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セカンド ガーデン  作者: さんまぐ
伊加利千歳の章③殺人と正当防衛と復讐。
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第47話 私…、人を…殺しちゃったよ…。

しばらく行くと山頂付近で光るものが見えた。

後は男たちの笑い声。


近づくと、光は佐藤の光の盾で、それに向かって4人の男が大砲を撃っている。


「や…やめてください!もう魔物は狼の魔物は倒せましたよ!!」

「ほら、怪我したんだろ?一回死んじゃえって、それで蘇ればいいじゃないか」

「そうそう、そうしたら俺達にもポイントが入って皆ハッピーだろ?ゲラゲラゲラ」

「あの光の盾ってなかなか厄介だね。4人で砲弾を撃ち込んでもまだ生きているよ」

「砲弾は自動生成できるけどやはり勿体ない気がするよなー」


「ほらー、勿体ないんだぞー、早く死ねー」

「あははは、ひでぇ」


「佐藤!!」

私は我慢できずに駆け寄って男どもの前に立つ。


「何やってんのよ!やめなさいよ!!」

「何だお前!」

「あ、コイツ見たことあるぜ、この男と一緒の初心者、ホルタウロスと戦ってたよ」


「へぇ、お仲間って事だ、で何邪魔してんだよ?」


「人間が人間を殺すなんて何やってんのよ!魔物と戦いなさいよ!!」

私は思いの丈をぶつける。


「バカじゃんこの女。効率って言葉を知ってるか?

そこの佐藤はなぁ、さっきも戦闘中に流れ弾(笑)で死んじゃったんだよ。

そしたら俺達4人に300ポイントが入ってきたんだぜ?普段のホルタウロスなら100匹分のポイントだよ。ちまちまと魔物なんて倒していられるかって言うの」

「なあ、馬鹿じゃん。わはははは」

そう言って男どもは佐藤に砲撃を浴びせながら大笑いをしている。


「おかしいじゃない!」

「あ?何がだよ」


「だって、セカンドガーデンって魔物との戦いを楽しみたいって声から産まれたんでしょ?じゃあ何で魔物と戦わないのよ!!それにランクってなんなの?何になるの?」

「…ああ、お前ランクとか意味わかってないのか、だからそんなお花畑みたいなことを言ってんのか!

ランクはなぁ、信用だよ信用。仮にランク1の奴がランク9の魔物と戦いたいって言ったら誰も助けてくれねぇよ、それこそ余程のお人好しが付き合ってくるだけだ。

だがこちらのランクが高ければなぁ、相手もこちらを信用して一緒に戦ってくれるんだよ」


「何それ?別にいいじゃない、ランクが低いなら低い魔物だけ相手にしていればいいのよ!」


「ちっ、わかんねぇ女だな。俺は人よりなんでも上に行ってちやほやされたいんだよ、他の奴らに上からガタガタ言われたくないんだよ!」

そう言ってリーダー格の男が怒鳴り散らす。


全く意味が分からない。

何で分不相応の事をしようとするの?


「だめっすよ、確かこの女は役者とかで、そういう役回りで喋るだけだから、仮に理解していたとしてもセカンドガーデンの中じゃ何を言っても綺麗事しか言わないですよ!!」

横に居た仲間がそう言ってリーダー格を説得する。

別に私は役者じゃない。

いい加減にして欲しい。


「そうなのかよ?じゃあもういいや。お前は死ね!!」

至近距離でこちらに向く大砲の砲塔。


手持ちサイズの大砲なんてものが現実にあるのかはわからない。だがこのサイズで銃口がこちらを向いていると言うのは気分が悪い。


「お前、あの佐藤よりはランクがありそうだからお前のポイントもありがたく貰っておくぜ?悔しかったらお前も佐藤でも誰でも殺して回って高ランクを目指すんだな!!」


この男はどれだけランクに拘るの?


