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3-5 能天気なやつしかいませんでした

 普段ならばノックされた扉から出るはずの少女が、今日はそんなことをする前に出てきた。


「なんですか、これ……」

「俺も知りたい」

「あぁ、いや、いいと思いますよ……。趣味は人それぞれですから……。ただ、ヘタレロリコン大魔王アラタさんのご趣味が、まさか幼女に監禁されることおよび、私から嫌悪の視線を浴びることだったなんて――」

「言ってねぇよ! 逆にお前の想像がひねくれすぎだろ!」


 クレスの家をノックすれば、まずは必ずメイドが対応する。

 そしてその対応はやはり必ずといってもいいほどちんちくりんな少女が担当しているのだった。

 ミル。少女>ミル>幼女。多分それくらいのメイド。


 普段なら軽口で場を支配するはずのミルが、どうして今はドン引きに引きに引きまくっているのか。

 それは当然、なんかよくわからない幼女崇拝集団が訪問してきたからである。


 後ろにはどこで集めたかもわからない老若男女と、檻を神輿のように担ぐ無骨な男、そして檻の中に男が二人。

 極めつけはその檻の上に君臨する銀髪褐色の幼女。

 扉を閉めずに出てきてくれただけでも相当肝が据わっている。


「おい童女よ、クレスを出せ!」

「うわ、ヘタレロリコン大魔王って言った矢先、本物の魔族がいるじゃないですか。銀髪褐色なんて人間は存在しないし、目立ちまくりですよ。ここに来る前に下調べしなかったんですかね」

「む、ベルならば2秒以内に遂行しているであろう要望だぞ。早くせんか童女」

「さすがロリコンアラタさんですね。ロリなら魔族でもいいんですか。ははー、その気持ち悪さ、思わず感服です」

「おい、アラタ。このメイド耳がついとらん」


 この二人は最悪かもしれない組み合わせだった。

 どう最悪なのかというのは、もう説明するまでもないほどに最悪かもしれないが、ざっくり言えば、とにかく煽ることしかしない。

 無自覚にデカい態度の魔王様と怪しいやつはデカい態度で追い払わないといけないメイドがバチバチすれば、それはもう地獄絵図である。

 新が翻訳機として仕事をしなければ戦争の道が開かれていただろう。


「ミル、クレスは?」

「ご在宅ですけど。なんですか、魔族の儀式への生贄にでもするんですか?」

「我はあやつとはマブダチでな。食事を振る舞うと約束したほどの仲だ」

「つまりお食事をしに来たんですか。やめたほうがいいですよ。人間界のご飯は最悪です。残飯です。三角コーナーです。とっとと森に帰ったほうが身のためです」


 多分そんなことはないだろうし、クレスの身分からすればなかなかいい食べ物を摂っている気がするが、ミルは帰らせたい一心なのだろう。

 きっと魔族は危険な存在だと言われているだろうし警戒するのも無理はない。

 日本ならでっかい熊が人里に来ちゃったようなものかもしれない。


「それに、どうせ直接会うにも許可が必要なんですよ。私がはいどうぞって言っても無理なんです。あと、私がはいどうぞって簡単に言えば有能メイドの看板に傷がつきます。減給なんて勘弁なので、さっさとどっかに行ってください。しっし」

「待て待て、ミルよ。ミルちゃんよ。こっちにもいろいろ事情があってさ。しかもこればかりは本当なんだ、クレスとこの褐色幼女が知り合いだって」

「別に、そんなこと知りません。もしこれがロリコンさん単体のご訪問でもアポがない時点で私の雑談相手としか認識できていないので。突然の訪問は問答無用で帰ってもらいます。しっし、汚らわしい」

「なんか余計な一言が出たことはこの際スルーしてやろう。けどな、考えてもみろ。この1件で俺が機嫌を損ねたらどうなるか。俺がクレスの結婚式に欠席するかもしれないんだぞ。あーあ、あいつ悲しむだろうなぁ」

「ぐぬぬ……。足もと見ますね。舐め回していますね。ゲスな目ですね。しかし私は屈しません! そっ、そんなイヤらしい目つきで見られたとしても! あーやめてください! 私の純真無垢な体を汚すなんて!」

「やめろ、声でけぇよ! ミルじゃなくてもっとヤバめの警備員来たらどうすんだ! 見ろ、この不審者集団! 頼むよミル。お前だけが頼りなんだよ」

「え、嫌です。それじゃあまぁ、そういうわけなので、全力で叫ばさせていただきますね。とっとと帰らないと冤罪で捕まりますよ。助けてぇぇええ! 変態です、ロリコンです、この世の悪の全てです! 誰か、か弱き私を守ってくださぁい!」


 社会は不平等だ。

 どうせ自分が叫んでヘルプを求めたってあまり協力しないくせに、幼女が叫んだら四の五の言わずにすぐ大人を成敗するのだから。

 いやむしろいい社会なのか。


 ともかく何があったのかというと、幼女の叫びにすぐ大人が駆けつけたということである。

 自分からするとその人は年齢的に大人と語るほど大人ではないが、この場合ミルの保護者という点で大人かもしれない。あと精神的にもその他人生経験諸々も含めて。

 結論から言うと勇者が来た。クレスが来た。


「お、アラタさん。これ、どういう状況っすか」

「あっぶねー。クレスで助かった、マジで、心の底からありがとう」

「平和ボケクレス様、ここは私が不審者対応する場なので引っ込んでてください。彼らが暴徒なら今頃あなた死んでますよ。この屋敷には私とあなたしかいないとでもお思いで?」

「いや、ミル、そうだけれど。でもミルが叫び声を出してたら、僕だって心配だから」

「は? たしかに私ほど人類の宝な人間はいないですけど、だからこそ危険な場所にクレス様を出すわけにもいかなくて。もう正直に言いますけど、この前死にかけたことをお忘れですかってことです。命、狙われてたんですよね?」


 そうなのだ。

 誰かがアリーゼを操って、クレスのことを殺そうとした。

 今のクレスにはその状況を経験したとは思えない緊張感の無さ見える。


 もちろんそれは自分も含めてかもしれなかった。

 冷静に考え直してみれば、ずっとシュベールに振り回されていることを言い訳に、状況解決の一歩を後回しにしている。

 早くシュベールを魔王城に閉じ込めないといけないし、個人的にはあの黒幕と思わしき商人を探してやりたいところだ。


 だが、それができないのはやはり魔王様に振り回されているからだった。

 そしてそれは、またもや起こることである。


「なんだ? 命を狙われているのか? それならば我に任せておけ。我こそは最強にして最高の魔族の長、魔王シュベールなのだから!」


 きっとベルはこの魔王様をずっと閉じ込めておくのに苦労しただろう。

 絶対外に出しちゃいけない存在だって、ようやくわかった。

 おっひさー

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