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第一凡 勇気出せ

5月6日、水曜日。

朝7時起床、顔を洗い、朝ごはんを食べる。

それから着替え、7時40分、家を出る。




僕は、今年はれて高校生になった。

中学生のころから、親と先生以外に話したことはなかった。

故に高校生活も未だ馴染(なじ)めなかったが、登校するのはしていた。


普通だった。

僕は何もかもが平凡だった。

勉強もスポーツも並だった。

今まで16年間、ずっと普通に過ごしてきた。


何で誰とも関わろうともしないの?

両親は口癖のように言っていた。

僕はいつもこう返していた。

関わって何がある?人はどうせすぐに裏切る。

下らない関係を持つ必要がない、他人を気遣うだけ疲れる。

これが僕の口癖と言っても過言ではなかった。

僕は自分以外の人を信用することがどうしてもできなかった。


…僕は平凡だ。

でも、どこかで自分を特別視しているのかもしれない。

僕には他人と違う何かがきっとある。

一般人と関わる必要なんてない。

そう思って生きてきたところも少しはある。

他人には無情、自身には甘えていたのかもしれない。


中学の先生…3年生の時の担任に言われたことがある。

誰とも関わらずして、孤独で寂しく生きようとも本当に何も思わないのか?

僕はその時、言葉を返せなかった。

その時に何を考えていたかは定かではない。

今でもその言葉に、返答はしかねる。


僕は少年すぎるのだろう。

心が、まだ大人に成長できないのだろう。

だから、誰とも関わらずひっそりと生きようとするのだろう。

普通でいい、分相応な夢を見ろ、そう思うのだろう。

でも、それでも普通が…今の自分が正しいとも思えた。

だからその事については、深く考えないようにしていた。

…いや、僕はその事から逃れるようにしていた。




8時30分に学校についた。

学校には徒歩で通っている、いつもこの時間帯についた。

8時40分から朝の学活がスタートするのであった。


僕は休み時間、ずっと自分の席についていた。

その事を自身、何とも思っていなかった、僕には普通だった。


9時から授業が始まるのであった。

僕は勉強が嫌いだった。

…僕の席は一番左前だった。

一応、寝ることはしなかった。

授業は、プリントやノートをとるだけで先生の話はきいていなかった。

それだけでいいだろう、それが普通だろう。


12時からは昼食の時間だった。

僕は、購買部にパンを買いにいった。

購買部は人気で、いつも混んでいた。

いつも普通に並んでいた。

時々、抜かされることもあった。

しかし僕は何も言わなかった。

抜かす人は大概が不良みたいなものだったからだ。

暴力をふるわれることが怖くて、なにも言えなかったといってもいい。


今日は、誰にも抜かされぬまま、後8人程で僕の番になるというところだった。

僕は、後8人…7人と期待して心の中で数えていた。

そんな時、誰かに後ろにまわされた。

隣のクラスの、少し有名な(ワル)だった。

武藤(むとう) 妖一(よういち)という名前で、髪は金髪でピアスをしていた。

親は有名政治家で、先生も迂闊(うかつ)に手を出せなかった。

僕は勿論、何も言えなかった。

そんな時、誰かが待てよと言った。

「お前、さっきから何抜かしてんだよ」

確かにそいつはそう言った。

そいつは、藤原(ふじわら) 達也(たつや)という僕と同じクラスの明るい子だった。

髪は少し茶色が混じった黒色、見た目は真面目で優しそうだが、睨むような目をする時は少し恐怖を覚える顔でもあった。

「何だよてめぇ、文句あんのかよ」

武藤は反論してきた、当たり前といえばこいつには当たり前なのかもしれない。

僕は武藤と藤原に囲まれたようで、少し怖かった。

「大アリだっつーの、その年で抜かすとか幼稚か、オムツはいとけよお坊ちゃん」

武藤はその言葉で完全にキレたようだった。

「てめぇ…!ふざけんじゃねぇ!」

武藤がそう言った瞬間だった。

先生が何をしていると言ったおかげで、大事に至らなかった。


僕は結局、パンを買えなかった。



「おい、お前さっき何で何も言わなかったんだよ」

藤原が、昼後の休み時間に僕に話しかけてきた。

僕は何も答えなかった、ずっと寡黙(かもく)なのが僕の性分だ。

「なーんーとーかー言ーえーよー?まさか、抜かされて何も思わねぇのか?」

僕はそれでも何も言わなかった。

生徒でここまで僕に話しかけてきた人は藤原が初めてだった。

「…お前、名前何て言うんだよ」

藤原は少しため息をつきながらそう言った。

「……天宮(あまみや)勇気(ゆうき)

僕は思わず答えてしまった。

答えてから、気付いたんだ、自分が言葉を発したことに。

「勇気かよ、良い名前じゃねーか、嫌な事はハッキリ嫌って言おうぜー?」

藤原は気軽に、茶化すようにそう言った。

「…僕、殴られたりしたら…嫌だから」

なぜか藤原にはすんなりと言葉が出てしまう。

自分で意識しないうちにだ。

「バーカ、殴られたら殴られたでだ、やってもねーのにそんな事言うなって」

「でも…」

その時、藤原は(さえぎ)るように言った。

「あのな、何事もチャレンジしてからなんだぜ!」

「1やってダメなら10やれ、10やってダメなら100やれ、これ俺の好きな言葉なんだ」

「勇気は、一度もやってねーじゃねーかー?もし今度あんな事があったら、勇気出して言ってみろよ、いざとなったら俺が助けてやるしさ!」

この言葉に、僕は洗い流されるような気分だった。

構ってくれることだけでも、嬉しかったのにこんな言葉をかけてくれるなんて思いもしなかった。


そこでチャイムが鳴った。

「おー、んじゃ、また今度話そうぜ?じゃな!」

藤原はそう言って、一番後ろの席についた。



その日の帰り道のことだった。

いつも通り道端を歩いて帰っていたら、50mほど前方では武藤とその友達が金属バットを持って立っていた。

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