第15話 非情な眼差し 非情な兄妹
【人造人間01と遠巻きに見るジルカレの場合】
記者会見は、警察のトップとオルミア議員とミルバル博士、【人造人間01】ファストの4人で臨む。地獄から生還したミルバル博士とファストに質問を投げかけんと記者たちの瞳がギラギラと輝いている。
司会が記者会見の開始を合図し、警察のトップがまず事件の全貌について説明する。
曰く、反人造人間過激派のテロであること。
曰く、スタッフの多くが命を落としたこと。
曰く、実行犯のテロリストたちも殆どが命を落とし、生き残っているのも重傷の者ばかりであること。
説明が終わり、質問のターンになる。記者のひとり、茶髪のポニーテールの女性が手を挙げる。
「ACNの記者ナティアです。人造人間のひとりがこのテロに加担したと聞いています。これは何故でしょうか」
ファストが深呼吸し、震える手でマイクを持つ。それから、どこかの部屋でこの記者会見を見ているであろうジルカレのことを思う。
(ジルカレ、ありがとう。きみのお陰で覚悟ができた)
ファストが次に紡ぐ、ジルカレから貰った嘘が結果的に人造人間たちの立場を首の皮一枚繋ぐことになる。
「人造人間05は、テロリストにAIと生体機械の部分をハッキングされ洗脳されていました」
この嘘に、記者たちがどよめく。人造人間が自分の意思で反乱したのではないと安堵する者や、逆に洗脳され放題だと非難するものもいる。
「この人造人間の欠陥に関しては私どもの落ち度であり、今後こういうことの怒らないように外部からのハッキング対策を重点に人造人間の調整を行っていきたいと思います」
言っていることは嘘だが、そのミルバル博士の気持ちは本物だ。ロテを狂わせてしまったのはAI。いずれにしろ直すべきなのは変わりなかった。
その次も、その次の次もテロに関する核心を突いた厳しい質問が相次いだ。結局、無人の車をハッキングしたのは警察のホワイトハッカーたちということになり、今回の事件に関して人造人間たちが動いた部分はほぼ全てが隠された。
質問の時間が終わり、記者会見も終盤にさしかかる頃だった。突然、民間人が警備をすり抜けて【人造人間01】ファストのもとへ駆け寄る。民間人が何かを投げる。
パシイッ。
ファストの頬を生卵の黄身が流れ落ち、べとべとした卵白が彼のスーツを汚す。
「お前らなんか消えろ! 見ろよ、人造人間なんかまがい物だってことを世界は知らねばならん! 人造人間は消えろーーーーーーーー!!!」
民間人の怒号がその場に響いた。どこかの部屋でのテレビを通じて見ていたジルカレはもちろん、センターからテレビで記者会見を見ていた【兄妹たち】にも衝撃が走る。
ああ。自分たちは世界から嫌われているんだ。みんながそんな感情を抱き、胸が痛くなったのだ。
結局、生卵を投げつけられた【長男】ファストは直立不動のまま記者会見を終えるまで姿勢を変えることをしなかった。