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セカンド ガーデン  作者: さんまぐ
伊加利 常継の章③親の苦労。
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第38話 サードガーデン?

東は必死になって社長に進言をしている。

自身の考えていた世界観はそんな殺伐としたものではないと語る口は熱がこもっている。


「うん、東くんの言いたいこともわかるよ。だからウチとしても君の意見を尊重して前回はファーストガーデンを残す形でセカンドガーデンを開設した。

VR化に関しても君の希望と要望を取り入れて、今後はファーストでもVR化をしようとしている。

今回もとりあえずテストで実装するかどうかはイベント後のアンケートやSNSに上がるリアルな声を元に柔軟に対応をしていくよ」


社長はキチンと東の意見を汲んでギリギリのところでやっている。

それには評価しかない。


「だが、東くんが望んでいない事も重々承知している。

そこで、東くんに一つ提案がある。

まあ、私の提案では無くて、ここにいる北海くんだ」


魔女の?

その事で俺と東に緊張が走る。


「北海さんですか?」

「ああ、彼女はこれ以上東くんのセカンドをアレコレ汚すのは心苦しいと言ってくれていてね」

白々しい…


「はい、私は今回セカンドガーデンのイベントに関わらせていただいて、世界の綺麗さや素晴らしさを目の当たりにして部長の目指す世界観とユーザーの声が真逆であると思いました。

今後もアンケートやSNSで挙がる声を反映させていくと、それは東部長の目指す世界とは違ったものになっていくと思います…」


「そこから先は私が言おう。東くん…サードガーデンを造ってくれ」

「サードガーデン?」

俺が驚いて言ってしまった。


「ああ、北海くんは東くんのように綺麗な世界を創造する事は出来ないと言っていたが、東くんが世界を作ってくれればそれをユーザーが望む刺激的な世界に演出する事は可能だと言ってくれたんだ」

「勿論、私としては東部長とご一緒にサードを造れたらと思っておりますが、ユーザーの目指すものが部長の意に反するモノだった時には私は自分の力でサードを成功させてみせようと思っています。

その為に基礎部分をご用意いただいて、私が後を任せていただく形が最良かと思います」


「と、ここまで北海くんが提案してくれていてね。どうだろう東くん?」

「…サードでは何をなさるおつもりですか?」

東がこれ以上ないほどに怒りを抑えて話しているのが俺にはわかる。


「うん、ユーザーが求めている声はよりリアルでより過激な戦闘だ。

東くんはその部分を強く否定していたよね」

「社長、その先は私が…」

そう言って北海が語ったのは東からすれば悪夢のような世界だった。


魔物が全力で人を襲ってくる世界。容赦なく初見でも殺しにかかってくる世界。

人同士の戦闘も可能な世界。

街もそこに住むスタッフも被害を受ける世界。

過激な表現でVR化の際にセカンドでは何が何でも東が実装を許さなかった暴力行為の解禁。

戦闘領域以外での戦闘行為。


そう言ったものを既存のセカンドのシステムに乗せて完全に18歳未満禁止にすると言っていたが、コイツの事だ抜け道を用意して子供にも選ばせると言うだろう。


東から表情は無くなっていた。

「それの手伝いを僕にしろと?」

「心苦しいとは思うが、これも社の為。君のセカンドとファーストを守る為だ」

社長は本当によく考えてくれていると思う。

弱小メーカーだったこの会社をトップに登り詰める一因を生んだ東をちゃんと評価して感謝をしている事の表れだと思う。

東もその事はわかっている。わかっているからこそ厳しいのだと思う。


「一ついいでしょうか?」

北海が割り込んできた。

「東部長がご用意してくださらないとなると、私には部長程のスキルは御座いませんので、既存のファーストかセカンドをコピーさせていただいて、改修していくといった形しか取れません」

悪魔の提案だ。

それはすなわち今ガーデンで生きている人間全てをコピーして本人達の気付かない所で住んでいる土地を地獄に変える事だ。

例え通知をしても、なぜ自分たちの世界が地獄にならなければいけないのかと人々は苦しむだろう。

苦しんで魔物やプレイヤーに殺される。

更に酷いのはスタッフ同士の殺し合いに発展する可能性がある。


北海の顔は醜く歪んで笑っていた。

東の困る顔が見られて、東の世界を正々堂々と蹂躙できる大義名分を得て幸せなのだろう。


「東部長には俺からも説得をしておきます。社長、この件のお返事はいつまでにすれば良いですか?」

俺は会話に割り込んでこの場をとにかく収めようとする。


「出来ればイベントの最終日に告知をしたいよね。

東くんの言う通り、セカンドやファーストの世界観が好きなユーザーを失うのは私としても望んではいない。

ただ、一定数いる東くんが言う所の「危険な思想のユーザー」をサードに誘導をしたいんだ。

もし、東くんがこの案を飲んでくれれば私はセカンドのヴァージョンアップをVR化のみに抑えて全ての要望を「社内で検討をしたところサードを用意することにした。セカンドは現状維持で行きます」とアナウンスもしたい」


イベント最終日、時間にしたらこちらで約6日か…

「わかりました。後は開発部で話し合います。北海さんも今日はここまでで良いですよね?」

「はい、伊加利副部長ならそう言ってくれると思ってました。きっと最適解をご提示いただけると思っています。前向きなご回答楽しみにお待ちしております」


そのやり取りで会議は終わった。

俺は怒りで放心状態の東を連れて会議室を後にする。

開発室に戻る途中で東は爆発した。


「常継…僕はどうすればいい?破滅が決まっている世界をあの女の為に造るしかないのか?」

「東…」


「世界はまだいい、魔物もまだいい。かりそめの命を与えればいいのだから、だがスタッフはどうする?地獄だとわかっている世界に人間を産み落とすのか?

人間の凶暴性、残虐性は抑えられない。

確実に立場の弱いものは遊び殺される。

女性なんて殺されるだけではない、何をされるかわからない。

僕はセカンドのVR化で実装を絶対に許さなかった性的な行為すらあの女は実装する」


そうだろう。

多分それが狙いなのだ。

ゼロガーデンで禁忌のアーティファクトをばら撒いたように、今度は日本でサードガーデンをばら撒く。

それは危険性をキチンと伝えて「自己責任」と言う言葉で全てを誤魔化して…


「東、その事について俺から提案がある。開発室に戻ろう。開発室であの女に聞かれないようにしてくれ。そこで説明をする」

「常継…、ああわかった。僕も神との話を君に伝える」

そうして冷静さを取り戻した東と俺は開発室に戻る。

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