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08 人生はアンコのように甘くない

 それから色々あり、存在もしないゾンビビスに1ヶ月それから色々あり、存在もしないゾンビビスに1ヶ月ほど警戒して籠城したり、ベンザーが運転できると豪語した船が動かす前に大爆発したり、サクラの入浴シーンを猿三郎とマーくんが盗み見たり、等々の出来事があったわけであるが、そんな事はあんま大した話でもないので割愛させて頂く!!


 んでもって、猿三郎が隔離島ワクワク動物園を脱出するのに、園内の鳥共を脅迫し「焼き鳥にされたくなきゃ言うことを聞け!」と畜生らしい交渉の果てに、鳥共に荒縄を括りつけ、某妖怪の代表気取りの何とか太郎の如く、空中を大移動するという離れ業をやってのけ、本島への帰還を果たすに至ったのであーーる!!!



 そして、やっとこさ、超日本超東京都うんももす町に! 猿三郎たちは辿り着く!


「つ、ついに帰ってきたわーい!」


 猿三郎は感涙にむせび泣く。


 そして側にはグルグル巻きにされた雉四郎がグッタリとした様子でいた。


 ここまで数百キロを休まず飛んできたのだから仕方がない(結局、ロリゴスロリだけでなく船長まで始末したのも、この雉四郎がやったことだと特定され、その責任を負わされ強制労働させられていた)。


「よーし! さっさと犬次郎のヤツを見つけて、今までの恨みを込めて、あんのクソガキをフルボッコにしたるけんのぉ!!」


 ドス黒い笑みを浮かべる猿三郎に、雉四郎はフンと鼻を鳴らす。


「…忘れたの? 犬次郎はアタシたちの中で最強よ。誰も勝てるわけないわよ」


「ハン! それは前回、『畜生転移』の話じゃろがい! 今回は『畜生転移2』! この猿三郎様こそが主役よ! それに前回の主人公は次作目ではパワーダウンするのがセオリー! 下手をしたら、物語冒頭で死んでフェードアウトもあるあるじゃーい!」


「…そう上手くいくかしら?」


「ゲェフェフェフェッ!! ヤツはこの生温い現代で飼い犬になって、無様に肥太っとるハズじゃけぇ!

 あの地獄のような隔離動物園で鍛えていたワシとは違うわ!

 異世界でレベル99になった上に、それを維持してきたワシが負ける要素など万が一にもないわい!!」


「しかし、敵の戦力を知らねば危険だっぺ! オラが作った相手のスケベ値を測れる“スケウター”を使っ…ンバッ?!」


 猿三郎のローキックが、ベンザーの持つスケウターを破壊し、牛乳瓶の底を叩き割り、顔面にめり込む!!


「黙れ! このクソの中のクソが!! なぁにが知恵者じゃい! そんな役立たないゴミなんて、オメェと一緒にゴミ箱に捨ててしまえ!!」


「ひー! ゆるしてくんろー! ゆるしてくんろー!」


 ベンザーをタコ殴りにする猿三郎! 


 散々、大嘘をぶっこいたことで、ベンザーの株はもはやゴキブリ以下となっていたのであーーる!!


「オメェらは足しか引っ張らねぇクズじゃけぇ! クソの役にも立たねぇ!」


 猿三郎に怒鳴られ、ゴリッポもベンザーも縮こまる。


「…だって」


「だってもヘチマもあるか! このボケゴリが!!」


 ゴリッポもまた本当に役立たないヤツだった。


 このゴリッポは本当に単なる力馬鹿でしかなく、この本島にまでやってくる際にも、空を飛ぶのが怖いだのと駄々をこね、ただでさえ図体がデカくて運ぶのが大変なのに、勝手にパニックを起こして周囲を危険に晒しただけでなく、事実として何匹もの鳥類が海の藻屑となった。


 猿三郎は何度、ゴリッポを海に突き落としたほうが早いんじゃないかと思ったことか。


「しかーし、ワシはキサンらに情けをかけたァァァ! なぜかァァァ!?」


「実はオラたちのことが好きだからだっ…ンべえェッ?!」


 猿三郎のボディブローがベンザーに叩き込まれる!!


「犬次郎との決戦時の弾除けとして使うためじゃぁ!! せいぜいその命の限りを使ってワシを守り、あのクソ犬をぶっ倒すんじゃー!!」


 復讐の鬼と化した猿三郎は、すべての攻撃力がバーサーカーのように強化されているのであーった!!


