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セカンド ガーデン  作者: さんまぐ
ツネノリの章⑤運命の出会い。
66/339

第66話 俺は可能性を見たいと思う東さんの気持ちは否定しません。

俺が目を開けるとそこは宿屋で俺達が泊まらせてもらう事になっている部屋だった。

部屋には千歳の姿はなくて俺1人が床に敷いた布団の中にいた。


身体が重い。

そしてまた痛い。


多分、動けたことで調子に乗ってしまったのだ、そして今はその反動にやられてしまっている。


千歳の事が気になったが身体が動かない。

あの状況からここにいる事を考えれば千歳は無事だろう。


俺は再び目を閉じる。疲労からかあっという間に眠れてしまった。

次に目が覚めたのは美味しそうな匂いがしたからだった。


目を開けるとテーブルの上におにぎりが2つと味噌汁があった。

そして俺の横にはメリシアが居る。


「起きられましたか?」

「すまない…、今は何時だろうか?」


「午後の2時です」

「千歳は?」


「千歳様でしたら神様に見守っていただきながら、また魔物退治に出かけられましたよ」

「そうか」

1人なら心配にもなるが、東さんが一緒なのは心強い。


「お身体は動きますか?」

「まだみたいだ」


「わかりました。メリシアはそう言うと俺の体を支えて布団の中に椅子を入れる。


「座椅子と言います。

これに寄りかかってください」

それくらいなら出来るのだが、まあとにかく痛い。


「お食事、父に言って作って貰いました。

あ、父が当旅館の料理長なんですよ。

ご馳走は夜にして、今はおにぎりとお味噌汁にしました。

千歳様に伺ったらツネノリ様はお米がお好きと教えてもらえましたので」

確かに父さんがたまに持ってきてくれる米はとても好きなのだが、千歳にその話したかな?


「では、口まで運びますから食べてください。

食べて寝ればきっと良くなりますよ!」

そう言ってメリシアがおにぎりを俺の口に運んでくれる。

おにぎりはとても美味しくて懐かしい味がした。


「どうですか?」

「とても美味しいよ。一つ聞いていいかな?俺の父さんもここのおにぎりを貰った事ないかな?」


俺の質問にメリシアが嬉しそうな顔をする。


「はい!前に勇者様も持って帰りたいと言ってくださってお弁当にさせていただきました!」


「そうか、それを父さんは俺と母さんに食べさせてくれたんだな。

懐かしい味がしたよ」


「そうだったんですね!美味しいと言って貰えたのも懐かしいと言って貰えたのも私嬉しいです!」

メリシアは本当に嬉しそうに喜ぶ。

そのままあっという間におにぎりを2個食べてしまった。


「ツネノリ様?まだ食べられますか?よろしければ持ってきますが」

「いいの?」

俺は素直に喜んでしまう。


「はい!すぐに取ってきますね!!」

そう言ってメリシアは走って部屋を後にする。


俺はしばらく待ったが、メリシアはなかなか戻ってこない。

この部屋から厨房は遠いのだろうか?

そんな事を思っているとメリシアが顔を暗くして戻ってくる。


「どうした?大丈夫か?」

「ツネノリ様…ごめんなさい」


そしてメリシアが皿に乗ったおにぎりを出してきた。

先程食べたおにぎりとは違って形は不揃いだ。


「お父さん…、残ったおにぎりをお昼に食べちゃって、今は休憩時間だから眠っちゃって…。

お父さん一度寝ると全然起きなくて…

だから私がおにぎり作ってみたんです。

形とか滅茶苦茶で…こんなのツネノリ様にお出しするなんて申し訳ないし、でも食べ足りないのに何も出せないのはもっと嫌で…

お部屋の前まで持ってきたけど急に恥ずかしくなって…」

そう言うとメリシアは泣き出してしまった。


なんと言うプロ意識なのだろう。

お客を満足させる為に真剣になってくれてあまつさえ泣くなんて…

俺の方が申し訳なくなってしまう。


だから朝、千歳は真剣に挨拶を返していたのか…

「メリシア…さん…。泣かないで…ください」


俺は急に照れて恥ずかしくなってしまってメリシアにさん付けをしてしまう。


「でも…、本当に…」

「メリシアさんが良ければそれを食べさせてくれ…ませんか?」


「え?ツネノリ様?

