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猛獣使いの愛


 機械的なアンドロイドと、そのパートナーである男性が語りあう。静かな空間、ベッドに座り二人水入らずの空間。

『君は僕にはもったいない、僕は猛獣だ、君の事を強く思いすぎている、昔から同族の事を愛せず、君のように変わった、しかし優れた存在を愛してしまう』

『私が変わっているって?』

『いや、そうじゃないな、誤解だ』

 男が笑いながらいった。女のアンドロイドのほうが答える。

『あなたが猛獣なら、私は猛獣使いだわ』

『だけど、他にも問題がある、君と僕との関係を大勢の人間がばかにしている』

『大丈夫、あなたは有名な俳優よ、どっしりとかまえていれば何の問題もないわ』

『君は僕にはもったいなさすぎるね』


 またある日、映画の撮影に猛獣が使われる。題材は猛獣使い。俳優は脚本もできる天才だった。そして自分たちの関係にを投影する映画として、その題材を選び作品をかいた。彼の信用力によって、その時代にはピンとこないような題材も、作品を作る許可をえて、様々な会社の協力を得ることができた。


 奇妙な映画の題材だった。彼とアンドロイドとの関係―あまりに親密な“家族”とでもいうような関係―はよく周囲に理解されていたが、今回作られる映画のあらすじは、ある猛獣を子供の頃から育てていた人間が、その猛獣を愛するあまりひと時も離れず生活していたが、その猛獣がある日その飼い主を殺してしまう、猛獣に殺されて以降の飼い主の仲間たちが、飼い主を弔うために彼の過去を調べたり彼の孤独を知ろうとする。という話だ。


 撮影現場で彼と彼女の会話は盗み聞きされていた。こんな内容だ。

 『周りは理解しないだろう、僕らの関係を、僕がどんなに君を愛しているか、壁がある存在だからこそ、あまりに違う存在だからこそ愛してしまう、まるで猛獣と猛獣使いのように、そして壁を越えようとして、あるいは超えたあとに、後悔してしまうのかもね』

 『ええ、私はアンドロイド、あなたは人間、あなたたちはとても強い存在だから、そうたとえてしまうのも致し方ないのかもしれないわ』

 『いいや、僕が君に隠している秘密はもっと重大で、それに気づくとき、君は僕を猛獣だったと理解するはずだ、この猛獣は、小さなころから育ててくれた飼い主を、愛していた飼い主を殺すとき、どんな気持ちだっただろう』

 『野生の本能よ、猛獣なんて、けれどあなたには知性があるわ、あなたは猛獣ではない、私がいるもの、私があなたの中に生きているのなら、たとえあなたに私の命が奪われても問題ないのよ』


 数か月後、ある殺害現場。

刑事A『アンドロイドが殺害された?』

刑事B『いえ、ただのアンドロイドじゃない、違法改造されたものらしいんです、ある生物と機械であるアンドロイドをつなげて、まるで一つの生物のように扱われていたようです』

刑事A『なんで、いったい何がそこに入っていたんだ、犯人は?』

刑事B『犯人は、超有名俳優で、アンドロイドを殺した罪、そして動物を無意味に殺した罪に問われるでしょう』

 刑事Aはため息をついた。

刑事A『動物?どんな動物を殺してしまったんだ』

刑事B『ニワトリです、改造したアンドロイドは、知能の大部分を鶏の頭脳と改造してつなげていた、つまりアンドロイドの中身はニワトリだったんです、それを犯人は殺害し、食べた』


 やがて警察から、俳優の犯行の理由が発表される、人々はそれをも理解できなかった。彼いわく

 『猛獣が、愛する人間を食らうのは、腹が減ったのでも、憎いのでも、本能に勝てなかったのでもない、この世界における最大の愛情表現だ』

 そう語るのだった。


 彼は偏愛の人間だった。昔から人間を愛することが出来ず、動物を愛した。それを違法改造した事を悔やみ、そして改造してできたアンドロイドのあまりの愛おしさと完璧さに、いてもたってもいられなくなり、犯行を起こしたのだという。


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