問題編:就寝前
「皆様、お食事のご用意が出来ましたので、食堂へ」
執事がかしこまって報せに来る。
皆そのまま立ち上がって、食堂へ向かおうとしたが、一人だけ、古物商が、小説家たちに見せていたらしい商品を、部屋に戻してくると言って離れた。
小柄な体には重そうな焼き物などをたくさん背負って軽々と去っていく姿には舌を巻く。
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夕食は特に何事もなく終わり、再び歓談が始まった。
私はお手洗いの為に席を外し、歩いていると、執事と養子が何やら話しているところに行き合った。
執事が頭を下げてその場を離れ、残された養子はこちらに気づくと会釈した。
「貴方でしたか。背格好が似ているから、てっきり古物商の人かと」
「何を話していたのかね」
「鼠がいるみたいなんですよ。新しい屋敷ですし、野鼠だとは思うんですが、殺鼠剤を置いたほうが良いかもしれないという話をしていました」
「おや、それは大変だ」
「物置に本邸から持ってきていた物があるそうなので、後は執事さんに任せようかと」
それが良いと私も頷いて、二人で皆のところに戻ることにした。
執事が食後に紅茶はどうかと持ってくると、殆どの客はそれを受け取ったが、小説家は困ったような顔をした。
「実を言うと、紅茶はあまり好きでなくて」
「でしたら、お茶か珈琲もございます」
ならば、珈琲を頂きましょうと小説家が言って、執事はその通り持ってきた。
「紅茶も珈琲もあるとは、流石に違いますな」
古物商が羨ましそうに紅茶を飲み干す。空になった茶碗を下げに女中が来て、不器用に盆に載せて歩き出し、そのまま躓いて転んだ。
不運なことに、茶碗は丁度机の角に当たってしまい、欠けてしまった。
執事は咄嗟に駆け寄って、女中に怪我がないか尋ねるが、彼女は顔を真っ青にして狼狽えていた。
私は茶碗を手に取り、ああ、と声を出して言った。
「大丈夫だよ、これは安物だ。誰も怪我してないなら、どうということはない」
その言葉に古物商は気まずそうに顔を背ける。対照的に、女中はほっとした顔で謝罪を述べてから無事を伝えた。
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少し経つと流石に皆眠くなってきたようで、各々の部屋に戻って寝ることにした。
私はあまり眠くはなかった、というか、ここのところ寝付きが良くなかったので、睡眠薬を飲んでいた。今日も瓶を荷物に入れてきてある。
執事が準備しておいてくれたのだろう、部屋に水差しが置いてあったので、それを二杯ほど飲んで、寝台に潜り込み、それから目を閉じた。