これを食べてくださるんですか?」


「いや…食べたいけど、嫌なら我慢…」

「嫌じゃないです!!」

そしてメリシアは嬉しそうに俺におにぎりを運んでくる。


味は濃いところと薄いところがあったが、とても美味しかった。


あっという間に追加の2個も食べてしまった。


「ツネノリ様…、どうでしたか?」

「とても美味しかったです」


「本当ですか?嬉しいけど無理してませんか?」

「無理だなんてそんな!最初に食べた物もとても美味しかったです。でも、メリシアさんが作ってくれた物は何というか…とても気持ちを感じられて美味しかったです!」



「ありがとうございます」

そう言ってメリシアは嬉しそうにする。


「あの、所でツネノリ様?」

「はい?」


「なんで急にさん付けで話し方まで変わられて…?」

「えっ!えぇぇぇっ…その…」


俺は照れながらメリシアのプロ意識に感動した事、感動のあまりつい話し方が変わってしまった事を伝える。


「ツネノリ様!ツネノリ様は勇者様のご子息なのですからそんな必要はありませんよ!」

「そ…そうかな?」


「はい!でも私の事を褒めてくださったのは嬉しかったです。

ありがとうございます。

後は普通の話し方になってくださいね」


「わかったよ。じゃあメリシアも俺に普通に話してくれないかな?」

「えっ?えぇぇぇっ!それは徐々に頑張ります」


メリシアは食事の終わった俺の腕を取ってマッサージを始める。


「メリシア?」

「神様から聞きました。

大軍を相手に戦った反動で動けなくなったと、それでマッサージをすると治りが早くなると言われました」


メリシアのマッサージはとても優しくて今朝千歳がやってくれたものとは違っていた。

千歳が治療だとするとメリシアのマッサージは癒しなのかもしれない。


つい心地よくなってうとうととしてしまう。

腕が終わった所で座椅子を取られてうつ伏せになるようにメリシアに言われた所で気がつく。


「メリシア?」

「はい?」


「凄く気持ちよくてありがたいのだが、君はここでの仕事をしないで平気なのか?」

俺は何を当たり前のようにマッサージをして貰っているんだ…疲労のせいかなにかがいつもと違う。


「大丈夫ですよ。ツネノリ様」

「え?」


「宿の仕事は他のスタッフや母に任せています。

私はツネノリ様のお世話をさせていただくことが今日の仕事なんです!

さっき神様から通達がありました。明後日の巨大な魔物が街を襲うイベントではこの街が狙われたと神様が言ってました。

そしてそれの為にツネノリ様と千歳様が来てくださったと言っておりました。

だからツネノリ様は私に任せて今日はお身体を癒してくださいね」

そう言ってメリシアは熱心に足から肩まで全身を揉み解してくれた。


1時間くらい、マッサージをして貰ったのかもしれない。

メリシアがゴソゴソと何かを取り出している。

それは母さんが2度目に持たせてくれた回復のアーティファクトだった。

「メリシア!それ!!」

「あ、千歳様が最後にこれで5分ほど癒すと効果があると教えてくださったんですよ」


いや、それは千歳や俺の話でセカンドガーデンの人間はアーティファクトを使えないはずだ。

東さんがセカンドを作った時に使えないようにしたと言っていた。

現に佐藤もアーティファクトと教えても聞き取れずに居た。


もしかしたらセカンドの人間が使おうとすると何か良くない事が起きるかもしれない。俺はその事が気になってメリシアを止めようとする。


だが、俺が止めるよりも早くメリシアは指輪を装備していた。


「えっと、【アーティファクト】?」

メリシアの手から緑色の優しい光が放たれる。


…なん…で?

