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2-32 駆けつけました

 絶妙なタイミングだった。

 もしも今日、新がこの家に赴いていなかったらこんな迅速には情報が届かなかっただろう。

 また、その前にマユが魔法陣を完成させていなかった場合もこの奇跡は起きなかったはずだ。


「マユ! またヤバいことになった!」

「ぬ? 何があったんだい」

「またアリーゼが暴れてるみたいだ! 早くしないとクレスが殺されるかも――」

「わかった、すぐに行く」


 マユは武器となる本を手にし、クローゼットに飛び込んだ。

 遠かったはずの距離を一瞬で移動する裏ルートである。


「さっきミルってメイドが家に来たんだ。それで、またアリーゼがクレスを襲ってるだのなんだの……」

「そのメイドはどこへやったのだ?」

「外で待たせてる。あの魔法陣、見られたらまずいだろ?」


 トイレの戸棚とクローゼットを繋げるなんて魔法以外にありえない。

 クレスとアリーゼには流れでバラしてしまったが、ミルはまだ新の正体を知らないままだ。

 あの二人と違い、借りを作っていないから口外される可能性は大いにあった。


「すまん、待たせた!」


 扉を体当りするように開け、ミルに声をかけた。

 ソワソワとしていたミルはその声で少しだけ安堵する。


「行きましょう! って、本当にロリなお方と同棲してたんですね。これが解決したら自首してもらいます」

「誘拐してねぇよ! ほら、さっさと行くぞ!」


 新はミルを持ち上げて走った。

 彼女は行きのダッシュで疲れているだろうし、小中学生ほどの年齢だろうから走るスピードも遅いはずだ。

 一番早く到着するには、この方法が最適解だ。


「マユ、まだいけるか!」

「はなし、かけるなっ! よけっ……。疲れる――」


 ミルを抱き上げていると、マユも一緒に持ち上げることは不可能だった。

 だからマユには自力で頑張ってもらうしかない。

 しかし、引きこもり少女よりも男子高校生のほうが足は速い。


 マユは苦悶の表情で必死に走り続けていた。

 新は気持ち遅めにスピードを調整するも、止まるほど余裕はなかった。


 走り続けると、ようやくクレスの豪邸が見えた。


「はぁ……。 着いた……!」


 新が軽く息を切らすほどだったから、マユにとっては相当つらかっただろう。

 心配しつつ後ろを振り返ると、マユは涙目で咳をしていた。


「すまん、マユ。ちょっと休んでろ」

「はな、し……。かけるな……!」


 マユは限界を超え、喋るのも苦しい状態となっていた。

 新はそんなマユを残して豪邸の中へ入る。

 この家の中は初見だが、そこはミルが教えてくれる。


「アリーゼさんがいたのは上の階です! 今もいるかはわかりませんが……」

「とりあえず行くか!」


 今度は遠慮せずに走った。

 広々とした室内では思いっきり体を動かせる。


 階段を上ると右か左かの分かれ道。


「右です!」


 言われるがままに進むと、声が聞こえるようになってくる。

 その声にクレスも混じっており、新は近さを感じ取る。


 見えた――。

 包丁を乱暴に振る金髪のメイド。

 そしてそれをどう対処したらいいか困惑している二人の男性。


「クレス様! 助っ人連れてきました!」


 ミルが叫ぶとクレスだけがこちらを見た。


「アラタさん! これ、どうすれば――」

「俺もわかんねぇし、マユがいないと一般人だよ!」


 ならなぜ来た――。

 そう思われるかもしれないが、とにかく新は夢中だった。

 クレスの無事がわかり、とりあえずは一安心。


 だが、アリーゼをクレスに近づけまいと奮闘する初老の男性は頬から出血していた。

 その傷は細く赤い。

 無論、包丁でつけられた切り傷だ。

 それでも男が怯むことはなく、むしろ鋭い眼光が男の強さを物語っていた。

 自分が出るよりも断然マシかもしれない。


「てか、クレスはなんで棒立ちなんだよ。逃げりゃいいのに」

「アリーゼの狙いは僕なんです! あ、いや、正確には『包丁』の狙いですけれど……。とにかく、逃げても追いかけてくるだけなんですよ」


 それでは戦うルディの邪魔にもなるし、何より事件の解決に繋がらない。

 

「ん? 包丁の狙いってどういうことだ? アリーゼがぶんまわしてるだけだろ」

「それが違うんですよ。手は離れないし、自由に動かせるのは首から上だけみたいです」

「操られてんのか……!」


 新は解決策を考えてみたが、瞬時には思い浮かばなかった。

 とりあえずマユがいなければどうにもならないことはわかる。


「クレス。アリーゼはちゃんとお前についてくるんだよな」

「はい!」

「じゃあ魔女の前まで移動だ! 家の外に待たせてあるから」


 とにかくマユがいれば大丈夫――。


 新は魔法陣の力を過信していた。

 そう、過信だ。


 魔法陣でも解決できないと知るのは、この後すぐの出来事である。

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