「死ぃね……」

男は最後まで言葉を言えなかった。

いつの間にかに後ろに回っていたツネノリが光の剣で男の胸を突いていた。


「離れるぞ千歳!」

「うん」

私はツネノリについて行く。

後ろからは「大丈夫っすか!?」「し…死んでる!?」とか聞こえてくる。



「【アーティファクト】!!」

突然振り返ったツネノリが残りの3人に向けて威嚇射撃をする。


「外した」

「え?」


「アーティファクト砲は練習中で距離があると当たらないんだ!」

「えぇぇぇっ?」


私達は佐藤に駆け寄る。


「佐藤!!」

「伊加利さん!!ありがとうございます」


「千歳!光の盾で身を守ろう!!」

「わかった」

「「【アーティファクト】!」」

ツネノリの声に合わせて私は光の盾を出す。


「伊加利さん?今なんて言ったんですか?何で伊加利さんと彼氏さんの盾はそんなに立派なんですか?」


「え?剣も盾もアーティファクトって言いながら出せば強力になるのよ」

「え?なんて言ったんですか?ヘッドホンをしていても伊加利さんの声がその部分だけ聞き取れないし、テキストで文字のログを追っても「※▽□×〇※▽□×〇」って表示されますよ!」

何だそれ?ジョマは何がしたいんだろう?

わからない。

わからないが説明が面倒くさい。


「多分、後で開示される情報何だと思う!!」

「ああ、そういう事ですねわかりました!!」


「佐藤も盾を張るんだ!!」

「はい」


そして私とツネノリ、佐藤の3人で盾を張って3人からの砲撃を何とかやり過ごしている。

だが、このままでは手詰まりだし、15分もするとリーダー格の男が蘇ってきてしまう。


「どこかで攻撃しないと」

「ああ、さもなくば魔物が来て奴らの注意がそれないと…」


その後も5分くらい盾を張って耐え続けた。

本格的にまずい気がしてきた。


「伊加利さん、僕が伊加利さん達を守るよ」

佐藤が突然の提案をしてきた。


「僕が前に出て全ての砲弾を受け止めるからその間に2人が前に出て3人を倒して。伊加利さんも彼氏さんも死ねない設定だったよね。だったら僕は死ねるし薬も持っているから大丈夫!!」


「そんな、駄目だよ佐藤!!」

「いや、千歳…佐藤に頼もう。頼めるか佐藤?」


「ああ、大丈夫。それにしても伊加利さん、名前も僕の知っている伊加利さんと一緒だ!守り甲斐があるね!」


佐藤、その伊加利が私だよと言いたかったが、トラブルになるのは困るので言うのは止めておくことにする。


「行くよ!!」

そう言って佐藤が前に出る。

狙い通り砲撃が全て佐藤に集中する。

佐藤はとても辛そうにしている。


「行くぞ千歳!!」

「うん!!」



そしてツネノリが右で私が左から攻め込む。


「【アーティファクト】!!」

私は今までよりももっと確実な強さが欲しいと願いながら…この状況への怒りを力に変えるイメージで拳を精製した。


私の拳はリーダー格の横に居た男にクリーンヒットした。

ツネノリの剣は残り2人の男をあっという間に切り伏せていた。


「勝った、何とかなった…、やったよツネノリ」

そう喜んだのだが、私が殴っていた男が突然もがき苦しみだした。


何?

