第115話 私がツネノリ様の赤メノウになりたくて。
賑やかな声がする。
「そろそろ終わったかの?」
「ねぇ…この水の問題点って終わっても自力で目覚めない事だよ。寝心地良いんだよね」
「外からなら透明になるからわかるのだがな」
「まあ一人で入る事も無いからいいのかな?」
そんな声が聞こえて来る。
浴槽の水は透明な黄色になっていて天井が見える。
「お、目が開いておる」
「おはようメリシア!起きられる?」
「はい」
「マリオン、引き揚げてやってくれ」
「うん」
そう言うとマリオンさんが浴槽に入ってきて私を起こす。
「おはよう!」
「はい、おはようございます」
「メリシア、変なところはあるか?」
「いえ、特には」
「よし!無事に成功したな。
おめでとう、人に戻れたぞ?
ああ、胸につけたアーティファクトは返してくれ」
ツネノリ様のお母様に言われた通り私はアーティファクトを返す。
「済まない、着替えながらでいい。
少し質問に答えてくれ?」
「はい」
「視力や聴力に違和感は?」
「ありません」
「元々の視力は?」
「普通でした」
「生前の細かい傷などは?」
「足にあった大きな傷はありますが、小さなものは消えています」
「後は何かあればすぐに言ってくれ」
「はい。あ…」
「どうした?」
「あれ?服が小さい?」
「あーあ…、メリシアもだ」
「うむ。マリオン程ではないがスタイルが変化しておるのだな。
恐らく身長も若干伸びているな」
「え…?父が嫌がるから気をつけたのに…」
「なに?じゃあ何故だ?」
「ルル」
「神様…」
お母様が脱衣所に入られた神様に気付く。
「恐らくマリオンの影響だね」
「私?なんで?」
「マリオンが渡した「経験の証」に合わせて身体が必要最低限マリオンに近づけたんだと思うよ」
「そうか、マリオンの経験が入っているだけで細かな調整をしないと、身体の使い方の問題でマリオンに近づけるのか…。
マリオンー…」
お母様が恨めしげにマリオンさんを睨む。
「えぇー…、メリシアごめん」
「いえ、気になさらないでください。
私もそもそも背は伸ばしたかったですし、背が低いと宿の仕事で高い場所を掃除するのも大変で…」
「そう!?ならいいよね!」
「こら!もう少し申し訳ないと思え!」
「はいはいはい、話し中アレだけど神様がそこにいるってことは着替え終わっているんでしょ?って…あらら、随分と過激な恰好だね」
「ジチ、マリオンの奴がな…」
「あー!私だけ悪くするの?」
「ふふふ、嬉しいです。私、生きています」
私は目の前の楽しそうな会話に嬉しくなって泣く。
「あらら、泣かないでいいんだよメリシア、さあお姉さんがご飯作ったから食べようよ?みんな待っているよ」
「はい!」
ご飯はとても美味しかった。
ジチさんはコックなのかと思ったがお妃様だった。
「お姉さんは料理上手でお妃様になれたのよ」なんて言って笑わせてくれた。
「メリシア?味はどうだ?好みとか感じ方とかに変化はないか?」
「お母様、ありがとうございます。問題ありません」
「ねぇ?メリシア」
「はい?」
「いつまでルルをお母様って呼ぶの?」
「マリオン!良いのだ!邪魔をするな!」
「あ、ルルってば気に入っているんだ!」
「止めろ!」
「あはははは!」
「そうですね、ツネノリ様はツネノリ様ですし、ツネツギ様はツネツギ様か勇者様でお呼びしていました。
でも今更ルル様と呼ぶのも恐れ多くて…」
「恐れ?無いない、なくて良いよー」
「マリオン!!」
とても楽しそうにお母様も笑っている。
「あ、でもさぁ、ルルは4人いるから呼び方は考えてあげた方がいいよ。
みんな一緒だとルルがヤキモチ妬くし、わかりにくいしさ」
「ジチ!お前まで何を言う?」
「そうだね、ルノレー、出てきちゃいなよ!」
「何!?マリオン何を…待てルノレ!!」
そう言うとお母様の左腕が動いて胸に付いた三角形を捻る。
頂点が変わるとお母様の身体が一瞬光って赤くなる。
「ふふふ、マリオン呼んでくれてありがとー、メリシアちゃん、私はルノレって言うの宜しくね!ツネノリはルノレ母さんって呼んでくれてるよ!」
…お母様が赤くなって話し方が変わって…ルノレお母様?
