第53話 ここまでするの?何でするの?
光が晴れると私は初めての場所に居た。
目の前には父さんとツネノリが居る。
「千歳!無事か?」
「うん。今までジョマと話をしていたの」
「ジョマ?北海か…」
そして話の内容を父さんとツネノリに説明をする。
「まだ200人も居るのか…」
「とてもこのペースだと守り切れないぞ…」
2人もそう言っていると目の前にジョマが現れた。
「はぁい、お元気?副部長も朝からお疲れ様です」
「北海…、何でここに?それよりもここは何処だ?」
「えー、何でここにってねぇ、千歳様には言ったわよね」
「え?ショック療法といっぺんに200人を守れるようにしてくれるって言う話?」
「そう、それに東のやり方ってまどろっこしくて嫌なのよね。あ、ここがどこかだけは答えましょうか?ここはねわざわざ200人を守るために用意した場所トセト。マップで言う所だとボウヌイの北に作っちゃった」
「勝手にマップを作ったのか!?」
「ああん、不評だったらちゃんと消します~」
ツネノリがいつの間にか私の前に立っていて守ってくれている。
「お兄様は本当優しいわね。
でもその優しさが千歳様をダメにしてしまうかもしれないって思った方がいいわよ」
「それは家族の問題だ」
「そうね副部長。失礼しました」
「それで、何でここに出てきた?」
「だから、200人を守らせてあげる。
今から1時間…食事も用意するからゆっくり休んで」
「何?」
「1時間したらね…、これを見て」
そう言ってジョマは手に映像を出す。
大きな石造りの橋がかかっていて真ん中に結構な大きさの小島がある。
小島の大きさは学校の体育館くらいに見える。
そしてその先にも同じ大きさの石造りの橋がある。
「見た?これがトセトの橋。この先5分の所にあるわ。
私が消えて1時間15分したらここの真ん中にある小島に守るべき200人を転送させるわ。
200人には時のアーティファクト…副部長とツネノリ様はわかるわよね、時の力で意識はあるけど身動きは取れなくしておくから。
それでね、橋の両方からこの子達を狙うプレイヤー…800人くらい居たわね。
その連中を順次投入していくわ」
…え?それって…。
「倒した奴から東の作ったマキアの牢獄に送ってあげる。最後まで守り切れれば完全勝利。駄目だと…まあ、あなた達なら負ける事も死ぬ事もないけど、突破されると200人は死んでしまってみんなポイントにされてしまうわね」
「ふざけるな!!」
父さんが怒っている。その表情はとても怖い。
「あら心外、ふざけてなんていないわ。最も効率的でハイ&ローじゃない。
あの東のやり方だと私の計算だけど…時間までに助けられて120人よ?
これなら3人が頑張れば200人全員が助かるのよ?」
そうじゃない。
ジョマは私達が失敗すれば私達もただでは済まないし、200人の人達が一斉に殺される状況を作ってしまったんだ。
「ああ、一応伝えておくと、東には何もさせないから。今も歯ぎしりしながらこっちを睨みつけているわ。後は大サービス。この場所には魔物が近寄らないように設定してあるから余計な邪魔は入らないわ」
余計な邪魔は私達にじゃない、襲撃者達にだ…
「じゃあ、お昼ご飯はここに置いていくわね。毒なんて入れていないから安心して。
好きに食べたらそのままにしておいて、後で私が片付けておくわね」
そう言うとジョマは消えた。
今から1時間15分後…、とりあえず食事を食べて休憩をして襲撃に備えよう。
お昼ご飯はお弁当とハンバーガー、それとお茶だった。
ツネノリは米が結構好きらしく率先してお弁当を食べていた。私はハンバーガーにした。
袋の中には10個も色んな種類のハンバーガーが入っていた。どれも馴染みのある味で美味しかった。
「こういうのもお父さんがレシピを貰ってくるの?」
「ああ、それをセカンドのスタッフに渡して作れるようになって貰うんだ。
そしてプレイヤーは魔物を倒した報酬でご飯を食べたり宿に泊まったりするとその使ったお金がスタッフの収入にもなる。そしてスタッフはプレイヤーの見ていない裏側で家族との生活を営んでいく」
「うまく出来ているね」
「そうだろ?」
一通り食べた私は思い出したように父さんに見て欲しいものがあると言って、光の剣と盾を出す。
「マジか…」
「うん、東さんに褒められた。「勇者の腕輪」は光の流量で作れるものが決まるんだって。だから剣でなくてもいいんだって」
「そうか、それで千歳は拳なのか…。凄いな…良く気付いたな」
「えへへ、なんか使ってて気持ち悪くてさ~」
お父さんがびっくりしてくれてちょっと気分がよくなった。
だがそんな時間は長くは続かない。
1時間が経ってしまった。
私達はトセトの橋を越えて小島に到着した。