「…で、なんで私までこんなところに」


 子供らは無事に自宅に帰したというのに、サクラだけこの場に残されていた。


「知るか! なんとなくじゃーい!! お色気要員じゃ! せいぜい乳と尻を揺らしとらんかーい!」


 時代錯誤な性差別を堂々と口にする主人公!


 これはマズイ! まさに炎上案件であーーる!!


「お色気要員ならアタシ…きゃああッ!!」


 猿三郎は、雉四郎をロープごと振り回す!!


「うるさーい! オメェが余計なことしくさったせいで、もっと早く本島に戻れるところをこんな無駄に遠回りしたんじゃけえぇ!!」


「おい! 三郎! 来たぞ! あれじゃないか!?」


 ゴリッポが指差す。


 そう! ここはうんももす町お散歩ロード!


 健康のためなら死んでもいいと思う細マッチョな老人たちがランニングシャツとハーパンで無軌道に縦横無尽に爆走しており、スマホを弄くり回しながら自転車を脇見運転してカッ飛ばす若者と、熾烈な争いを繰り広げるまさに戦場!!


 巨大カラスはゴミステーションを我が物顔で荒らし、修羅と化した野良猫との血みどろの抗争が日々勃発している悪魔地帯!


 都内でも最強最悪と呼ばれる暗黒界隈、まさに陸上のバミューダトライアングル!


 こんな場所でお散歩するのは至難! まっこと至難!!


 小型犬・中型犬はお断りの張り紙がされ、それを無視してお散歩したならば、間違いなく30秒以内にミンチと化すとまで地元ではまことしやかに囁かれている!

 事実、警告を無視したアマチュア飼い主とチワワの白骨死体が芝生に転がっていた!


 そう! ここは選ばれたエリートワンコしかお散歩を許されないのだ!


 アメリケン大統領のボディガードを勤め、見事なまでに守り切った挙げ句に、与えられた安い餌に満足できず、飼い主と大統領一家を噛み殺したドーベルマンこと“ブルータス”!


 SNS()えのため、子犬の時から飼われ、ホッキョクグマやベンガルトラと無理やり闘わさせられ、連勝し続けて唯一生き残った超土佐犬(横綱化粧まわしセット付き)こと“バクザン”!


 飼い主のプロテインを盗み飲みしまくり、中東付近にあった難攻不落の軍事基地を単騎壊滅させ、なお怒り狂い続けてシルクロードを踏破し、超日本海を泳ぎきった沈黙シリーズに出てきそうなピットブルこと“スティーブン”!


 こういった歴戦の猛者しか、お散歩を許されない散歩道なのであーーった!!


 飼い主に関してはワンコのインパクトが強すぎて紹介しそびれたが、やはりその最強ワンコに相応しい元殺戮軍人、脱獄死刑囚、最強格闘王などといった、パートナーとして相応しい人材であーーる!


 そして、この3匹こそが、この散歩道を支配しているわけであり、いつものように肩で風を切ってお散歩していた!!


 しかーし、懸命なる読者諸君ならお解りだろうが、当然ながらゴリッポが指差したのは彼らではない!!


 超高熱のような気配に、文字通りに空間がグニャグニャと歪む!


 巨大なプレッシャーに、最強犬3匹もその飼い主も、まるで借りてきた猫のようになった(犬なのに)!


 そして、斜面から柴犬が下ってくる!!


 それだけで最強犬たちがひれ伏し、飼い主たちはその場で昏倒し、爆走老人とスマホ若者、カラスや野良猫は慌ててその場から我先にと逃げ出す!!


「犬次郎!! …あれ? なんかムチャクチャ怒ってね? アイツ…」


 そう!


 それは犬次郎であった!


 そして、その犬次郎は鼻の頭にシワを寄せ、歯を剥き出しにして怒り狂っていた!!


 そんな柴犬に恐れをなして、最強犬3匹すらガクガクブルブルと震え縮こまり、お散歩ができずに道の端に頭を抱えてうずくまる!!


「あいつ、オラより強くねー?」


 お決まりの台詞を吐くベンザーに、猿三郎のラリアットが決まる!