「あ、混乱してる」
「ダメだったかー…」
「メリシアちゃん?」
「はい?」
「私がルルちゃん…私じゃないのはわかる?」
「…話し方とか色が違います」
「それで十分だよ。赤いのが私、ルノレだからね?覚えておいてね!!また会おうね!次!」
そう言ったルノレお母様がまた三角形を捻ると身体が光って今度は青くなった。
「大丈夫?理解出来ている?急に見せられても困るよね?」
「は……はい」
「私はノレル。青い色の人とかそう言う覚え方でいいからね。
メリシア、生き返ってくれてありがとう。
ツネノリもきっと喜ぶよ」
そう言って青いお母様がほほえんでくれる。
「ノレルお母様…、青いノレルお母様ですね?」
「うっ…、これはルルの気持ちがわかるかも」
「あらら、普段クールなノレルがやられてるね」
「本当、初めて見たかも」
「マリオン、恥ずかしいからやめて」
「メリシア、あと1人居るから頑張ってね。しかも一番メリシアに会いたがっているから」
「…はい…」
そう言ってノレルお母様が胸の三角形を捻って頂点を下に向ける。
身体が光って現れたお母様の色は灰色に近い色だった。
「メリシアーー!はじめましてーー!
母ちゃんはノレノレ母ちゃんだよー!
ツネノリの事とかツネツギの事とかみんなの事ありがとうねー!」
「ひゃ?は…はい!」
「ノレノレ、メリシアが困ってるよ」
「マリオン!久しぶりー!」
「はいはい」
「メリシアー!母ちゃんは出られる時間が限られているからいつも慌ただしいんだよぉー。
ルルが怒っているからもう戻るけどまた会おうねー!!」
「はい、ありがとうございます。ノレノレお母様」
「うわっ!やばっ!!お母様ヤバっ!!ツネツギの言葉だけどヤバっ!!嬉しすぎる!!」
そう言ってノレノレお母様はお母様に戻る。
「全く、アイツらときたら。
済まなかったなメリシア。驚いただろ?」
「は…、はい…いえ!」
そしてお母様から何故4人になったか、ノレノレお母様の時間が限られているのかも聞いた。
その間に食事の終わったマリオンさんがキヨロスさんに話しかけている。
「ねぇ、お取り寄せしてくれない?」
「良いけど、何を?」
「まずは私の替えの服数着と私の鎧」
「何するの?」
「メリシアを鍛えてあげるんだよ。
それに今のメリシアの格好は悩殺仕様だから私の服を貸してあげようと思ってさ」
「わかった。「意志の針」貸してあげるからそれで僕に服と鎧のある場所のイメージ送ってよ。僕は「千里の眼鏡」で見てるから」
「はいはい【アーティファクト】。見えた?」
「うん…鎧にガレンがへばり付いてるけどどうする?振り落とす?」
「あのバカ、もう12歳だよ?何やってんの?それに鎧で遊ぶなって言っているのに、やっちゃっていいよ」
「じゃあ【アーティファクト】」
キヨロスさんの前に洋服と濃紺の鎧が現れる。
「ありがと、んでガレンは?」
「頭打って涙目だよ」
そう言うとマリオンさんにカリンさんとマリカさんも笑う。
「これで終わり?」
「意地悪、わかっている癖に。私の鎧はメリシアにはあげないよ」
「分かってるよ。じゃあ呼ぶよ【アーティファクト】」
「んあ?なんだ?なんだここ?」
現れたお爺さんはキョロキョロと周りを見回している。
「ドフお爺ちゃーん」
