1-3 特殊能力を買いました
「すいませーん、魔王城ってどこですか?」
日の照る大通り。
新はその場で立っていた若い男性に声をかけた。
歩いている人間よりも立ち止まっている者のほうが答えてくれるはずだと思ったのである。
予想通り、男はすぐに答えてくれる。
「こっちとは逆だよ。あんたらが来た道を戻って、そのまま直進すれば『セーブポイント』に着くはずさ」
なぜか男の言葉はここで終わってしまった。
新が念押しで聞く。
「あの、魔王城なんですが……」
「ん? もしかしてあんたら、スラムの貧民か? 悪いことは言わないから、魔王討伐で一獲千金なんて諦めな。死んじまうよ」
男性は胸元のポケットから金属を取り出し、新に渡した。
「ほら、これやるから。飯でも靴でも買いなって」
円盤状の金属。
マユに視線を送ってみると、すかさず説明をしてくれた。
「それはこの国の硬貨だ。靴がない私たちを一文無しだと思っているようだな」
「とりあえず『セーブポイント』とやらに行ってみようか。そこになんかありそうだし」
マユは小さく「うむ」と頷いた。
新は男から恵んでもらった硬貨を握りしめ、礼を言う。
「わざわざありがとう。いろいろ助かった」
「金がなくなったらまた来な。二人くらいの飯ならいつでも奢ってやるよ」
男の優しさに感動しながらその場を離れる。
「マユ。お金もらっちゃったけどさ、あの人は大金持ちだったのかな」
見ず知らずの人に硬貨を渡し、しかも足らなければまた来いと断言した男。
自身の経済が潤っていなければマネできない行為だ。
「かもしれないな。私たちを『スラムの貧民』と言っていたし、経済格差もあるのだろうね」
「……靴、買うか?」
「どこが靴屋かもわからないし、ここはいっそ貧民を演じるのがいいと思うぞ。君が欲しいと言うならば付き合ってもいいが」
別段、靴に興味があるわけではなかった。
ただ何かを踏んでケガをするのも嫌だったので提案したまでだ。
「マユがいいって言うなら俺もいらないよ。貧民でいこう」
「うむ」
裸足のまま前へ進む。
そのせいか、道中で複数回声をかけられたりもした。
しかもほとんどの人が金を恵もうとしてくれる。どこか異常とも思える優しさだ。
「みんな金持ちか? どうなってるんだ」
「ここら一帯は富裕層が集まっているのだな。それとも国の経済政策がうまくいっているのか」
違和感も抱えつつも二人は進んだ。
やがて神殿のようなところにたどり着く。
とても大げさな建物。最近建てられたような美しさがそこにはあった。
「ここが『セーブポイント』か?」
神殿に踏み入ると、鎧に身を包んだ者や武器を腰に据えた者など多くの勇者っぽい人物がたむろしていた。
よく見ると、今朝魔王城に侵入した三人もいるではないか。
「マジで! あれは油断してただけだって!」
「一撃でやられたのよ? もう一回行っても同じでしょ……」
「勇者クン、真面目に働こ。ね?」
揉めているようだが、こちらにとっては好都合だ。
二度と魔王城に戻ってくるなと念を出しつつ、神殿の中を散策。
すると、一人の女性が新たちを目にした。
「いらっしゃいませ。セーブしますか?」
唐突に投げられた声に新は質問で返す。
「あの、俺たち初めてで……。セーブってなんなんですか?」
「はい。セーブはですね、魔王や魔族と戦う皆さんに安全を提供するサービスです」
女性は笑顔でスラスラと言葉を並べる。
セーブとは、魔王や魔族によって命の危険があった時に効果を発揮する保険のようなものだった。
死ぬ前に場所を変えるだけではなく、体に負ったダメージやケガも回復させてくれるそうだ。
しかし注意すべきは、魔族の攻撃で危機に陥った場合のみ発動するという点。
寿命や病気、人同士の事故や殺傷では復活できないのだ。
「特に、死に放題コースはおすすめですよ! 一年間何度でも復活できます!」
死に放題というネーミングがどこかおかしく、新は笑いそうになってしまった。
しかし女性は気にせずに話を進める。
「セーブの他にもですね、魔王討伐応援キャンペーンとしてお役立ち武器や特殊能力も買うことができます」
「おっ! それいいねぇ」
新はなるべく詳しい話を掘り出すためにあえて反応を示した。
策略通り、女性がその話を展開する。
「こちらも使い放題コースがお得ですが、一日や半年など細かく日数を――」
「待って、あれってレンタルだったの?」
「申し訳ありません。すべて国が作成、管理している物ですので……。あくまでも『使用する権利』をご購入いただく形になっております」
これを聞いたマユが会話を新に任せていたはずなのに話へ入ってきた。
彼女の中にひとつの仮説が浮かんだのだ。
「国が管理……。セーブなども国が運営しているのかな」
「はい。すべてお国が回していますのでご安心ください」
「なるほどな……。アラタ、見えてきたぞ」
仮説が確信へと変わり、マユはポツリと呟いた。
何が見えたのかは新にもわからなかったが、話を切り上げていいという合図だろうか。
適当に話を切り上げようと機会をうかがう。
「えっと、おいくらですかね?」
「一番安い24時間セーブは5万バペルになります」
『バペル』とは金の単位だ。
サリア王国には日本の『銭』にあたるようなバペルより小さな単位は存在しなかった。
「マユ、これっていくらなの」
最初の男からもらった硬貨について聞いてみる。
「これは5千バペル硬貨だ。あと9枚必要だな」
「……すいません。これだけで買えるものってあります?」
「24時間でしたらございますよ。こちらをご覧ください」
数枚の束になった紙を渡される。
そこにはチートとも言えなさそうな微妙な装備や能力が並んでいた。
あと何分で雨が降るかわかる能力。
いつもより1.3倍高くジャンプできる能力。
「あ、この『行きたい場所までの道のりがわかる能力』欲しいです」
「お客様。ここだけの話、雑貨屋さんで地図を買ったほうが安いと思いますけれど……」
「いやいや! これが欲しいんですよ」
微妙な能力に熱意をかける謎の客に苦笑いの女性。
「能力は24時間後に自動で失われますのでご了承くださいませ。では、あちらをお通りください」
女性の促す場所には小さな門があった。
あれをくぐれば能力が使えるようになるようだ。
「またお越しくださいませ」
女性が頭を下げる。
新は門へ向かい、その下をくぐった。
金属探知機みたいな小さいゲートだが、くぐっても門に変化はなし。
しかし新の体は――。
「うわ、すっげえ! 矢印が見える!」
「あまりはしゃがないでくれたまえ。ほら、さっさと帰ろう」
グイグイと服を引っ張るマユ。
新はマユの『見えてきた』という発言を思い出した。
発言の意図を聞くためにも早く家を帰ろうと神殿を出る。
二人は矢印の方向に従って道を進み始めた。