1-4 国の仕組みが見えてきました
硬貨を恵んでくれた男。
彼に魔王城の場所を聞いても教えてくれたのはセーブポイントの場所だった。
それは生身で魔王に挑むことが無謀だから。
セーブポイントは国が運営。
どの能力も時間制限があって、安いとは言えない。
富裕層は貧民に気まぐれで金を渡せるほどの経済格差。
「つまり、一番儲かっているのはこの国。サリア王国そのものなのだよ」
「……え?」
帰宅中、マユが自分の見解を述べた。
神殿の中で言った『見えてきた』ものはこのことだったそうだ。
「シュベールと勇者が戦い、シュベールが勝つ。すると勇者はもう一度セーブをするはずだ。シュベールが負けない限り、永遠に利益を出せる」
「待てよ。勇者たちがわざわざ大金払ってまで挑戦する理由ないだろ」
「いいや。よく見たまえ、いたるところに貼り紙があるだろう」
壁に、家の側面に、店先に。
『神殿にて加護を受け、魔王を討とう!』と書かれたポスターがあった。
魔王を倒せば報酬金が出るとも。
「15億バペル……。日本円でいくらするんだ、これ」
「さぁね。単純に15億円と考えていいんじゃないか。ともかく、勇者たちはその報酬に魅了されているわけだよ」
――そして彼らはセーブやチート能力に投資を続ける。
神殿で今朝魔王城に侵入した三人を見たが、彼らはそのいい例だ。
剣を持っていた男性は再挑戦しようとしていたが、女性二人は消極的。
戦いに行く本人はまさしくゲーム感覚。勝てば大金を入手できるからギャンブルという方が正しいかもしれない。
それでも新には疑問点が多くあった。
「じゃあ皇女誘拐って……」
「イデュアは自分からやって来たのだ。彼女がグルの可能性も捨てきれんぞ」
「お金渡してくれた人は……」
「彼らは恐らく商人。国の下で働いている者が買い物をして、金がうまく巡っているのだろう」
新はがっかりした。
夢のファンタジー異世界。まさかその世界が現実世界ばりに汚れた世界だったとは。
「能力を買わせて、国が勇者たちの資金巻き上げて……。残念な世界だな……」
チートに頼らず、修行をして強くなろうとする人間はいないものか。
「アラタ、君だって電化製品なしで暮らそうとは思うまい。便利に勝る財はないのだよ」
「そうだけどさ……」
どうも納得がいかない。
結局はお金で決まるのか。
マユと話していると、いつの間にか自分は薄暗い場所へ戻っていた。
森だ。
家から一定距離近くなると、家の方向を示す矢印の先に数字が表示された。
「この先あと100メートル、だってよ」
「……わざわざカーナビ音声のマネをするな。ちょっと笑いそうになってしまったぞ」
「あのクオリティで!?」
いつも真顔なマユはたまに微笑むものの、声を出して笑うところは一度も見たことがなかった。
「うわー、もう一回やろうかな……」
「バカ者。私の努力も知らないで」
「真顔を保つ努力なんてしてんのかよ」
「……笑うのは少し恥ずかしいからな」
マユは口先を尖らせて言った。
笑うのが恥ずかしいなんて感覚は新に理解されなかったが、彼がもう一度カーナビのモノマネをすることもなかった。
何事もなくレンガの家へと戻ったのだ。
「ふぅ。我が家はいいものだな」
徒歩に疲れた様子のマユがベッドに突っ伏す。
「それ、俺のなんだけど……」
新は突然な行動に驚いた。
なんせ出会って数時間の少女が自分のベッドで横になっているのだ。
「アラタ、これはどこで買ったのだ? 寝心地がいい」
「親が買ったから覚えてねぇよ……。それよりマユさん、どいてくれます?」
「やだ。私は少し休むぞ」
マユは自分の体に毛布を巻きつける。
休息なのか睡眠なのか混乱したが、彼女は前者のつもりらしい。
「あぁ、今夜はここで寝たいくらいだな……。ふかふか……」
「マユさん。俺、現役高校生ですけど」
「それが?」
細目で新を見上げるマユ。
疲弊からか、ふわふわとした口調だった。
「いや、女性がベッドの上にいるとさ……。違和感じゃないけど、その……」
欲望盛りな思春期。
新は特別歳下好きというわけでもなかったが、美少女が無防備に寝ている姿は疼くものがあった。
「あぁ、なるほど。じゃあ君のいない時に味わうことにするよ」
マユはそんな気持ちを察したがどうにか布団の心地よさも味わいたかった。
新のいない時――それを意図的に作り出そうと作戦を思いつく。
ゆっくりとマユは起き上がり一冊の本を新へ渡した。
渡した本はマユ特製魔法陣集。
「これはお守り、何かあったら使いたまえ。で、君はこれを持って魔王城に行くのだ」
「何しに」
「イデュアに問え。国のことや、本当にグルではないかを」
そう言うとまたもやベッドへ伏せた。
この世界で買った寝具よりも圧倒的に柔らかく、暖かい。
「いや、寝たいからって俺を追い出すなよ……」
「追放ではない。ただのおつかいだ。たまたま君が外を出るから、私は寝ることができているだけさ」
「そう仕向けたんじゃねぇか……」
「ほらー。早く行きたまえー」
ひらひらと手を振るマユに、新は諦めを覚えた。
仕方がないので本を片手に外へ。今度はちゃんと靴を履いてだ。
わざわざ高額商品を買わないと行かせてもらえない勇者たちに比べると、自分のほうがどこか優位に思えた。