第104話 ずっとこうしたかったの。
センターシティのホテルに東さんが部屋をとってくれたので私達はそこで休む事になっていて、行くとホテルの人達は私達を知っているので口々に街を守った事に対する御礼なんかを言ってくれた。
もう10時を過ぎていたのだが軽食では足りない子供達と考えてみれば私もご飯を食べていなかったのでホテルの人に頼んで簡単な料理を出してもらう事にしてそれまでの間にシャワーを浴びる事にした。
「あ」といった千歳がまた空を見て「ジョマー」と簡単に北海さんを呼ぶ。
「なーに、千歳様?さっきはお疲れ様。戦うたびに凄くなるわね」
北海さんも気軽に現れる。
「ジョマもお疲れ様、一個お願いしてもいい?」
「あ、わかる気がするわ、アレでしょ?」
「「下着」」
2人の声がハモると千歳だけでなく北海さんも笑う。
やはりその顔は魔女なんかではない。
「ほら当たった。結局東もお父様も新しい下着は買ってくださらなかったのね。お兄様の服だけは買ったのにね」
「そうなんだよ。ツネノリの服は私に似ててなかなか好きなんだけど下着がないのはやだよね」
「千明様、この男共は本当にデリカシーが無くて千歳様の下着とか考えてないんですよ」
北海さんは私にそう言う。
ああ、主人の服はルルさんが洗濯しているから気付いていないんだ。
「それは本当ごめんなさい」
「まあ良いですけどね」
「千歳様、今日の分だけで良いわよね?」
「うん、残りの10日は洗える場所があれば自分で洗うよ」
そう言うと千歳の前に紙袋が用意されて中には千歳とツネノリの下着が入っていた。
「北海さん、主人に請求なさってくださいね」
「いいえ、これはイチゴミルクの御礼です。さもなくば東に請求しますからご安心ください」
そう言って北海さんは消えていた。
「ツネノリー!」
「なんだ?」
トイレから戻ったツネノリに千歳が「ジョマから下着貰ったよー、シャワー浴びたら着替えなよ」と声をかける。
「ああ。だがお前、本当に魔女をポンポンと呼び付け過ぎじゃないか?」
「いいのー。これも私のやり方なの」
そう言って千歳はニヒヒと笑う。
千歳がこの笑いをしていると言う事は事態が好転している気がする。
昔からそうなのだ。
千歳が身勝手に見える行動をしていても結果それが良い終わり方を迎える事はたくさん見てきた。
「さ、ご飯までにお風呂を済ませなさい」
「はーい、ツネノリ先入る?」
「いや、千歳が先に入るといい」
「ありがと」と言って千歳は貰ったばかりの下着を持って風呂に行く。
「千明さん、ありがとうございました」
「あ、また千明さんに戻ってる」
「ごめんなさい」
「いいわ、あんまり言ってルルさんにヤキモチ妬かせても悪いから」
ルルさんがあんなにヤキモチ妬きだと思わなかったのだ。
主人の時は本当に色々と主人の事を考えてくれていて行動をしてくれたのだろう。
多分、ツネノリへの執着が本来のルルさんの気持ち。
そう考えるとツネノリにあまり親を押し付けてはダメなのだ。
「ねぇ、少し聞いてもいい?」
「はい、なんですか?」
「彼女、メリシアさんの事よ」
「え!?俺…メリシアの事をそんなに知らなくて…答えられるかな?」
「そうなの?じゃあお互いにこれからもっとお互いを知りたかったのね」
「え?」
「だってツネノリが知らなければ彼女だって千歳から聞くかそれこそ神様に聞かない限りはツネノリの事を知れないでしょ?」
「あ…」
ツネノリがハッとした顔で私を見る。
「やだ、そこまで気が回らない程に一途だったのね」
「一途!!?」
そう言うとツネノリは顔を赤くして照れる。
「一途じゃない。
その一途さがあればきっと上手く行くわ」
「はい。ありがとう千明さん」
私は言えなかった。
東さんの手を使わずに人をなんとかする方法と聞いて、昔主人がイーストを旅した時に起きたマリオンと言う少女の話を真っ先に思い出した。
おそらくその方法でメリシアさんを助けるんだと思う。
もう一つのアーティファクト「時のタマゴ」を使った方法は無理だろうし、みんな反対をする。
それは装備した者の性格を荒々しく変貌させるし、使うにはあまりにもリスクが大きいからだ。
何より20年前以降、「時のタマゴ」はこの世界に顕現していないし使い手がこの場に居ない。
だが、マリオンと同じ方法を使うと言う事にもリスクがある。
主人が語ってくれたのは13歳の少女が愛する人の横に居たいと言う気持ちが強すぎて愛する人に姿を合わせて23歳くらいの姿になった事。
少女が大人に変貌したようにメリシアさんが万一変わった時にツネノリはそれを受け入れられるのかしら?