「…死ぬんだろう」

「え?」


「人は強くもあれば脆くもある。多分どこかの内蔵か心臓、さもなくば頭に深刻なダメージを負ったんだ」

「うそ…やだ…」


「気にする事は無い、ここで千歳が倒さなければ死んでいたのは俺達だ」


そうだけどそういう事じゃない、私はこの拳でガーデンの中…相手は確かに意識だけで向こうの世界では死なない、存在だが私は人を殺してしまった。


「離れろ千歳」

そう言って4人の身体を1か所に集めたツネノリが「【アーティファクト】!」と唱えてアーティファクト砲で更に破壊をしていた。


「つ…ツネノリ…」

私は全身震えていた。

殺した事、自分の力、この状況、どれを取っても怖くて仕方ない。


「私…、人を…殺しちゃったよ…」

そう言って私は泣く。

泣きながら力が抜けて座り込んでしまう。


「大丈夫だ、トドメを刺したのは俺だ、千歳じゃない」

ああ、その為のアーティファクト砲だったんだ…ツネノリは本当に優しい。


「伊加利さん、大丈夫?助かったよありがとう…」と言って佐藤が近寄ってくる。

確かに佐藤も私達も助かった、それでいいんだと言う自分が確かにいる。

だが、私は人を殺してしまった。


「千歳、とりあえずここを離れよう。佐藤を連れて街に帰るんだ」

そう言ってツネノリが私の手を取ってくれる。


下山をしようと言ってツネノリが私を起こそうとした時、下の方から「ありがとう」と言う声が聞こえてきた。

私の視線の先には、さっき会ったお姉さんの1人が居た。

「場所、わかったね。OK、待っているよ」と言うと私の方に来て。「怪我は無い?」と聞いてくれた。


「はい」

「よかった。助けようと思っていたら何とか勝てたみたいだから安心したんだけど、君が急に座りこんじゃったから心配したんだよね」


「ありがとうございます。

無我夢中で戦ったら相手が死んじゃって…」


私は思ったままを言う。


「優しいんだね。大丈夫、ここはガーデンなんだから痛みはないし、あいつらも15分もすれば復活するよ。それにあいつらだろ?人の事を一晩中殺し続けてくれた連中は?」


「…多分」


「で、どうするんだい?街に帰る?」


「はい、今日はもう…」

私を遮ってツネノリがそう言ってくれる。


「そっか、じゃあ私達はちょっと野暮用があるんだ。気をつけて帰ってよね」

お姉さんがそう言うと下からぞろぞろとプレイヤーが上ってくる。

みんなどこかで見覚えがある顔だ。


「あ、気づいた?私達と一緒に一晩中殺されてたメンバーだよ。さっき街で声をかけたり外の世界でSNSに書き込みをしたんだよね。

君達ってVR組だろ?VR組はさログアウトしないと外の世界で何もできないけど、こっちはこの状態でも仲間と連絡が取れるからさ。だから集めておいたんだ」


「え?」

…集めた?何の為に?

聞くまでもない…

仕返しだ…。


「やめて!もうそいつらは死んだんだよ!!」

「私はそれじゃあ気が済まないんだ。ごめんね」


そう言って女の人は4人の死体に向かって歩いていく。

ツネノリが最初に殺したリーダー格はもう蘇って、周りを見て異常な状態に気が付いて驚いている。


「お…お前ら…」

「よう、昨日はどうも」


「や…やめろよ、今俺達だってアイツらに殺された状態だ、今殺してもポイントも何も手に入らないぞ?」

「ポイント?いらないさそんなもん。たまに魔物が出てきたら殺してもらうけど、それよりも一晩中殺された恨みを晴らしたくてしょうがないんだよ。私たちは」


「やめ…やめてくれ!!」

「なあ、それでやめた奴って居る?私は知らないよ」


「…へへ…、そうだログアウトだ…ログアウトしてこの場から逃げてやる」

「すれば?全員でログアウト後のあんたの抜け殻を代わる代わる殺し続ける。

ここに居るのはアンタに殺された全員じゃないんだ。

みんなで交代しながら殺そうって話になっているから全員の気が晴れるまでログアウト後の身体でも殺し続けてやる」


リーダー格の男は引きつった顔をしている。

「お前ら狂ってる」

「最初にやったのはアンタだろ?」


女の人は私達に向けた優しい面影は何処にもなく、とても怖い顔をしていた。


「やめて!やめさせて!!ツネノリ!!佐藤!!」

私は必死になってツネノリと佐藤に言う。


だが、ツネノリは何も言わずに私を抱きかかえると下山を始める。

その後ろを佐藤が付いてきている。


遠くで男たちの悲鳴が響く。

きっとプレイヤーでもダメージを負えば悲鳴が出るようになっているんだろう。

今はそんな事はどうでもいい、人間が人間を攻撃して悲鳴が上がっているんだ。


「ツネノリ!!」

「千歳、目を瞑れ、耳を塞げ…」

ツネノリがとてもつらそうな顔と声でそう言った。


目を瞑ると殺してしまった男の顔が目に浮かんで怖くなったが、抱きかかえてくれているツネノリの温かさで気づいたら寝てしまっていた。

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