橋は普通に歩くだけなら4人~6人くらいが歩ける幅で、武器を構えると3人が良い所だと思う。
島の中心が光ると本当に200人のプレイヤーが現れた。
その中には佐藤や昨日まで一緒に居たトビーにイクも居た。
「伊加利さん、この状況って…改革派ですか?」
「うん」
佐藤にはジョマの行動を全て改革派と言う事にしている。
父さんが全員にも改革派と保守派のいざこざの話をすると納得してくれた。
あっさりと納得すると言う事はそれだけこのガーデンの今が狂っているんだと思う。
そしてこの状況の話になる。
「今、ここに居る約200人の方たちはこのイベント中に1度も殺人を犯さなかったプレイヤーになります。
私達は本来、保守派として皆さんを守るために奔走をしていました。
そこを改革派に付け入られてしまいました。
今、セカンドガーデン中の保護対象だった皆さんはここに一斉に集められました。
これから橋の両端からあなた達を狙っていた800人のプレイヤーが大挙してきます」
…絶望の悲鳴が起きる。
「私達がそれらからあなた達を守ります。全てが終わればあなた達はセンターシティでポイント調整の終了まで保護をされます」
そう説明をすると「本当に大丈夫なのか」「怖い」と言った声が上がる。
「怖ければログアウトをしていてください。あなた達の身体は私達が守ります」
そうして父さんが少ない時間で200人を説得する。
「アハハハ、説得お疲れ様。運営のジョマです。
そこのベテランプレイヤーさん風に言うと改革派です。
私がセカンドを支配したら、こうやって今までなかった色んなイベントで皆さんを盛り上げたいと思いまーす」
ジョマが喋ると大ブーイングが巻き起こる。
しかしジョマはへこたれない。
「私からのヒントがあるので聞いてね。
最初はそっち、北側の橋から50人を投入するわ。その5分後に南側から50人。
そうやって交互に投入して、残り100人になったら一斉投入するから頑張ってね」
…なんて絶望的な数だろう。
私は恐ろしくなってしまった。
「伊加利さん…」
私を呼ぶ声、これは佐藤だ。
私は佐藤の方を向く。
「伊加利さん、もしかしないでも昨日のショックから抜け出せていないんじゃないですか?」
「え…うん。今日も守ることは出来たけど、戦おうとすると昨日の光景がよみがえってきて震えるの」
「トビーさんともイクさんとも話をしていましたが、VR枠で残酷なものを見させられたらそうなるのも仕方ありません」
そういう佐藤にトビーとイクも頷いてくれる。
「佐藤、トビー、イク…」
「伊加利さん、逃げてください。もし仮に僕たちが殺されても僕達はログアウトします。多分ここに集められた人たちの大半が伊加利さんを恨むことはしません」
「佐藤…」
「アハハハ、あー、ごっめーん。言い忘れちゃった。
このイベント中だけ200人の保護対象さんもログアウト不能にしたから、タイムアウトも存在しないからこの状況を楽しんでね」
…え?
「伊加利さん!大丈夫です。僕達は端末ユーザーです。嫌になれば上に枕でも被せてお風呂でも入ってきますよ!!」
「残念!誰とは言わないけどこの中にはVR枠の人が6人居るから~、アハハ。
その人たちはログアウト出来ないから、その人達の為にも頑張ってねー」
ジョマ…そこまでするの?
「あー、悲鳴とかアリかと思ったんだけど、VRユーザーが自己申告しちゃうとアレね。
発声禁止にしちゃうわ」
そうするとさっきまでざわついていた200人が急に静かになった。
「ジョマ、ここまでするの?何でするの?」
私は佐藤達を見る。
佐藤は涙目で首を横に振る。
多分、端末の向こうで佐藤は「気にしないで逃げて」と言っているのだろう。
その声をセカンドのシステムが拾ってこの顔、この動作にしていると思う。
…私がみんなを守らないと。
ツネノリと父さんと守らないと。
佐藤が、トビーが、イクが殺される。
ログアウト不能にされたVRプレイヤーも殺される。
VRプレイヤーはやはりグロテスクさが嫌で殺人が出来なかったんだろう。
私と同じ感性の人が少しでも居てくれて嬉しかった。
でも怖い。
人を殺してしまう事が怖い。
あの苦悶の表情が怖い。
そう思うと身体が震えてしまう。
「千歳、無理はしないでいい。お前はこの人たちを守りなさい」
父さんが肩に手を置いてそう言ってくれる。
「父さんが徹底的に戦う。
ツネノリには島に侵入したプレイヤーを倒すように言ってある。
お前はこの人たちを守るんだ」
「無理だよ!!」
「無理とかではない。父さん達がこの人たちを守るんだ。
父さんは北側の橋で待ち受ける。
皆も大事だがお前も大事だ。
無理はするな。怪我には気を付けてくれ。」
そう言って父さんは北の橋に向かって行った。
「千歳」
ツネノリが神妙な顔で私の所に来た。




