2-22 王の質問に答えました
国王が恩を感じているのはレイを助けてくれたからだ。
もし助けてくれた相手が貧民であろうが犯罪者であろうが、その気持ちは変わらないはずだ。
しかし、魔王の手先だと知られたらその感謝は失せるだろう。
レイを助けたのではなく、あくまでも魔王の命が危なかったからマルクの家へ侵入したのだ。
つまり、彼女の命は計画の副産物でしかないことになる。
新やマユが実際にそう思ったわけでもないし、レイも二人が本気で自分のことを救いたかったことを知っている。
それでも第三者からすると、命を利用しているにすぎないと感じるかもしれない。
もしも魔王の命に関わる問題でなかったら、見ないふりをしていた――と。
だから、まだ正体を明かすわけにもいかないのだ。
「何者、と言われましても……。俺たちは俺たちですよ」
「金品は無事、レイは命を助けられ、現場には都合よく闇商売に関する書類がばらまかれていた……。ただの泥棒ならば、こんなことをするメリットがないだろう」
「嫌がらせです。俺たちは日々生きるのが精一杯なのに、マルクは有り余る大金を闇商売で稼いでいたので」
「不審な点がもうひとつ……。現場にレイはいなかった。君たちもいなかったから、一緒にどこかへ逃げたと予想している。その場所でレイに何を言ったのかね」
王からすると、レイが何かしらの嘘をついているのは明らかだった。
新とマユは絶対に普通の泥棒なんかじゃない。
クレスが新の顔を心配そうに見ている。
新は大丈夫だと小さく頷いてから切り出した。
「国王様にはずっと秘密にしていたのですが、言うしかないっすね……」
この危機を乗り越えられる言い訳。
それは、最近の事件で鍵になっていた要素だった。
「俺、レイのことが好きなんですよ! 実はストーカーだったんです!」
恋――。
自分は『ただの泥棒』ではなく、『レイのことが大好きな泥棒』である、と。
「ずっと追いかけてたら、マルクに連れて行かれるところを目撃して……。自力で助ければ惚れてくれるかも、なんて……」
マルクの悪事なんて知らなかった。
あくまでもレイを助けることがメインで、金品にも興味はなかった。
「筋は通ってる、かな……。そ、それで、レイと君は恋人になったのかね?」
国王にとってレイは義理の娘みたいなもの。
余計なお節介だとは思うが、気になるところは気になってしまうのだ。
「いえ、まだ……」
「いやー、そうかー! あの子もそんな歳になったんだね、いやいや……」
絶対に喜んでるぞ、このおじさん――。
新は少しショックだった。
そんなに自分が安心できない男だろうか。
「……失礼。君とお嬢さんとはどんな関係かな」
「私とアラタをくっつけようとしても無駄だぞ。この男は相棒であって恋人でないからな」
「そ、そうですよ! マユさんは僕が――」
「いえ、クレス様はアリーゼが占領しますので」
「と、ともかくだ! 家や金は礼として渡せるが、さすがに娘は……」
全然構わない。
逆に祝福ムードとなってしまえばレイに迷惑がかかるだろう。
「――それと、ストーカーと言っていたが、今もやっているのかね」
「た、たまに会うくらいっす。最初は友達からって言われて……」
「でも過去にやってたのは……」
「いや、ちがっ、違うんです! 魔が差しただけで」
「……許す。今回はな」
絶対に許されてないな――。
新だけでなく、全員がそう思った。
だが、魔王の手先だということはなんとか隠しきれたようだ。
「すまない、まだ聞きたいことがあるんだ。マルクを護衛していた屈強な男たちはどうやって倒したのかい」
「それは……」
魔法陣のことも言うべきではない。
そもそもそんな高度な知識をどこで身につけたという話になるし、無断で魔法陣を書くことは犯罪行為だ。
「派手に暴れました。己の体と拳で」
「拳!? しかし、床が粉々に砕けていたのだが……」
しまった。
マユが魔法陣を使って家を破壊していたんだった。
一度発言したことを簡単に撤回してしまえば怪しまれるに違いない。
ここは仕方ないか――。
「拳です。気合でぶん殴りました」
「男の一人は剣と鎧を身に着けていたそうじゃないか。君たちにそんな戦闘能力が――」
「ありますあります! なんなら、今からぶん殴りましょうか」
鎧も剣もクレスの忘れ物だ。
まさかそれが敵側の所有物だと勘違いされるなんて。
「いいや、殴らなくていいよ。今後は無理をしないでほしい、君たちは大切な恩人であり国民だからね」
「ういっす。ありがとうございます!」
ゴリ押しではあるが、はぐらかすことができてよかった。
後でレイに話を合わせないといけないが、仕方あるまい。
それと、国王についてわかったことがある。
――親バカだ。




