第83話 本当にその笑顔を守れて良かった。
起きたら丸一日以上過ぎていてセカンドの日付は12月10日になっていた。
時間は深夜の1時。
多分倒れたのは12月7日の午後4時頃だから丸二日と9時間眠っていたことになる。
俺の横では千歳とメリシアが眠り込んでいたので東さんに状況の確認をしてみた。
あの日、スーパービッグドラゴンの火の玉を防ぎ切った俺は倒れた直後に魔女が現れて「今日は打ち止めよ」と言ってプレイヤー全員を元々の位置に転送した。
俺と千歳は父さんの手でメリシアの宿にお世話になった。
父さんは夜の10時まで付き添ってくれていたが出来ることが無い事と、いられる限界になったので母さんの所にツネジロウを置いて帰ったと言う。
ああ、なんか通信球…次元球を渡し忘れていて母さんに怒られたと一瞬だけ戻ってきて2番を俺、3番を千歳に預けて帰ったらしい。
父さんはこれでまた2日間来られなくなる。
次に来られるのは今日だ。
12月8日のイベントは俺たち抜きで行われた。
狙われたのはセンドウでギガントダイルと言う新規の魔物三匹が相手だったと言う。
プレイヤー達は死なない事を利用して爆弾を抱えて特攻を仕掛けたり回避を無視して戦ったそうだ。
そのおかげでセンドウには大した被害を出す事なく無事に守り抜いた。
12月9日はイベント直前に魔女からの恐ろしいルール変更によってプレイヤー側にも戦慄が走る事になる。
・報酬ではなく参加するだけで費用が貰える事になり金額は1人5000エェン。
・今回から死んだら12月11日の午後11時59分…ようするにイベント終了までログイン不可。
現れた魔物はビッグドラゴンで狙われたのはボウヌイ、結果は…一応勝利は勝利だが散々だったそうだ。
8千人で挑んだが生き残りは3千人に届かないくらい。
現れた九匹のビッグドラゴンが倒される直前に行った攻撃を防ぎきれずに村は焼かれ、プレイヤーも死んだ。
約2000人居たスタッフもほぼ全てが亡くなったと言っていた。
そこまでが俺が眠っていた間の出来事。
千歳に関しても起きたのは4時間ほど前でまだ眠れると言って再度寝てしまったらしい。
メリシアの宿はこの2日はイベントの事もあって営業を自粛していて、メリシアは俺が眠っている間も出来る限り「保養の指輪」での治療とマッサージをしてくれていたと言う。
恐らく今のメリシアはアーティファクトを使った為に疲れて眠っているのだろう。
俺はメリシアの寝顔を見る。
とても綺麗だ…素直にそう思えた。
俺は何処か変になってしまったのかもしれない。
変わった自分を訝しんで千歳を見る。
綺麗とは思わなかった。
どちらかと言うと俺がしっかりとして守ってやらなければと思えた。
無論、メリシアの事も守りたい。
守らなければと強く思う。
思うのだがそれ以上に綺麗だと思ってしまう。
しばらく見ていたかったのだが空腹で腹が鳴る。
東さんの説明通りなら57時間寝ていた訳で腹も減る。
それにトイレにも行きたい。
俺が立ち上がる時に音が出たのだろう。
メリシアがハッと起きて俺を見る。
「ツネノリ様…」
「メリシア…おはよう」
「はい、おはようございます。でも今は夜中ですよ?」
「ああ、東さん…神様に聞いて状況はわかった。2日以上も付き添ってくれたんだな…。
ありがとう」
「いえ、私に出来るのは少しのマッサージとこれですから」
そう言ってアーティファクトを見せてくる。
「それがとても嬉しかったよ」
「今はどちらへ?」
「あ、トイレに行こうと…」
「そうでしたか、お腹は空きませんか?」
「さっき鳴ったよ」
「ふふ、ではすぐにご用意しますね」
「いや、今は夜中だから」
「大丈夫です。いつお目覚めになっても良いように用意はしてあります。先にトイレに行ってください」
俺は言われるままにトイレに行ってから部屋に戻る。
眠っている千歳には申し訳ないがメリシアと話し合って明かりをつける。
「あの日は驚きました。
倒れたツネノリ様がそのまま昏睡されてしまって…」
「もし良かったらあの後の村の被害とか教えてくれないかな?」