そう言ってマリオンが飛びつく。
「うお?マリオン?ん?神様?小僧に姉ちゃん?ペックの野郎にガキ共!?なんだここは?」
「ごめんねガミガミ爺さん」
「何なんだよここは?俺はのんびりとしてたんだぜ?」
「まあまあ、そう言わずにお姉さんのステーキ食べなよ」
「相変わらず姉ちゃんの飯は美味えけどよぅ、話が見えねえよ」
キヨロスさんが簡単に経緯と私の事を話す。
「あー…大体わかった。
この嬢ちゃんはセカンドの子で、一度死んだけどツネノリのいい子だから助けたくて、雁首揃えてマリオンの方法で生き返らせた」
「そうそう」
「それでマリオンが余計な事をして、マリオンの戦闘経験も渡したと」
「うんうん…って余計はひどく無い?」
「うるせえよマリオン。余計以外の何ものでもねぇだろうが。
そんで鎧を作ってくれと」
「あの、ごめんなさい。ご迷惑でしたら…」
私は申し訳なさから謝る。
「あん?」
「え?」
ガミガミ爺さんと呼ばれたお爺さんは私を睨む。
この目は父の目に近い…仕事人の目だ。
なんとなくだけど瞬間的にわかった。
「嬢ちゃん?誰にもの言ってんだ?」
「そうだよ、ガミガミ爺さん!大変だったら無理しないで!すぐに三の村に返すよ!」
「こ…小僧?お前…」
「うんうん、うちのお爺ちゃんは年なんか気にしないでメリシアの身体作れたけどドフお爺ちゃんはねぇ。呼んじゃってごめんね!!」
「しょうがないよねドフ。僕はまだまだ現役だけどドフは村長さんの仕事も忙しいもんね。ほら、キヨロスくん。ドフを三の村まで送ってあげて」
「ペック!てめぇ!!…どいつもこいつも…俺を年寄り扱いしやがって…」
そう言って怒ったガミガミ爺さんさんは私を見る。
「おう嬢ちゃん!俺のプロ意識、プロの仕事って奴を見せてやる!!」
「え?でも…」
「バカヤロウ!!!年はとってもそこら辺の素人に負けていられるか。マリオンの鎧なんて20年前の型落ちだ。今の俺が今の技術でもっといい奴を作ってやるから待ってな!
そんで?好きな色は何にする?俺の孫は紫で、マリオンは濃紺だ!」
「好きな色を言っていいんだよメリシア」
キヨロスさんが私にそう言ってくれる。
「そうそう、折角私達みんなでドフ爺ちゃんをやる気にさせたんだから甘えていいんだよ」
「うんうん、ドフはねぇ、口は悪いけど腕はいいからね、安心して任せなさい」
「皆さん…ありがとうございます」
「あらら、また泣いちゃったよ」
「メリシアは素直な良い子なのだ」
「あの、じゃあ赤い鎧でもいいですか?」
「赤?真っ赤か?」
「はい」
「へぇ、意外…、メリシアの好きな色ってもっとこう淡い色とかで橙色とか水色とかかと思ったよ」
「あ、好きな色はそうなんですけど…」
「じゃあ、何で赤にしたんだい?」
「ツネノリ様の…」
私はそう言うと赤くなる。
「ツネノリ?ツネノリがどうした?」
「お母様、私死ぬ前にツネノリ様に私のお爺ちゃんに貰った形見の赤メノウをお守りに送らせて貰ったんです。あの赤メノウが今もツネノリ様を守るように…私がツネノリ様の赤メノウになりたくて…」
「うわぁ、純愛だね」
「いい話じゃねぇかよ!!泣けてくるぜ!!
よし嬢ちゃん!任せな俺が最高の真っ赤な鎧を作ってやる。それでツネノリの事を守ってくれよな!!」
「はい!!」




