第18話 【大統領の娘】と【人造人間08】
その日、大統領アル・カークマンは人造人間たちに面会しにホテルに来ていた。リムジンから降り、規制線の向こうでシャッターを切る記者どもを尻目にホテルの入口へ入っていく。
そのリムジンのトランクが、開いて小学高年生の栗毛のツインテールの少女が現れる。
「ふぅー。パパは行ったわね」
その場にいる警備員、記者たち、運転手、みんなが一同に驚く。
「おおおおおおおおお嬢様!? いけません! 戻るのですぞ!」
運転手が走って大統領の娘を捕まえようとするが高齢の膝が笑いだしてしまい、警備員たちが突然のVIPの出現に戸惑う中、大統領の娘はダッシュでホテルの中に入っていく。
そして、前話のラストシーンにつながる。
「ねぇねぇ、あなたが人造人間っていうやつでしょ!」
ジルカレにとっては、目の前にいる少女は全く知らない不審者であった。
「だっ、だれーーーーーーーー?!」
「失礼ね、この私を知らないなんて!」
ジルカレの目の前の傲慢な態度の少女が一呼吸おいて、名乗る。
「私は大統領の娘、ネガステル・カークマンよ!」
「え? あ、今日大統領が来るんだった。……ネガステル様、おはようございます!」
「ふん、私を知らない人に様付けされたくないわ!」
このとき、ジルカレは、自分がいたずらしたスタッフが感じていたのと同じ感情を抱くことになるのだった。
(なんだ、このチビ)
しかし相手は大統領の娘。丁寧に接しなければならないとジルカレは思った。
「人造人間08と申します。お父様にご挨拶したいのですが、お父様はいまどちらにいらっしゃいますか…?」
聞いていた集合時間より少し早かったが、大統領のもとに挨拶しに行った方がいいだろうとのジルカレの判断だった。だが、ネガステルが一蹴する。
「パパのところへ? ふん、見つかりたくないからイヤ!」
え、とジルカレの喉から声が漏れた。
「……あの、お父様とはご一緒ではござらないんですか?」
「そうよ! 人造人間のおチビさん、隠られるところへ私を案内なさい、フン!」
あまりの傲慢ぶりに、ジルカレがブチ切れたーーー。
「なんやとこのチビいーーーーっ! 聞いてりゃ偉そうにしくさって、親の七光りデコ光りがあああああーーーーっ!」
「はああああああ!?!? 人間よりハイスペのくせして一般教養も知らないドチビさんに言われたくありませんわーーーーーーーーー!!」
「なんやてえええええええ!?」
「この無知ドチビ無知ドチビーーーーっ!」
掴み合いになり、殴り合いになってしまう。騒ぎを聞きつけた【兄妹たち】と大統領一行がその場へ駆け寄り、両者を引き剥がす。
「ジッジジジジジルカレ、だっだだ大統領の娘になんてことをおおおお」
「ぬううううっ! この馬鹿娘めが、また性懲りもなく潜入したあげく騒ぎを起こすとは……! ぐおおおおつっっっっっ!」
ジルカレとネガステルが喧嘩したという事実を前に【長男】ファストが顔面蒼白になって震え、大統領カークマンは怒りで顔が赤くなり頭に無数の血管を浮き立たせて破れそうになる。
周囲の人々に拘束されているにも関わらず、2人の少女はなおジタバタしている。
「こんの傲慢チビがーーーーーーー! こっちに来いよ、そんなに偉くないってことを教えてやる!」
「頭の沸点の低いあなたに言われたくありませんわ、叩いて直して上げましょうかそのAI頭ーーー!」
ついに周囲の拘束をぶっちぎった2人が再び殴り合いの喧嘩を始めてしまう。大統領の娘に拳で殴り付けるジルカレを見てファストが泡を吹いて失神し、人造人間08に蹴りを入れる娘を見て大統領の頭の浮き出た血管が3箇所ほど破れて血が吹き出してしまい倒れる。今ここに、ふたりの保護者が地に伏した。
「やめろ、ジルカレ!」
「やめなさい、お嬢様」
2人のマッチョが少女たちの間へ割って入り、隆々とした筋肉を見せつける。ひとりはマッチョなスタッフのトゥレル。もうひとりは、大統領の秘書の筋肉眼鏡老紳士である。2人のマッチョの服が破け、かいた汗が筋肉を輝かせる。
「ジルカレぇ……、この前の反省はもう忘れちゃったかしらぁ……?」
「お嬢様、私は大統領からお嬢様が粗相なさったときは筋肉を以て折檻するよう許しを頂いてます。準備はよろしいですかな……?」
筋肉の影が2人の少女に見せつけるように覆いかぶさり、2人は心の底から恐怖してお互いに目を向け合って同じ結論を出した。
「けっ、けけけけけ喧嘩じゃなくてふざけあってたんだよね、ネガステルちゃん!?」
「そっ、そそそそうよ。この前パパと見た格闘技の試合のことお話したらお互いに技を試しあおうってなったのよね、えーっと、08ちゃん!」
少女たちがそう言いながらお互いに抱きしめあって仲良しアピールをする。無理のある展開である。やれやれ、といった感じで2人のマッチョの大人は筋肉を収める。
「喧嘩でなくて良かったですが、騒ぎを起こしたのはいけませんね。罰として大統領の用事が終わるまで部屋に入ってなさい! トゥレルさま、そちらの人造人間08も一緒に入れたほうが良いと思うのですが」
「いいと思います、ジルカレ……人造人間08の為にもなると思います。部屋のすぐ外で我々が待機していましょうか」
かくして反省部屋に入れられてしまった2人の少女。重っ苦しい空気が流れる。
果たして2人の仲はどうなるのか? 次話に乞うご期待!