第13話 長い長い夜の結末 長い長い頭痛の行き着く果て
【長男ファストと五女ジルカレの場合】
【五女】ジルカレが【長男】ファストの手を引き、ミルバル博士がその後ろをついて歩いている。
「本当にみたのかい、ロテを」
「うん。爆発する寸前にトラックを飛び出してった」
3人はトラックが爆発した近くの路地裏を探して回っている。すると、見慣れたはずの人影を見つけた。
「ははっ……こんなとこまで追っかけてくんのかよ」
ロテは折れた右腕から血を流し、立っているのもやっとなほどのダメージが入っている。写真データが入っていたカメラは完全に潰れて、起動すらもうできない。
「ロテ。最後にいいか」
【長男】ファストがロテと相対する。ファストはロテをまっすぐ見据え、ロテは俯いている。
「お前の中の何が、お前をここまでそうさせた。どんづまりの世界の中でなぜ激しい恨みを持つようになったんだ!? 答えろ! ただただ未来がないことに絶望しただけか!?」
チッ、とロテが舌打ちをする。ロテの右手の人差し指と中指が重なって彼の頭を指し示す。
「ずうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとここが痛いんだ」
打って変わって、今にも泣きそうになる顔になるロテ。
「おいジルカレ、俺のけしかけたドゥーレはおかしかったよな?」
ジルカレがうなずく。ファストも、ここに来るまでの間にジルカレから話は聞いていた。
「あれは、AIによる感情の演算の暴走だ」
ハッ、としてジルカレが自分の頭に手を当てる。ロテがテロをしたと知ったとき、ジルカレも暴走しかけたという自覚があったのだ。ミルバル博士はこの数年間に一度も発見できなかった致命的な欠点を前に衝撃を受け、頭を抱える。
「痛いんだよ。負の感情が一定量を超えて貯まるとAIが勝手に受信して勝手に演算して、それを脳に届ける。そのせいで負の感情が深化し、またAIが受信して、頭痛と地獄が廻り廻るのさ」
「それとテロになんの関係がある」
ファストが突っ込む。ロテは猫背になって両手で顔を覆う。
「産まれたときに自分のおかれている環境を知って、俺は絶望した。そのときから、ずっ、と、AIが暴走して止まってくれない。絶望が深まっていった。もう、俺にはどんづまりの未来しか見えない……」
顔覆う両手の隙間からロテの真っ暗な目が覗く。
「ずっっっと痛かったんだ! なら俺をどんづまりにした世界を壊せば頭の痛みが引くかなぁって思ったんだよ! なぁ、俺の頭の痛みを引かせてくれよファスト! ミルバルぅぅ!!!」
「ロテ、そんな欠点をずっと抱えさせて済まなかった……っっ!」
ロテの傍に歩き寄ろうとしたミルバル博士をファストが掴んで止める。
「気持ちはわかります、ミルバル博士。ですが、目の前にいるのは大勢の方を殺したテロリストですよ」
ファストが更に鋭い眼差しでロテを睨みつけ、ミルバル博士に入れ替わるようにしてロテの方へ歩き出す。
「お兄ちゃんが来てくれるのか。嬉しいなぁ……。AIも無いくせに殺されに来てくれてよぉ!!!」
路地裏に転がっていた鉄パイプを左手で拾い上げ、ロテがファストに一気に距離を詰める。頭に鉄パイプが当たる寸前で、ファストの姿が消える。
「———————————あれ?」
次の瞬間、ロテはファストに地面に押し倒されていた。何が起こったのか理解できないロテ。
「さっきインストールしたんだ、格闘技プログラムを。AIが学習した”成果だけ”を。中々に頭が痛くなったよ」
ファストがジルカレに目配せする。
「ジルカレ。 その手にあるスタンガンでこいつを気絶させてくれないかな」
こくり、とジルカレが頷いてスタンガンに電流を迸らせる。
「まてまてまてまて! 俺の復讐はまだ終わっちゃいねえぞ終わらせねえぞこのクソがーーーー!」
スタンガンの電流がロテの体中を駆け巡り、ロテの意識は闇に沈んだ。