何でメリシアは使える?

その光は確かに朝千歳が放ってくれたものと同じで俺の身体が癒されていくのがわかる。


「メリシア?」

「はい?なんですかツネノリ様?」


「君の身体は何ともないのか?痛いとか疲れるとか…」

「はい…特には何も…何かあるものなのですか?」


どうなっている?

そう思っていると部屋の隅に東さんがいた。


「東さん?」

「ああ、ツネノリ…。調子は何とか良くなりそうでよかったよ」


「え?神様!?」

そう言ってメリシアは東さんの方を向きなおして深々と挨拶をする。


「メリシアだったね。済まないが僕とツネノリにお茶を貰えるかな?」

「お茶でございますか?今はまだお湯を沸かしてなくて…」


「構わないよ、厨房に行って淹れてきてくれないかな?」

わざわざこの部屋で出来る事を外でやらせようとしている。

東さんはメリシアの居ない所で話がしたいんだろう。

メリシアは「ただ今!!」と言うと小走りで部屋を後にする。


「東さん…」

「ああ、ツネノリ。君の思った通りの事だ。

本来セカンドの人間、ゼロガーデンの外にいる人間にはアーティファクトと唱えると説明しても届かないようになっている。

出がけに千歳が指輪を渡していたが、彼女にはどうする事も出来ないと思って僕はそれを放置していた。別に装備しようが構えようが何ともならない。それがセカンドの人間とアーティファクトの関係だったから」


「でもメリシアは…彼女はアーティファクトと唱えることが出来た。そして回復の力を引き出せた」


「そうだ、それが問題だ…」

「魔女…」


「恐らく、恐らく彼女が計画している何かの一環だと思う。

その影響でセカンドの人間がアーティファクトを使えるようになってしまっている。

僕は今困惑と怒りに支配されている。

僕の子供達であるガーデンの人間に勝手な事をした彼女への怒り。

力を知ってしまった者の事への困惑。

一度知ってしまった力を奪い取るべきなのか受け入れるべきなのか…、それとも全く違う何かをするべきなのか…」


「東さん…、俺は可能性を見たいと思う東さんの気持ちは否定しません。

ただ、仮にメリシアが破壊の力を得て人を傷つければ彼女の両親は傷つきます」

「そうだね」


「だから僕はイベント中のみにして後はひとまず取り上げるべきだと思います」


「ありがとうツネノリ。この話はここまでだ。彼女が戻ってきた」



「お待たせしました!!」

そう言ってメリシアが戻ってきた。


「美味しいお茶だね」

そう言って東さんがお茶を美味しそうに飲むとメリシアはそれだけで喜ぶ。


「あ、東さん」

「なんだい?」


「千歳はどうしてます?」

「霜降り狼をこれでもかって倒しているよ。昨日も思ったけど彼女はなかなか独創的な戦い方をするね。その感性がいい具合に働いてくれれば次のイベントもいい結果になると思うよ。

ツネノリも起きたことだし、休養日と言う事にしてあまり遅くならないうちに帰るように促しておくよ」


「はい」


「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。メリシア、お茶ごちそうさまでした。

これ、イベント中のみだけど君にあげるよ。

これは「保養の指輪」、今君が使っている指輪は怪我に効く指輪で、こっちは疲労回復に使う指輪なんだ。

もしよかったらツネノリに使ってあげると良い」


「ありがとうございます!!」

メリシアは頭を下げて感謝している。


「東さん!?2つ持ち?」


「…いや、恐らく限定解除されている。セカンド全体が特例処置の状態になっているんだ…。僕は戻ったら以降の事を考える事にするよ」


そう言って東さんは帰って行った。


「ツネノリ様!!こっちの指輪も使ってみますね!!」

メリシアはそう言うと「保養の指輪」で俺の疲労を治していく。

それは非常にありがたいのだがセカンドの人間がアーティファクトを使っている事が素直に喜べなかった。

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