに迷惑をかけたことを申し訳なく思い、自分の弱さを呪っているのだ。
「私の心が弱いから、こうなった。誰の役にも立たない、私の役立たず……」
「ストップ!!!! これ以上なにか呟くの禁止!」
【三女】ティエルが駆け付け、姉の口を塞ぐ。
「言葉は感情になっちゃうんだよ、ネガティブなこと言うの禁止!」
「む~! むぐぐ~!」
【次女】ドゥーレがじたばたする。それでも力が上のティエルがなんとか抑え込む。ドゥーレの暴れるのが治まると、ティエルがドゥーレを解放する。
「でも、ほんとなんだもん……。過去は消えないでずっとそこにあるんだもん……」
それを聞いたティエルが真摯に何かを考え込む。そして、何かを思いつく。
「だったらさ、未来に目を向けようよ。これから、みんなのために頑張ればいいじゃない!」
「……みんな、認めてもらえるかなぁ」
弱気な姉を前に、ティエルが更なるアイデアを思いつく。
「はい、そこで私からの提案で~す! 何かを作ってあげてみるのはどう?」
「ふぇ?」
ティエルが予め用意していた、たくさんの手芸の本を広げる。
「セーターとか、コースターなんかも良いよね。ブレスレットとかだって……」
「まま、まって」
とドゥーレが停止をかける。なぜ、といったような目つきでティエルが姉を見つめる。
「……その、本当に私なんかがこんなことして許される、のかな……」
もじもじしながら、本心をぶちまけるドゥーレ。ティエルが首を横に振る。
「あのね。今回のことではね、そもそもお姉ちゃんのことを悪いと思ってる人なんかいないよ。でも、お姉ちゃんは自分が許せないんだよね」
こくり、とドゥーレが頷く。
「そんなとこだろうと思った。でもさ、みんなのために作ってあげたりとかしてみて徐々に自分を許してみるのはどう?」
一瞬考えこむドゥーレ。
(こんな私なんかが何したって何になるの……。でも、だからって何もしないわけにはいかないよね)
【次女】は自らが殴りつけてしまった妹に、殴りつけた拳を見つめながら心の中で謝る。
(ごめんなさい、ジルカレ。私が悪かった。せめてものの償いとして、あなたのために何か作るよ)
「じゃあ……私、作るよ。何か、ジルカレの喜ぶものを」
ぼさぼさ髪のドゥーレがそう言って数多ある手芸本のひとつに手を伸ばす。
「———そうこなくっちゃ、お姉ちゃん!」
前に進み始めた姉の姿を見てうれしく思う妹、ティエルであった。