そこが気になった。
でも言おうと思ったが北海さんの顔が浮かんできて私を躊躇させた。
彼女はこう言う事を嫌がるだろう。
万一の時は千歳が居れば何が何でも何とかしてくれるだろうし、子供達に委ねようと私は思った。
シャワーから千歳が戻ってきてツネノリがシャワーを浴びている間に食事が届く。
カレーとオムライスにパスタだった。
「ねえ千歳?」
「なに?」
「ツネノリはパスタかしら?千歳は何が食べたい?」
私が聞くと千歳は首を振る。
「お母さん、ツネノリは本物のご飯党だよ。
ツネノリがカレーかオムライス、私達は残りだよ」
「え?そうなの?」
「そうなの」
そうしているとツネノリがシャワーから戻る。
「ツネノリー、ご飯どれが良い?」
ツネノリがテーブルを見て愕然としている。
「…こ…これは!?」
「どうかしたツネノリ?」
「選べない……俺にはカレーとオムライスを選ぶことなんて出来ない!」
「え?そんなに好きなの?」
「私と千歳は残りでいいから、ツネノリが好きなのを選んで良いのよ?」
少し動きの止まったツネノリが絞るように唸る。
「くっ…、千歳…千歳が選んでくれないか?」
「じゃあ、千歳とツネノリで半分こにするのは?」
私はこれならと思った案をツネノリに言う。
「は…半分…」
ツネノリが愕然とする。
「え?嫌なら好きな方を1つ食べて良いのよ?
千歳、ツネノリが選べないなら千歳が決めてあげなさい」
「う…うん。
ツネノリ、私カレーにするね」
「な…なに!?千歳がカレーに!?」
「え?じゃあツネノリがカレーにする?」
「それでは千歳がオムライスを…」
このやり取りで千歳が心底面倒くさそうな顔をする。
「千歳…、好きな方を選びなさい」
「お母さん?」
「千明さん!?」
ツネノリが泣きそうな顔で私を見る。
「ツネノリには千歳が選んだ方も頼んであげますよ」
「本当ですか!!」
一転、ツネノリがパァっと明るい顔になる。
クールそうに見えるツネノリの本性を見た気がして私は可愛らしいと思ってしまった。
そして千歳はカレーを選ぶ。
「ツネノリ?ゼロガーデンにはカレー無いの?」
「あるにはあるが米がない。みんなパンで食べるんだ」
ツネノリが美味しそうにオムライスを食べながら千歳の質問に答える。
「ツネノリ?カレーでいいかしら?メニューを見たらハヤシライスもあるわよ?」
「ハヤシライス!?千明さん!何ですかそれは?」
「お母さん…、それ長くなる奴だよ」
千歳がやれやれと言った顔で私に言う。
おっとしまった。
ルルさんに「凄い」が禁句のようにツネノリは「お米」が禁句だったのか…
「じゃあ両方とも頼んであげるから好きなだけ食べなさい。
残ったらお母さんと千歳で食べてあげるから」
「いいの!?ありがとう千明さん!!」
そして追加されたカレーとハヤシライスまでツネノリはペロリと食べてしまった。
ツネノリはご機嫌で椅子に身を委ねている。
「今度お母さんに炊き込みご飯とか混ぜご飯作って貰いなよ。美味しいよ」
あまりにご飯を美味しそうに食べたツネノリを見て千歳がそう言う。
「え!?」
ツネノリの嬉しそうな顔はなんだか餌付けされた犬を彷彿させた。
「私が作ったらツネノリは食べてくれる?」
「はい!お願いします!!」
やだ、可愛い。
普段あんなにクールそうに見えるツネノリが子供のような笑顔で喜ぶギャップが可愛いったらない。
しかもルノレさんが喜んでいた「お願い」のワードをもう使っている。
…これはばれたらヤキモチ妬かれるわね。
「じゃあ、お母さんのお願いも一個聞いてもらえないかしら?」
「お母さんのお願い?」
「ええそうよ。千歳とツネノリが一緒の時じゃないと出来ないことなの」
「俺ですか?」
「ええそう」と言った私は右腕に千歳、左腕にツネノリを呼んで抱きしめる。
「お母さん?」
「千明さん?」
2人は驚いた声で私を呼ぶ。
「ずっとこうしたかったの。
私達の子供達、こうして会えてしかも今日の私は生身であなた達を抱きしめられた。
嬉しい…」
「お母さん…」
「千明…母さん…」
子供達も私を抱きしめてくれる。
私に戦う力がなくても全員を支え切ってみせる。
まだこの戦いは半分、辛いこともまだまだある。
私はキチンと支え切ってみせる。