「元より強敵であることは解っていたわーい! しかし、今は鉄球(犬次郎のメインウェポン)も持っていない丸腰! ワシらの勝利は確定じゃ!」


 そんなことを言う猿三郎の膝も笑っていた。


「さあ! やれ! ゴリッポ! このままじゃ変態白濁ヘタレゴリラで終わりじゃけんぞ!」


「お、おお…。やってやる、やってやるよッ!」


 ゴリッポは側にあった樫の木の幹に抱きついたかと思いきや、根ごと地面から引っこ抜く!

 

 パワーだけなら有り余るほどあるのだ!


 サクラも雉四郎も目を丸くする!


「よし! そいつをぶつけてやるださぁ!!」


 ベンザーがどこからか取り出したポンポンを手にして鼓舞する。


「ウオオオオオオッ!!!」


 そして、ゴリッポは力任せに、犬次郎目掛けて木を投擲した!


 ムチャクチャだが、パワーファイターなんだからそれぐらいの見せ場はあって然るべきだ!


 某世界一の殺し屋の移動手段の如く、物理の法則を無視して、真っ直ぐに槍のように飛んで行く樫の木!

 

 お約束の如く、怒りに我を忘れている犬次郎は、自身に迫る危機にまるで気付いていない!!


 しかーし、あわや木がぶつかると思った瞬間!


 とても信じられないことが起きた!!



 ジュボッ!



 と、犬次郎に触れる前に、樫の木が溶鉱炉に落とした布切れの如く、蒸発してしまったのであーーる!!


「「「えーッ!!?」」」


 そう! 説明を改めよう!


 犬次郎は危機に気づかなかったのではない!


 こんなもの、“危機に値しなかった”のであーーる!!


 はてさて、では、なにが起きたのか!?


 つまり、犬次郎の怒りは精神的な領域をとうに突破し、物理的な現象にまで干渉する程に及んでいたのだ!!


 空間を歪ませる怒りのオーラは、映像効果的な感じに見えていたのではなく、グツグツと煮えたぎるような物理現象として現実の空間を歪ませていたのであーーる!!


「な、なんなんだっぺ。アレは…」


「あれが犬次郎よ…。世界を滅ぼす者の異名を持つ…」


 別にそんな異名などないのだが、雉四郎はさも知ったような顔で雰囲気でそう言った。


「まさか! 犬次郎めが! レベル99を超えてパワーアップしとったとは……! ヤラれる! このままじゃワシら全員ヤラれてしまう!!」


 猿三郎は恐慌状態に陥り、何とか自分だけが助かる方法を、小さな脳味噌をフル回転させて模索する。


 説明するまでもないが、この時点で犬次郎は猿三郎たちの存在などアウト・オブ・眼中(死語)なのであーーった!!


「お、おい。あ、あれは…」


「なんじゃい! クソゴリ! 今は忙し…は、はううッ?!」


 犬次郎の後ろからやって来る気配に、猿三郎は危うく気を失いかけた。


 犬次郎のリードの先…そう。超日本で柴犬が1匹でお散歩するなんてマナー違反は許されない!


 つまり、犬次郎には飼い主がいるのは当然なのであーーる!


 超スカイツリーより高いかも知れない、雲を突き抜けてフライアウェイしているコック帽(お出掛け用)をかぶり、一足がシロナガスクジラよりも重いとされる鉄下駄(お出掛け用)を履き、地響きのような重低音と共に“ソレ”は姿を現す!


 それは老人だった。


 しかし、そう形容するのは正しくはあるまい。


 背丈は3メートル近くに及び、プロレスラーやボディビルダーを遥かに超える体躯だった!


 ピッチピチのコック服から、険しき山脈を思わせる黒光りする筋肉がはみ出している!


 巌のような顔からはみ出した真っ白なモジャ毛は、モミアゲを通ってヒゲと一体化している。なんなら鼻毛まで混じってそうなぐらいの剛毛だ!


 果たして、老いとは何なのかと思わせる姿なのだ!


 その腕でしっかと犬次郎のリードを握っている!


 つまり、これが犬次郎の飼い主なのだァァァ!!


 彼の正体は何なのか!?


 老舗和菓子屋“蔵菊堂くらきくどう”の店主、黒皮くろがわ 餡憎あんぞう!!


 しかし本人がそう呼ばれることを嫌っているため、彼自身の自称でお伝えしよう!


 彼の正体は、“超和菓子職人”こと、“マーマレードじいさん”なのであーーる!


 生物は皆等しく、犬次郎を見て戦意を失い、マーマレードじいさんを見て生まれてきたことを後悔すると言う(近所の回覧板情報)!


