1.平凡な私は転生した
ゲームをするときはマイナーキャラで環境キャラを倒そうと頑張っています。
だいたい失敗します。
弱そうな特技で強キャラになる流れが好きなので、そんな話を書きました。
主人公は平凡なままです。
ときどき頑張ったり、ときどき頑張らなかったりします。
私は転生した。
道路に飛び出た子供を助けようとしたところ、向かってきたトラックに轢かれて……、
と、いうこともなく。
実は病気で若くして儚くなってしまい……、
と、いうこともなく。
ときどき幸運なこともあり、ときどき不運なこともある人生だったように思う。
妻と出会い、息子と娘をもうけた。
息子たちが独立し始めた五十代のときに病気が見つかった。
余命は三年と宣告された。
……その二十数年後、息子たちや孫たちに囲まれて私は死んだ。
余命宣告より、三年あまりの頃はみんな涙して喜んでくれたものの、その後も私がピンピンして生きていると、五年経った頃から医者は首を傾げはじめ、十年経った頃には妻は私を置いてご近所の奥様方と頻繁に旅行に行くようになっていた。
私をないがしろにするというほどのことでもないが、夫婦として適度な距離に戻り始め、終活などというものも意識し始めたころに思い出したかのように病気が悪化した。
それからはあれよあれよという間に衰弱し、朦朧とする中、病院のベッドから妻や息子たちの顔を確認できたところで意識はブラックアウトした。
意外と苦しくもなく、悪くない最期だったと思ったところで、自分の意識が残っていることに少し驚いた。
もしかしてまだ生きているのかと、考え始めていると急に苦しくなってきた。
暗闇から引き戻されるように目の前に光があふれる。
ぼやけた視界の中、見えるものが目まぐるしく変わり、なんだかあったかい水の中に入れられたり、何者かに体を拭かれたりする感覚があった。
どうにも周りの状況がわからないと、思わず声も出なくなっていると周りにいる何者かが焦っているような気配がする。
どうにも複数の人間たちに見られているようだが先ほどまでいた病院のベッドではないようだ。
と、そこまで考えたところで私を抱えている何者かが私のけつをぶったたいた。
「おぎゃあああああああ!!」
私は叫び声をあげた。
これが私が転生して初めて出した産声だった。
この世界に転生して二十年ほど経った。
前世の意識を残したまま新たな人生が始まったことに私は興奮していた。
いつか見たファンタジー小説のように現代知識を使いこなし、誰よりも優位に立ち、人々に尊敬される英雄になっていく……、
と、いうことはなかった。
この世界は前世の知識でいうところの中世のようなところだった。
そして、いつか見たファンタジー小説のように魔法のある世界であった。
物語の主人公であれば、ここで魔法の神髄をあっさりと極めて、幼少のころから天才と呼ばれていくのだろう。
しかし、現実はなかなか厳しかった。
前世の知識を生かしていろいろと優位に立とうと思ったものの、よくよく考えてみれば、この世界で私に生かせる前世の知識はほとんどなかった。
前世で科学の力を使ってできていたことはほとんど魔法の力でできるようになっていたし、そもそも私自身がゼロから何かを生み出せるタイプの人間でもなかった。
前世の私がよく使っていたエクセルの関数もこの世界では何の役にも立たなかった。
もちろんスプレッドシートの便利な機能の知識も役に立つこともなかった。
小学校のころに四年ほどやっていた空手も大して洗練されていたわけでもなかったため、今の世界ではちょっと動きがいいねと褒められる程度のものだった。
と、いうわけで私はこの世界でもときどきの幸運とときどきの不運を繰り返し、実に平凡な人生を歩んでいた。
この世界でのことを少し説明すると、私が生まれたのは王制を敷く国家にある村の農家だった。
この世界では十歳になるころにすべての国民に対して魔法の適性を調べる検査を行う。
まだまだこの世界で主人公になれるかもと期待していた当時の私は、可も不可もない検査結果に落ち込んだものである。
とはいえ、農家の息子としては多い魔力が発現し、村長の勧めもあったことで都会の学校に進学し、魔法の訓練や勉強をさせてもらうことができた。
次男であり、家を継ぐわけでもなかったことも影響があったかもしれない。
そして、この学校で初めて前世での経験が生きた。
前世での学生時代の知識を掘り起こし、比較的優秀な成績を収めて学校を卒業した。
そうしたところ、何とか王国付きの魔導士の枠にぎりぎり滑り込み、その末席を手に入れることができたのである。
そして今日が数年の訓練期間を終えてからの初めての実地配置となる。
今、この場では私と同じ第三部隊に配属となる魔導士や兵士たちが集まり、部隊のお偉方の叱咤激励や上司の紹介が行われている。
そして、今まさにこの部隊を指揮する将軍の挨拶が始まるところだ。
「私の名前はアダマス・フィアンマ。今日から君たちの上司となる――」
当たり障りのない挨拶。
見た目はカイゼル髭を蓄えた厳つい壮年男性である。
「これから同じ部隊で働くもの同士、何か悩み事があればいつでも頼ってくれ――」
厳つい見た目に反して、優しい言葉が続く。
「私のことも軽く説明しておこう。皆それぞれ得意魔法や適性があるかと思う。私の得意魔法は夏野菜魔法だ。君たち、これからよろしく頼む」
数分のスピーチが終わり、将軍が壇上から降りた。
……何か気になることを言っていたような。
夏野菜魔法……?
……夏野菜魔法!?
何それ!?
お読みいただきありがとうございました。
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行っていただかなくても問題はございません。
読んでいただけたことがうれしいです。
また、読んでいただけるように頑張ります。