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2-20 お呼び出しがありました

「――デルタ『衝撃波(インパクト)』」


 その声とともに轟音が響いた。

 頭が痛くなるほどの音に、無理やり意識を引っ張り出された新は目を擦りながら起き上がる。


「……マユ?」


 何事かと思い、周りを見回しても少女の姿がない。


 新はなにか変な夢でも見たのかと結論づけ、ベッドを立った。

 そして朝食のため、もう飽きてきた料理を召喚する電子レンジに触った時――。

 ドン――と、再び腹の底まで響いてくる爆発音がした。


 外で何かが行われている。

 新は外へ飛び出た。


「マユ、何してんだ!?」


 そこには魔法帽を被ったマユがいた。

 彼女の先には、貰ったスライムのひとつ。


「スライムの耐久実験だ。実は、あるアイデアを思いついてね」

「新しい魔法の開発?」

「いいや、君の装備だよ」


 マルクの家を襲撃した時、新は戦闘面だとそこまで活躍できなかった。

 それは仕方のないことだが、マユからすると心配事がある。

 新の命の心配だ。

 命を失わなくとも、彼に痛い体験をさせるわけにはいかない。


「君はまだまだ魔法陣の扱いに慣れていないようだし、接近戦も不安があるだろう。そこで、ひとまずは防御を強化しようと思ったのだ」

「防御を強くするアイデアって?」

「ふふふ、君はレイノルズ現象を知っているかな?」

「そのレイなんちゃら現象、昨日も言ってたよな。わかんないけど……」


 マユはその場に落ちていた木の棒を拾い、ゆっくりとスライムを突き刺した。


「基本、スライムは液体のような体をしている。粘性のせいで形を保ったり、こうして木の棒を刺すこともできるけれどね」


 マユは次に小石を拾う。


「さて、水の中にこれを投げたらどうなるだろう」

「え……。中に入って沈むだろ」

「普通の液体ならな。正解を見てほしい」


 マユが石を投げる。

 それがスライムの体に当たった瞬間、石はスライムの体に入ることなく地面まで転がった。


「強い衝撃が加わった瞬間、スライムの体は液体から固体の性質を持つようになる。実は地球でも同じような現象は起こり得るのだぞ」

「マジ!? 地球にもスライムが――」

「そんなわけないだろう。水と片栗粉で作れるんじゃなかったかな」


 強い衝撃に対して瞬時に硬化する液体。

 不思議な特性ではあるが、これをどう利用するのか。


「アラタ、スライムを蹴ってみろ」

「え、吸われるんじゃ……」

「それは液体の時だけだ。固体にさせれば吸われることもないよ。勢いよく蹴って、すぐに離せばいい」


 新は言われるままスライムを蹴った。

 すぐ脚に衝撃が走る。

 目の前にあったのはぷるぷるとしたスライムのはずだったのに、岩を蹴ったかのように硬い。

 けれど重くはなかったため、スライムはボールのように数メートル飛んでいった。


「めちゃくちゃ(いて)ぇじゃねぇか!」

「だろう? その上スライムは軽い。これを鎧などに応用できれば強いだろうと思いついてね」

「……あの轟音は?」

「あぁ、どこまでの衝撃に耐えられるのかと衝撃波(インパクト)を発動してみたんだ。液体だったはずの物が固体のように破裂する光景はとても面白いし、ちょっとくらい無駄遣いしてもいいかな、と」

「それで?」

「それが、全然壊れる気配がないのだよ。この世界の人はどうやってスライムを処理しているのだろう……」


 まだまだ謎の残る生命体だ。

 マユはぶつぶつと言いながら実験を終了した。


「アルファ『保護(プロテクト)』」


 そう唱えると正方形がスライムの前に現れ、スライムを囲みつつ立方体の透明な箱へ変化した。

 箱の中に閉じ込められたスライムは不規則的に左右へ揺れている。


「……アラタ。私はこれをかわいいと思ってしまうのだが、間違った感性だろうか」

「キモかわいいみたいな……? 人それぞれだしいいんじゃねぇの」


 鳴いたりすることはないが、ぷるぷると揺れる姿はたしかに癒やされる部分もあるかもしれない。

 クラゲを見るような感覚と似ている。


「じゃあよかった。……さて、帰ってベッド修繕に終止符を打とうか」

「そういや、昨日はどうやって寝たの」


 新のベッドにマユが忍び込むことはなかった。

 床などで寝かせていたら申し訳ないと思ったが、そういうわけでもないようで――。


「徹夜だ。スライムと戯れたり、研究したり、忙しかったから」

「体、大丈夫かよ」

「大丈夫さ。頼むから今度こそ寝かさないでくれよ」


 前回、新がマユの徹夜を知った時は魔法で眠らせてしまった。

 安眠はできたものの、マユ的には不満だったようだ。


「最近さ、自分の善意がどう作用するのかって考えるようになったんだよね……」

「いきなりだな。どうした?」

「いや、アリーゼとクレスとかさ、ギクシャクした人間関係ってあるじゃん。それぞれ善意はあったはずなのに、ちょっとした食い違いで歪んじゃうんだなって」

「……君は君でいろいろ考えているのだな。えらいえらい」


 雑に褒められた気がするが、実際マユのほうが多くのことを思慮していそうだ。

 そんな人生の先輩がアドバイスをしてくれる。


「前にも言ったがな、自分の信じる道へ進むことが重要だ。善意も、それを表す行動も千差万別だからな。もし私たちのことを悪役だと認識する者がいても恨むなよ」


 それもまた、ひとつの正しさだからな――。

 マユが言いかけた時だった。


 轟音ほどではないが、またもやうるさい音が発生する。

 発生より発声だ。


「アラタさぁぁぁぁん! マユさぁぁぁぁぁあん!」

「ク、クレス!?」


 走ってきたのはクレス、とアリーゼ。


「あの、今から、国王城、来てくだ、さい……」


 走ったのだろうか、クレスの息は上がっていた。

 対してアリーゼはそこまで疲れていないように見える。


「国王城……? なんでだよ」

「いや……。ちょっ……。待って……」


 息が上がりすぎてなかなか話せない。

 察したアリーゼが代わりに要件を伝えた。


「悪徳官僚を襲撃し、国王の拾い子を救った『泥棒』。王はそのお方たちと話がしたいそうです」

「いやいやいや! 正体バラすわけにもいかねぇって!」

「王はあくまでも『娘を救った恩人』として接するようですよ。表面上は、ですが……」

「あの、あれです……! お礼もするって、言ってました!」


 クレスはもう国王と話していた。

 しかし、国王から他の二人にも礼がしたいとの要望。


 クレスも二人の素性がバレることを恐れ、粘ったが、結局国王の願いを断りきれずに折れてしまった。

 だが、彼らの家は『魔女の家』と噂になっている。

 居場所を教えれば怪しさが増してしまう。


「――ということで、僕が呼ぶことにしました」

「アリーゼはクレス様の付き添いです」

「……マユ、どうするよ」


 新はマユに意見を求めた。


「むしろこれはチャンスかもしれんぞ。今のうちに徳を積み、いつかは魔王の手下であると公開するのだ。いざとなればレイが説得してくれるだろうし、恩人を即逮捕なんてのも考えにくい」


 マユは乗り気だ。

 クレスもマユも国王面会に賛成となれば、新は従うしかない。


 一般人は立ち入りできないはずの国王城だが、新はこれで二度目となるのだった。

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