 そして、犬次郎は怒っていた。


 何に対してか? 


 簡単な質問だ!


 それはマーマレードじいさんに向かって、反逆心を剥き出しにしていたのだ!


 なぜか?


 簡単な質問だ!


 それは3日3晩、朝昼晩と、餌にアンコ(砂糖控えめ)を出され続けたからだ!


 犬次郎だってカリカリなドッグフードが食べたい日だってある!


 粒餡ならまだ許せた。


 それなのによりによって漉餡だ!


 こんなペースト状の物ばかり食わされて、「俺はロボットのコップじゃねぇ!」と犬次郎は怒り狂っていたのであーーる!!



「グルルルルッ!!」


「…楽しい散歩中にそう唸るな。“トーフ”よ」

 


 そう! そして、なぜか彼は犬次郎を“トーフ”と呼び間違えていたのだ!


 これも犬次郎の怒りに油を注ぐ要因である!!


 前の飼い主(元大魔神サヤカ)が譲り渡す時に名前を教えていたにもかかわらず! まったくそんなことは覚えちゃいないのだ!!


「ちゃ、チャンスじゃ。犬次郎とあの化け物がどんな知り合いかは知りとうもないけんが、仲間割れしてくれるんは絶好の好機じゃい!」


 猿三郎のこの考えは正しかった。なぜならこの飼い主と飼い犬の実力は拮抗しており、消耗させるのにこんな好都合なことはない!

 

 しかーし! 世の中とはそんな上手くはいかないものであーーる! 

 

「な、なにあれは?」


「次から次へとなんじゃと言うん…はううあッ?!!」


 犬次郎から立ち昇る猛り狂う赤き闘気、マーマレードじいさんから立ち昇る千早振る青き闘気…それぞれが臨界点に達し、巨人の姿を形作る!!


 つまり守護霊とかスタ〇ドだのペル〇ナだのエ〇夜食だの言われているアレだ!!


 赤き闘巨人と、青き闘巨人は、ほのぼの散歩している老人と柴犬の頭上で、互いの額をぶつけてメンチを切る!


 そして!!



『ツブツブツブツブツブツブツブッ!!!』


『コシコシコシコシコシコシコシッ!!!』



 猛烈なラッシュッ!!


 巨人同士の眼にも止まらない激しい殴り合いが始まる!!


 賢明なる読者諸君ならばもうお気づきだろう!!


 そう!


 赤き巨人は粒餡を司る何か【仮称:粒餡魔神】!


 青き巨人は漉餡を司る何か【仮称:漉餡魔神】!


 なのであーーった!!


 それらは単なる幻影などではなく、互いに拳を打ち付け合う度に、激熱のアンコを周囲に撒き散らす!!


 その砕け落ちる様は、まるで砕けた流星の破片の如く、周囲の者たちに容赦なく降り注ぐ!!!!


 それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図!!


 平和なはずのお散歩ロードが、突如として血糊と肉片と死臭に包まれたのであーーった!!


「な、なによこれー!?」


「神々の闘争だっぺよ!?」


 燃え盛るアンコに、雉四郎もベンザーもアワアワと逃げ惑う。


「こ、このままでは全滅してしまう! 敵と遭遇もしてないのに、エンカウント前に殺されてしまうなんて馬鹿な話があってたまるかーい!! 退避じゃー!」


 勝てるわけがないと見た猿三郎は、ゴリッポを盾にしつつ逃げ出したのであーーった!!




★★★




「……さて、そろそろオヤツタイムとしよう」


 人は小汚い前掛けの下から、ゴソゴソとアルミ箱を取り出す。


「ワン♡」


 犬次郎は期待に目を輝かせた。


「今回は改良した特製アンコじゃ。たんと食うがええ!」


 アルミ箱の中は、やっぱアンコが隙間なく詰められていたのだ。


「グルルルルッ!!!」


「む? 腹が減っておらんか? なら仕方ない。散歩の続きをするか」


「グルルルルッ!!!」


 巨人たちが殴り合っている中、1人と1匹はほのぼのとお散歩を続ける!


 悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!


 彼らだけが、自分たちが生み出した闘巨人にまったく気づいてもいないのであーーーーった!!!

マーマレードじいさんについては、


拙作「砲撃のグリーングローサー」


四十一狂目 超和菓子屋職人マーマレードじいさん


https://ncode.syosetu.com/n5455cm/47/


に、ございます!



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