力を秘めたコイン
力を秘めたコイン
また教室では、海斗達が騒いでいた。
「なんだよ! そのメダル。 ちょっと見せろって!」
「ダメだよ、このコインは大事なものなんだ」
この二人は、相変わらずだった。
ただ、この二人は、クラスでは浮いた存在だった。
正確に言うと、この二人が浮いているのでなく、クラス全体が冷ややかな空気になっていて、変に動くと、輪から外される。仲間外れにされるような意識があるみたいだ。
私は、転校してきてまだ数か月、まだそのクラスの空気には染まっていない。
クラスの目線が一斉に廊下に向けられた。
隣のクラスの伊吹メイサ、知ってはいたけど話した事もない。この子がいると、いつも周りは緊張しているみたいだ。
なぜか、うちの教室に一人で入ってきた。何か用だろうか?
「あなた、妃咲ちゃん? 学級委員長してるのね」
私に用だった。
「えっ? そ、そうだけど……」
「学級委員長、大変でしょ。 何か困った事があれば私に言ってね」
あっけに取られた。今まで想像してたのと違う。
「ありがとう。 でもどうして? 隣のクラスなのに」
「妃咲ちゃん転校したばかりでしょ? それにここの学校はみんな冷たいし。なれない学校に来て困ってそうだったから」
確かに。
「ああ、そんな雰囲気は感じていた。でも私は今のところは大丈夫よ」
「そう? それなら良かった。 妃咲ちゃんは前の学校でも委員長していたんだってね、頑張り屋さんだね」
「よく知ってるね。前の学校はもっと田舎の方で、生徒数もここより少なかったし」
「そうなんだ。私ね、妃咲ちゃん見てたら気が合いそうな気がしたの、しっかりしてるし」
「いや、全然。メイサちゃんの方がかなりしっかりしてる、話し方もはっきり喋るし」
ガチャーン!
大きな音。何事か確認する前に、きつい目で反応するメイサちゃんに気づいた。
音の方を見ると、また海斗達にしわざだった。
「いい加減にしなさい! 優君もそんなの持ってきちゃダメ!」
急にスイッチが入ったように怒る妃咲を見て、メイサちゃんが、鼻で笑っていたようだった。
「ありがとう、またゆっくり話しよ! じゃね」
「あ、うん、またね」
メイサちゃん、めっちゃ話しやすい子。ここの学校で一番話せるかも。
「妃咲、こいつゲームのメダル持ってきやがってさ、ゲームもしないっていってたくせ」
優君は、床に散らばったコインらしきものを探していた。それを入れた木箱ごと、落としたらしい」
何やってんだか。
「あのコインは、失くせないんだよ」
「だったら学校に持ってくんなって、妃咲も言ってんだろ!」
私もコインを一緒に集めようとした。だけどもう床には無いようだ。
「もう拾ったの? 全部集まった?」
しかし、優君はまだコンタクトレンズを落とした時のように探している。
「あと一枚なんだよ、やばい」
「ん? 全部で何枚くらいだったの?」
「三枚。」
「三枚? たった三枚?」
私の無神経な言葉を拾った優君は、顔も耳も真っ赤にしていた。
「このコインは一枚だって重要なんだ、大きな力を持っている。 海斗のせいだからな!」
珍しく怒っている優君。よっぽど大切な物なんだろ。
周りを見ると、クラスの何人かこっちを見ていた。
「ごめん、そっちに転がって来なかった?」
私の問いかけに興味はなく、他の男子らは首を横に振るだけ。でもその足元に落ちていた。
「もー、ここにあるじゃない」
拾いに行き確かめた。
何これ? コインと言うより板みたいに分厚い丸型の物。このコインには竜の絵が刻まれていた。
「ああ、良かった、まずいとこだった」
私の手のひらから、スッと優君がコインをつまむと、すかさず箱にしまった。
「何? そのコイン。 何かの記念硬貨?」
「これはお金じゃないよ、これもばあちゃんの物なんだ。あっそういえば、この間の石、渡してくれた?」
「ええ、言うのを忘れてた。戸惑っていたけど受け取ったよ」
「そう、良かった。あの石は白いようで透明なんだよ。エレメントで言うと『風』の星」
また不思議な事を言っている。
「エレメントって何? 石なの?」
「ここで言うエレメントは、性格みたいなもんだよ、持って生まれた自分の性質。それぞれ違うさ。『龍』や『獅子』もあれば『雲』や『日』のように自然の物がエレメントの特徴になる。ぼくは『土』だよ」
「へぇー、『土』なのねー、畑とかのよね」
「ちなみに俺は『火』らしいけどね!」
以前に調べ上げたのだろう。海斗はためらいもなく自分の事と納得していた。言われてみると海斗は火っぽい。
「えー、じゃ私も何か持ってる? 性格診断とか出来るの?」
そのエレメントに、少し興味がひかれた。
「ばあちゃんなら出来るかもかもね。性格まで調べる事は出来ないけど、ぼくはエレメントくらいは調べれるよ」
「本当? 見てみてよ」
こんな事が出来るんだ。
優君は生年月日や名前の字画数で私のエレメントを探り出した。
目が見開き、ニヤついた。きもい。
「どうした優君。わかった?」
「来たねー、『水』だよ」
ん? なんか思ってたのと違う。
「水? 花とかじゃないの? 空とかでもいいよ」
「そんなの無いよ。それよりもこれ偶然だ、いや必然だね」
何が偶然なのか。
「何なに、どうした、何かいいことが起こる?」
「いや四つそろった。そろったよ」
「そろったって? 四つ?」
コインは三枚なのに四つは何のためだろうか。
「そそ、偶然にもこのコイン、『土』『水』『火』『風』の個体がそろうと、初めて力を発揮する」
「そうなの? 『土』が優君、『水』が私、『火』が海斗、『風』は? そうか、真奈ちゃん」
真奈ちゃんを頭に浮かべ、ドライな性格が、なおさら風っぽいとイメージさせた。
「そうなんだよ、真奈ちゃんがそろえば四つのエレメントが完成。これで力を発揮する」
「力って、どういう力? 魔法使いの世界みたいなもの?」
「んー、ちょっと違う。ぼくもよく調べて無いけど、確か将来の予言とか」
予測能力だろうなのか。未来の事がわかるというのだろうか。
「へー、未来のね。知った方がいい時もあるけど、知らない方がいい時もあるよね……。でも助かるよね!」
「そうなんだよ。今度ばあちゃんにバレないようにやってみる?」
勝手に使っていいんだ。
「怖いけど面白いかもね。でも真奈ちゃんもいないとダメなんでしょ?」
優君の目が一気に冷めた。
「あ、そうだよねー」
コインの話題はすんなり終わった。