俺はメリシアの用意してくれたおにぎりと味噌汁を食べながら話を聞く。
「ツネノリ様が守ってくださったんですから村に被害なんてありません」
「火事は?」
「一件もありません」
「逆に水で壊れた建物とかは?」
「村中綺麗になったと皆喜んでいます」
メリシアはそう言ってから「ふふ」と微笑んでくれる。
俺はその笑顔に心底癒される。
見惚れてしまっていたのだろう。
心配したメリシアから「どうされました?」と言われてしまった。
「いや、見惚れていた。本当にその笑顔を守れて良かった」
俺は素直にそう告げる。
「ツネノリ様…」
メリシアは俺を見て微笑む。
「ご両親に怪我とかは?」
「大丈夫です。全部ツネノリ様のおかげです」
「あ…、いや…。父さんや千歳、他のプレイヤーも居てくれたからで…、全部俺って訳では…」
「はい。存じています。それでもツネノリ様のおかげだと私は思っています」
そう言って見つめてくるメリシアの目から目が逸らせなくなる。
「ツネノリ様」
「なに?」
「ツネノリ様は私の為に倒れてしまうまで限界を超えてくださったのですか?」
「…済まない」
「え?」
「村の人を守ると言っていたのに俺は君だけを優先してしまっていた」
そう、途中から俺の意識は全てメリシアに向いていた。
彼女を守る。
彼女を悲しませない。
その事だけで力を使っていた。
こんな一方的な気持ちは迷惑で気持ち悪いのではないか…
俺はそう不安になっていた。
…
……
沈黙。
この沈黙が余計に俺を不安にさせる。
そう思った時、メリシアが口を開いた。
「嬉しいです」
そして微笑んで俺の胸に顔を埋めてくる。
「メリ…シア…?」
俺は驚いて上ずった声で彼女の名を呼ぶ。
「ツネノリ様もこの前私を引き寄せて抱きしめてくださったじゃないですか?
私も同じです。
今はツネノリ様の胸に飛び込みたい…そんな気持ちだったんです」
俺は嬉しかった。
努力が結実した事、彼女が今ここにいてくれる事、俺のもとに来てくれた気持ち。
全てが嬉しかった。
俺は気持ちを伝えたい一心で彼女を抱きしめた。
「ツネノリ様…、私から抱きついておきながらこんな事を言うのも変ですが、ご飯が冷めてしまいます」
「冷めても美味いから気にならない」
「千歳様が起きたら驚かれます」
「千歳なら気を遣って寝たフリをしてくれる」
「ふふ、ツネノリ様はこのままがいいんですね?」
「ああ、このままがいい」
「私と一緒ですね」
俺たちはしばらく抱きしめ合った。
「ツネノリ様」
「なに?」
「ツネノリ様はこの気持ちがなんだかわかりましたか?」
「まだ良くわからない。メリシアは?」
「私もよくわかりません。これが好意なのか恋なのか…
それとも愛なのか」
愛!?
俺も愛という気持ちはなにも考えていなかった。
「ツネノリ様?」
「俺もだ、これが何なのかわからない。だが守りたい、笑顔を曇らせたくないと思った」
「ふふ、嬉しいです。
私の為に限界を超えてあの火の玉を切り崩した姿、私を頼ってくれて水と風で村を守ってくれた姿。
全部がとても格好良かったです」
変な言い草だが、報われた苦労と言うのはこんなにも嬉しいものなのか…
「ツネツギ様に聞きました。
戦闘中、私の身を案じて私の為に身体に眠る記憶を呼び覚まして力に変えてくださった事。
限界を超えたら倒れてしまうと知っていても限界以上の力を奮ってくれた事…
とても嬉しいです。
でも心配になります。
あまり無茶はしないでください」
「え…」
「無茶はしちゃ嫌です」
「無茶してメリシアを守れるのなら安いと思うのだが…」
「嫌です。
心配して待つ身にもなってください」
「困ったな…」
「ふふ、でも本当に嬉しい」
俺たちはまた力を入れて抱き合う。
しばらくしてメリシアが「ご飯の残りを食べてしまってください。朝になったら父に朝ご飯を作って貰いますから」と言うので俺達は体を離して食事に向かう。
向かうのだが…
「千歳…」
「千歳様…」
千歳はいつの間にかに起きて部屋を後にしていた…
これは困った。
どこから見られていたんだろう?




