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魔物討伐部隊員が眠れぬ夜に数えるもの

・オーディオブック配信開始のお知らせを活動報告(3月16日)にアップしました。どうぞよろしくお願いします!

・CMとPVを制作して頂きました。CMは公式サイト、YouTubeでCMとPVともご覧頂けます。

・読者様よりTwitterにて「ヴォルダリ生誕祭2022」を開催して頂いております。今話はこちらへの御礼です。ありがとうございます!

「羊が一匹、羊が二匹……」

「ヴォルフ、なんで羊?」

「ダリヤが言ってた。眠れないときは羊の数を数えるって」


 笑みの気配でそう答えられた。

 昨年春から、ヴォルフの話の四割はダリヤのことである気がする。

 いや、きっと気のせいではないが。


「ヴォルフ、その場合、その羊は『毛刈り前』か、『毛刈り後』か」

「どうしてそこにこだわるんだよ、ランドルフ?」


 夜遅く、遠征先のテントの中、ヴォルフ、ドリノ、ランドルフは、毛布にくるまったままで話し合っていた。


 魔物の討伐後、街道途中の街から差し入れをもらった。

 温かいパンの他、紅茶クッキーがあったので、夕食後にありがたく頂くことにした。

 そして、せっかくの紅茶クッキーなのだから紅茶を淹れようということになり――むらし時間を誤り、そろって渋い紅茶を飲んだ。


 あとはいつものように革袋のワインをちょっと飲んで、歯磨きをして眠る。

 そのはずが、もぞもぞとテント内でうごめき、夜中というのに三人きっちり目が醒めているのが今である。

 テントの中まで薄く照らすほどの月明かりで、互いの状況はよくわかる。


「『茶の目覚まし』か……」


 ぼそりとつぶやいたのはランドルフである。

 ダリヤが聞けば、カフェインの取りすぎだと納得したであろう。


 今回の野営地は、馬止めのある広めの場所だ。

 多少話しても隣のテントまでは聞こえない。

 どうやったら眠れるかと話し合い、羊を数える案が出てきた。


「羊では毛の長さが気になって眠れぬ。毛のないところで、ブルースライムが一匹、レッドスライムが二匹、というのはどうだろう?」

「だー! (まぶた)の裏がカラフルでより目が醒めるわ!」


 疲れているのに眠れない。

 かつ、おかしな想像でより一層目が冴える。悪循環である。


「ならばブラックスライムならどうか? (まぶた)の裏が黒になり、より眠りやすく――」

「ランドルフ、それはやめよう。むしろブラックスライムを眠らせなければいけなくなる……」

「おい、なんか怖い声になってんぞ、ヴォルフ」


 隣の彼から妙なほど冷えを感じる。

 自分達は確かに魔物討伐部隊だが、ブラックスライムに特定個別の恨みはない。

 それともヴォルフにはそんな経験があるのだろうか? 自分と一緒の遠征での覚えはないが。


「では、動物や魔物ではなく、静物にしてみるか?」


 ランドルフがなかなか的確だと思える提案をしてきた。

 ドリノはうなずくと、咄嗟に思い付いた物を数え出す。


「剣が一本、剣が二本……だめだ、完全に仕事じゃねえか……」


 今日ふるった剣がまっ先に思い浮かび、戦いに関する自己反省が始まりかける。

 苦笑する自分の横、楽しげなつぶやきがこぼれ始めた。


「魔剣が一本、魔剣が二本、魔剣が三本……ああ、これならいいかも……」


 いろいろ怪しい声がする。

 想像も怖いのでやめてほしい。

 ため息をついていると、自分の上を問いかけの声が通った。


「なぜ静物とはいえ、二人そろってそちらにいくのだ? それで眠れるのか?」

「じゃあ、ランドルフは? 楽しく眠れそうなものって浮かぶ?」

「……ガラス瓶が一つ、ガラス瓶が二つ」

「それ、中身が蜂蜜だろ? って、目をまん丸にすな! 聞かなくてもわかるわ!」


 月明かりの中、横で素直に驚く顔が見えた。

 結局三人で笑ってしまう。


「この夜中に、お前らは何を盛り上がってるんだよ?」


 入り口の垂れ布をひらりと上げ、先輩騎士が声をかけてきた。


「すみません、うるさかったですか?」

「いや、隣までは聞こえない。俺はトイレに行った帰りだ」


 そう言った先輩に、ドリノは眠れずいろいろなものを数えていたことを話した。

 先輩には、見事に苦笑された。


「お前らは子供か? そういうときは恋人か、好きな人でも(まぶた)に浮かべればいいだろうが。運が良ければそのまま夢に見られる」

「ごもっともです……」


 そうして、先輩は去って行き、三人はそろって再び目を閉じた。


 しばらくすると、すうすうと気持ちよさげな寝息が聞こえてきた。

 ランドルフは無事、夢の国に旅立ったらしい。

 そして、反対からは本当にかすかな寝言が響いた。


「……ダリヤ……」


 大変に予想通りだと納得しかけると、寝言はさらに続く。


「……ダリが……一人……ダリヤが……二人……三人……」


 まどろみの笑みが、眉間に深い皺を寄せるものに変わっていく――

 そんなヴォルフを目に、ドリノはなんとか笑いをこらえる。


 なぜか混ざってしまったようだが、絶対に起こすつもりはない。

 ちょっとは己を振り返るきっかけになればいいのだ。


 とりあえず、自分も愛しい女性の笑顔を思い浮かべながら眠ることにした。


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― 新着の感想 ―
そんなにダリヤがいたらあっちこっちに心配で右往左往するヴォルフとか胃薬どんだけ合っても足りない方々が過労で神殿送りになりそうです(笑)
[良い点] このシリーズの大ファンです。 主人公に引っ張られた形でのイキイキとした 「人生の生き様」をあらわにするオトコ達。 ・・でも、私はどうしても上はお貴族様 から市井の親父もリアルに存在する異世…
[一言]   ダリヤが一人…ダリヤが二人… とくるのであれば、最後に   一人足りない… まで行くオチかと
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