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3-2 能天気でした

 新がどうやって魔王城まで来たのかというと、やはり転移魔法の力だ。

 思えばこれを使い始めたのは、便利だからという理由じゃなかった気がする。


 まだ、この世界に来て間もない頃。

 シュベールがチート勇者たちの攻撃にうんざりしていた時。

 新は応急処置として城に転移魔法陣をばら撒く提案をしたのだった。


 忘れかけていたが、今も魔法陣は残っているのだろう。

 いつ国が攻めてもおかしくないだろうし、それでもいいか。


「よう、イデュア――」

「アラタ! ど、どうしよう、私……」


 魔王城に到着するなりイデュアはあわてたように言ってきた。

 ウロウロとしていて半泣き。何かやらかした感がハンパない。


「落ち着いて。何があったんだよ」

「シュベール様が、外に……!」

「は?」

「追いかけっこしてて、ドタドタ走ってて、それで……」


 もう泣く寸前である。

 呼吸も早くなり、過呼吸気味。

 その後、イデュアは「どうしよう」と繰り返した。


「どうするも何も、解決するしかないだろ! 誰もイデュアは責めないから、とっとと話してくれ」

「だから、シュベール様が、消えちゃったのよ! どっかに。一瞬で」

「……転移魔法を踏んだのか。でも、あいつただの幼女だし。バレずに帰ってくるんじゃない?」


 イデュアはふるふると首を横に振った。

 そう簡単にはいかないらしい。


「髪の色がダメなの。銀髪なんてこの国にはいないわ」

「でも異国の人とか――」

「ダメ……。魔族の証拠なの、あの髪は……」


 この国に多いのは黒髪と金髪。

 たしかに、銀髪なんて他に見たことはない。

 しかしベルは?

 彼も魔族であるはずなのに髪は黒い。


「あのさ、ベルは――」

「ベルなら外に行ったわよ。私のせいでシュベール様が飛んじゃったから、捜しに行った」

「そうじゃなくて、髪……」


 ここまで言いかけた時、新は思い出した。

 魔王城にばら撒いた転移魔法は、どれもセーブポイントがゴールだったはずだ。

 すると、今急げば行けるのではないか。

 今はもうセーブポイント跡と化したあの場所に。


 ――って、あれじゃん。

 もしレイと別れた後にあの場所にとどまっていれば、自分はシュベールを発見できたのではないか。

 そうすれば何事もなく終われたはず。


「まずいな……。もうすっかり治安が良くなったから、あそこの人通りも少なくない。シュベールがバカやらなきゃいいけど……」

「ねぇ、私、どうしたらいいのかな……。もう、ほんとにバカ……」

「気にすんな。魔王様はきっと無事だよ。ちょっと、俺も外に出るわ。連れ戻してくる」


――――――――――――


「ふぉ……。なんだ、ここは」


 新がちょうど森の入り口にまで進んだ時、シュベールは元・神殿に転移していた。

 久しぶりの青空。にぎやかな声。なんかいい匂い。


「我は……。さっきまで逃げていたわけだが?」


 イデュアの魔の手(セクハラ)から逃げていたら、なぜか外にいた。


 うん? とにかく逃亡は成功。

 これは喜ばしい。我は魔王であるからな、あの程度造作もない。

 しかも、外とは――。

 最近は攻め入る者もおらぬし、ここは友好的に振る舞っていこうか。


「そう、ポジティブシンキング! 我には友だっておるのだ!」


 名はクレス。

 友の家に行けるかと思ったら、あやつ、そのまま帰りおって。

 おかげで3日間睡眠チャレンジをしてしまったぞ。

 だが、どうせ外へ出たのだ。直接こちらから会いに行ってやろう。


「サプライズだ! 待っておれ、我が友よ!」

「そこの女の子!」


 シュベールが意気揚々に笑っていると、青年が声をかけた。

 少し興奮気味に近づいてくる。


「な、なんだ貴様。あぁ、我は友好的だからな、別に殺しはせんぞ」

「その口調……。やっぱり魔王だよな! 俺だよ、覚えてっか?」

「んん? 誰だ?」

「ほら、かわいい姉ちゃんを二人連れてきた勇者だよ。惨敗したけどさ」


 あぁ。アラタがはじめて来た時に侵入してきた者か。

 弱すぎて記憶にも残っていなかったわ。


「こんなとこで何してんだよ。もしかして本格的に世界征服?」

「いいや。たまたま来てしまった。そうだ、貴様に道を聞きたい。クレスという男の――」

「んなことよりさぁ、俺と金儲けしねぇ? いい案があるんだ」

「興味ないな。我が渇望するのは友だ。唯一無二の友」

「おけおけ。じゃあ、俺らダチな。な? だからさ、ダチの頼み聞いてよー」


 ザコ勇者は面倒なやつだった。

 今はとなりにいた女性二人も見当たらないし、怪しさ全開。

 しかし、シュベールは『友』に甘い。


「よし! 我に任せるがよい! なんでも解決してやろう!」


 クレスは後だな。

 まずはこやつと親睦(しんぼく)を深めてから。


「マジ? 俺の名前はグネイル、よろしくな!」

「グネイル! 我はシュベールだ。我が友よ!」


 こうして、緊張感ゼロの魔王は外へ出た。

 心配する人たちの気持ちも知らないで。

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